第131話 余計なこと
「おじさん、久しぶり!」
それから露店を見て回り、冒険者ギルドまでもう少しってところで徴税人が現れた。またこいつか……。
なにか身なりが綺麗になった徴税人。以前のボサボサ髪は切り揃えられ、確かに女の子だってのがわかった。なんてこと言ったら顰蹙を買いそうなので黙っておく。
「またお前か。よくこの人混みから見つけやがる」
オレは目の前に現れるまでわからんかったってのによ。
「そんな目立つ格好していたら嫌でも見つけられるよ」
まあ、夏に迷彩柄のポンチョを纏っていたら目立ちもするか。他は灰色率が高いしな。
「貧しき子供たちにお恵みください」
ほんと、完全に強制で百パー恐喝だよ。まあ、それにノーと言えないオレがチキンなんだけど!
銀貨を出して突き出される箱に入れてやった。
「ありがと、おじさん!」
もらうものもらったら立ち去る徴税人。ドライなもんである。ケッ。
「タカト。なんでお金あげるの? あいつら働いてないのに」
「まあ、無能な神への意趣返しだな。お前が救えない者をオレが救ってるぞ、ザマァってな」
本当は罪悪感に勝てないだけだが、少なからず今言った意味もある。人を救うのは人だってな。
「タカト、神が嫌いなの?」
「嫌いだな。人の人生台無しにしてくれたんだからな」
オレは神に祈らないし、助けも求めない。まあ、利用はしてやるが、オレは神を死ぬまで恨んでやるわ。
「ビシャが神に祈るなら好きにしたらいいさ。オレに気を遣うことはない。信じるものを否定する気はないからな」
信じなくちゃやってらんないときはあるものだし、誰かに助けを求めたくなるときもある。人には逃げ道が必要なんだからご自由に、だ。
冒険者ギルドを一旦通りすぎ、そのまま道なりに進んで第三城壁街を一周したら昼になった。
途中、露店で食い物を買って食ったので昼を食う気にはなれんが、カフェテリア(心の目で見たらな)で一休みすることにした。
「疲れたか?」
言葉少なくなり、なんだか縮んだようなビシャに声をかけた。
「……うん。ちょっと……」
感覚が鋭いから人混みに酔ったのかもしれないな。
落ち着けるように缶のココアを出してやり、一時間くらい休んだら冒険者ギルドへ向かった。
相変わらず冒険者ギルドは混んでいたが、オレらが入ってすぐ、若い職員が近づいてきたのに気づいてポンチョの下でMP9をグリップを握った。
「タカト様。ようこそいらっしゃいました。ギルドマスターと面会でしょうか?」
以前のことを学んだようでちゃんと対応してきた。
「ええ。お時間があれば面会をお願いします」
「少々お待ちいただければ面会できると思います。別室でお待ちいただけますか?」
と言うので別室で待たせてもらい、ポンチョを脱ぎ、敵意がないことを示すためにMP9やグロックはリュックサックに仕舞った。
ビシャもポンチョを脱がせ、腰に差したククリナイフを外させた。
待つこと十分。シエイラさんが現れた。
「お待たせしました。ギルドマスターの部屋へどうぞ」
シエイラさんに案内されてギルドマスターの部屋に向かうと、今日も今日とて書類の山に囲まれていた。
……現実のギルドマスターは書類仕事ばかりなんだな……。
「お忙しいところすみません」
「構わんさ。ゴブリン問題がないだけ助かってるからな。あれは本当に厄介なんだよ」
でしょうね。あんな数がいたら。予算で潰れるかゴブリンで潰れるか、究極の選択だな。
「今日はその報告か?」
「いえ。仲間が増えたのでゴブリン駆除ギルドを立ち上げようと思いまして。その相談にきました」
ギルドマスターの目が横にいるビシャに移った。
「ニャーダ族か。また違法奴隷商が出たか。シエイラ。各支部に伝えろ。万が一のときは兵を出させる」
違法奴隷商? って、兵を出させるほどの問題なのか? オレ、狙われたりしない?
「畏まりました」
一礼してシエイラさんが部屋を出ていった。
「まあ、座ってくれ。あ、ミルクティーを売ってくれるか? 前に売ってもらったものがなくなって仕事に集中できんかったんだよ」
それ、禁断症状! 不味いんじゃないですか!?
「あまり甘いものを摂取しすぎると病気になりますよ。もう少し、抑えたほうがいいですよ」
「そうしたいんだがな。ミルクティーを飲まないと頭が働いてくれんのだよ」
まあ、頭を使うと糖分を欲しがるって言うし、あの書類量では仕方がないか。
「今度、サプリ──甘いものを分解してくれる薬を持ってきますよ。病気になられても困りますからね。まあ、よく動いて野菜を摂れば防げるんですけどね」
あれ? 糖尿病予防だっけ? 水を飲めばいいんだっけ? あ、それは痛風になったときだっけ? 曖昧な知識しかなくてごめんなさい。
「それは助かる。まだ死ねないんでな」
「後継者は早目に用意しておいたほうがいいですよ。上が優秀すぎると下は育ちませんし、老いても仕事が逃してくませんよ」
自分にしかできないからと仕事を独占して、抜けたら誰もできなくて大惨事になったことがな。オレはまだ二年目くらいだったから被害はなかったが、その穴を塞ぐために課長が苦労してたっけ。
「まあ、そちら事情を知らない部外者の軽口。笑って流してください」
工場勤務だったオレに冒険者ギルドの事情なんてわかりようもない。部外者が軽口叩いてすみませんだ。
「いや、そうだな。自分しかいないとがんばってきたが、他人に言われて気づいたよ。元気なうちに後継者を育てて老いたらゆっくりしたいもんだ……」
なにか憑き物が落ちたように肩を落とすギルドマスター。もしかしてオレ、余計なこと言っちゃいました?
「……休みを取るか……」
あ、これ、オレの責任になるヤツだ。
なんて予感が現実になることを知るのはもう少し先だった。
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