第130話 ガズ再び
街の周辺を一周するとゴブリンの数が目に見えて減ったのがわかった。
「明日、ギルドマスターのところにいくので、カインゼルさんたちは外周部に移ってください」
一日の終わりのミーティングでそう告げた。
「一人でいくのか?」
「ええ、あの二人を連れていっても仕方がありませんし。なにか不味いですか?」
「いや、そうではないが、街にいくなら二人のほうがよい。危険度で言えば街のほうが高いからな」
あー確かにそうだな。人間の悪意は察知できんし、安全を考えたら一人は危険だわな。
「じゃあ、ビシャを連れていきますか。ギルドマスターに会わせておくのもいいでしょうしね」
獣人を仲間に引き入れるんだからその獣人を見せておくほうが説得力が増す。まだ落ち着きがあるビシャを連れていくとしよう。
「そうだな。ただ、冒険者ギルドにいく前にビシャに街を見せたほうがいいだろう。たくさんの人間には驚くだろうからな。メビは町で慣らさせるよ」
この世界の年長者がいてくれて本当に助かる。オレでは気づかなかったよ。
カインゼルさんの案を取り入れ、ギルドマスターとの話し合いは一日それに充てることにした。
朝になったらミーティングを済ませ、オレとビシャは街へ。カインゼルさん、ラダリオン、メビはミスリムの町へと向かった。
「歩いていくの?」
「ああ。街を探索するからな。パイオニアは邪魔になる」
裏技、かどうかはわからんが、道具は出入りの縛りはなく、どこから入れて出す場所は選ばない。まあ、物によりけり場所によりけりだが、今回は歩きでいくとする。街中でパイオニアを消したら大騒ぎになるだろうからな。
十キロの道のりも今では苦にならなくなったもんだ。朝八時に出て九時前には着けたよ。途中、ゴブリンを五匹駆除したにも関わらずにな。
「……臭い……」
ラダリオンほどではないにしても嗅覚が鋭い。オレでもキツいと思うんだからビシャは相当キツいだろうよ。
気休めでもしないよりはマシと防臭マスクをさせた。あと、犬耳を隠すためにフードを被せさせた。
「まずは街を一周してみるか。離れるなよ。迷子になったらオレには捜し出せないからな」
オレも土地勘はないし、この人の中からビシャを捜し出すなんて不可能。迷子になったら自力でラザニア村に帰れよ。
十時を過ぎてるのに人の往来は多く、いったいなんの仕事をして生きてるんだろうと不思議に思う。
「……ひ、人、多いね……」
ポンチョを強くつかんだビシャが声を震わせながら言ってきた。
「そうだな。我慢できないなら戻るか?」
「だ、大丈夫。人の多さにびっくりしただけだから」
「無理する必要はないんだから酷かったらすぐに言うんだぞ」
どうしても今日中に慣れろってわけじゃない。また今度にすればいいだけだ。
「うん、わかった」
人にぶつからないよう歩いていると、刃物の露店が目に入った。そう言えば、あれからなんとか武具店のガズに会ってないな~って思ってたら、そのガズと目が合ってしまった。
「おお! 久しぶり!」
と、声をかけられた以上、無視するのもなんなので露店に寄ってみた。
「お久しぶりです。前もここでしたっけ?」
もっと南だったような記憶があるんだが。
「いや、月によって場所を変えてるんだよ。馴染みの客があちらこちらにいるんでな」
「繁盛しててなによりです」
「アハハ。そこまでは繁盛してないよ。刃物なんて毎日売れるようなもんじゃないしな。研ぎで稼いでいるものさ」
よく見れば奥に砥石が置いてあり、包丁を研いでいたっぽい。
「タカトがくると思って斧を用意しておいたぜ」
ちゃんと名前を覚えておくとか商売人は凄いこと。
なかなか立派な斧を奥から出してきた。これは買わなくちゃいけない流れか?
「いくらです?」
「銀貨十二枚だ。うちの名工が打ったもので、柄はカカノカの木を使ったものだ。王都なら銀貨二十枚でも売られるものだぜ」
持たせてもらって確かめさせてもらう。うん。よくわからん。
「どうだい?」
「買います。あと、冒険者が使いそうな剣を五本もお願いできますか? うち二本は女性でも使えそうなものだと助かります」
万が一、魔物が襲ってきたとき、巨人たちに防衛してもらう用に買っておくとしよう。帰ってきたら家がなくなってました、は悲しいからな。
「……まさか、さらに買ってくれるとはな。ゴブリン殺しのウワサは本当だったんだな……」
街まで伝わってんのかい! 情報伝達が早いな!
「どんなウワサかは知りませんが、話半分に聞いておくといいですよ。実力的には新米冒険者でしかありませんからね」
「話半分ね。それでもゴブリンを千匹殺したことになる。そんなこと新米冒険者どころか金印の冒険者でも不可能だぜ」
「それは手間を惜しんで報酬が低いからやらないだけでしょう。金印の冒険者が動けばゴブリンの千どころかコラウス辺境伯領にいるゴブリンを根絶やしにできる。オレは金をかけてやっと二千匹。誇れることなんてなにもありませんよ」
アルズライズのような男がゴブリンだけ狩っていけば一年で根絶やしにできるはずだ。そんなのに勝ると言われても苦笑しか出てこんわ。
「オレはゴブリン駆除員。ゴブリンを狩るしか能がない男ですよ」
まあ、ゴブリンを駆除する能力もまともに与えてもらえなかったけどな!
冒険者が使いそうな剣を買い、セフティーホームへと運んだらガズさんに驚かれたが、ゴブリン駆除員だけが使える魔法だと言って誤魔化した。どうせなら荒唐無稽なウワサを流していたほうが真実は隠されるだろうからな。
「そうだ。投げナイフって売ってます?」
「投げナイフ?」
あれ? そう言うのないの? ブーツに仕込めるスローイングナイフを抜いてガズさんに見せた。
「いざってときに投げるナイフです。使えるようになるにはかなり練習しなくちゃなりませんけどね」
オレも練習して三メートルくらいなら当てられるようにはなったぜ。狙ったところ、ではないがな。
「なんだ、この芸術品みたいなナイフは? どこの名工が造ったんだ?」
おそらく工作機械で作ったものだと思いますよ。二千円くらいのものだし。
「ゴブリン駆除員だけが買えるところから買ったので誰が作ったかは知りません。これで開発してください」
金貨を一枚ガズさんに渡した。見本にスローイングナイフもな。
「急ぎではないからゆっくり作ってください。あと、それには消滅の魔法がかけられていて十五日後に消えます。なので、消えても気にしないでください」
「……わかった。これに負けないものを造ろう」
「まあ、そう見事なものは求めてないので投げやすいことを念頭に造ってください。じゃあ、また」
そう言って店をあとにした。
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