第132話 厄介な請負員
「それで、ゴブリン駆除ギルドだったか?」
憑き物が落ちて老けたように見えたが、一瞬にしてギルドマスターの顔に戻った。
書類の山から出てきてオレの前に座った。
お茶を出される立場だが、アポートポーチから五百ミリリットルのミルクティーを出してギルドマスターに差し出すと、秒で飲み干してしまった。どんだけ飢えてたんだよ?
「甘いものが好きなんですね」
「ああ。酒好きに見えるがおれは酒が一滴も飲めないんだよ。菓子ならいくらでも食えるんだがな」
「アルズライズも甘いもの好きでしたが、ここの人は甘党が多いんですか?」
カインゼルさんやゴルクは菓子より酒だったが。
「そう言えば、あの男も菓子が好きだったな。よく第二城壁街まできて菓子を買っていったよ」
ラダリオンが同志と言うだけはある。てか、あの顔でお菓子を買いにこられる店は迷惑だろうよ。
「なら、これをどうぞ。差し入れに持ってきたものです。皆さんで食べてください」
ここは職員が結構な数がいそうだったのでブル○ンのアルフォート千円分を取り寄せた。
「菓子か?」
「ええ。まあ一つどうぞ」
パッケージを破いて小袋を取り出し、開け方を教えた。
「美味いな! こんな菓子、ミレーヌでも売ってないぞ!」
ミレーヌ? 店の名前か?
なんて考えている間に四つも開けて食ってしまうギルドマスター。いや、食いすぎですって! 他の職員に恨まれますよ!
止めるに止めれず一袋食べ尽くしてしまった。ほんと、バレたら酷いことになりますよ。
「──ハッ! あまりの美味さに我を忘れてしまった! これはまだあるか?!」
「ありますよ。足りないときのために倍は買っておきました」
余ればラダリオンが食うだけだしな。
「菓子があるなら売ってくれ。金ならいくらでも出す」
なんか怪しい薬を求められてる気分になるが、求められてるのはお菓子だ。一万円分も渡せばしばらくは……持たない感じだな。と言っても十五日しか保てないんだから一万円分でいいだろう。
ちょっと失礼と断りを入れてセフティーホームにいき、棚から一万円分のお菓子を箱に詰め込み、ミルクティーの箱と一緒に抱えて戻ってきた。
「……魔法か……?」
「魔法です」
そう断言して箱をテーブルの上に置いた。
銀貨二枚をいただき、話をゴブリン駆除ギルドに戻した。ギルドマスターは菓子に手を伸ばして食ってるけど!
「ゴブリン駆除をする者はオレを混ぜて五人。駆除員特権で請負員にした者も混ぜれば十二人。その中には冒険者のミシニーやロンダリオさんたちがいます」
「ミシニーとロンダリオたち? 銀印の冒険者もか」
有名どころはちゃんと把握してるんだな。
「ええ。請負員になればゴブリン駆除報酬がもらえ、特別な品が買えるので喜んで引き受けてくれました」
「それは菓子も買えると言うことか?」
ギルドマスターの目がキランと光った。まさか、請負員になる気か? あなたギルドマスターでしょ!
「買えはしますが、ゴブリンを駆除する時間なんてあるんですか?」
いつきても書類仕事してるでしょ、あなた。
「問題ない。依頼を出してゴブリンを捕まえさせる。兵士の訓練でゴブリンを相手させるときがあるからな」
権力とは恐ろしきかな。お菓子のために出費を考えないとは……。
「本当にやる気、ですか?」
「さすがにゴブリン駆除ギルドに入ることはできないが、冒険者ギルドの後ろ盾が欲しいなら味方は多いほうがいい。だからこそタカトはギルドを敵に回さないよう動いているのだろう?」
差し入れ作戦がバレてる!!
「ドーナツ、だったか? 本部には出さないのか?」
この人、本当に優秀! 支部のことまで把握してるよ!
「ドーナツは高いんですよ。一つ銅貨一枚しますからね。支部に渡すだけでゴブリン二匹は駆除しないといけません。早々できるものではありませんよ」
安いドーナツもあるが、ギルド支部の舌を虜にするにはミスター製がいい。と、ラダリオンが申しておりました。
「必要なら高い金を払ってでもするか。案外、タカトは宮廷官に向いているかもな」
「オレは人間関係で苦しみたくないですよ」
政治とかよくわからんが、要はコミュニケーション能力がものを言う世界。そんな社交性もないオレが飛び込んだらマッハで胃に穴が空くわ。
「そうだな。おれもあんな世界で胃を痛めるくらいならここで書類に囲まれてるほうが遥かにマシだ」
第一城壁の向こうは魔窟らしい。一生かかわらないことを切に願うよ。
「まあ、冒険者ギルドに取り込むには王都の総本部に掛け合う必要はあるが、一冒険者団体として協力体制を築くことは可能だし、各支部への通達や周辺領への根回しもしよう。まあ、タカトの名が知られるとお呼びがかかるかもしれんがな」
「ゴブリンを駆除していくらの商売ですからね。呼ばれたらいきますよ」
下手に閉じ籠っててダメ女神からの干渉とか受けたくない。朝起きて外に出たら最前線でした、とかやりそうだからな、あのダメ女神はよ!
「そのときはおれもいけるよう後継者を育てておこう」
不穏な未来が訪れませんようにと祈りながらギルドマスターを請負員にした。
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