第129話 幻聴?

 朝、ミーティングを済ませてゴブリン駆除へ向かった。


 カインゼルさんたちはミスリムの町の南にあるライラルの村へと向かい、オレらは街寄りのミズン地区と呼ばれるところへと向かった。


 ミズン地区はマルキュリと言う豆を生産しているところらしく、春と秋の終わりに収穫するようで、ゴブリンの被害は他より酷くはないそうだ。


 今日はそんなに駆除できないかな? と思ったが、集落の一つにきて部落長さんに話を聞くと、今年の春は相当な被害が出たそうだ。おいおい、情報の行き違いが起きてるぞ。


「今年は冒険者を雇おうと思ってたので、タカト様がきてくれて本当に助かりました。今は人に余裕があるので遠慮なく使ってください」


「わかりました。この周囲の地形を教えてください」


 三十分くらい説明を受け、ゴブリン駆除を開始した。


「ビシャ、メビ。十時まで北側を頼む。あちらにゴブリンが多いんでな」


「わかった! 今日もいっぱい駆除するよ!」


「うん! 今日はハンバーグ食べるんだ!」


 その意気やよし。たが、油断はするなよ。今日も安全第一。命大事にだ。


「では、開始しますので立ち入らないでください」


「わかりました。お願いします」


 オレは南側へと向かった。


 マルキュリと言う豆はじか蒔きで行われているようで、まっすぐ植えてあるわけではない。そのせいで移動は難しいし、ショットガンは使えない。アサルトライフルでも被害が大きそうだ。


「APC9を使うか」


 セフティーホームに戻り、サブマシンガン装備に切り換えてきた。


 膝くらいまでマルキュリが生っているのでゴブリンの姿は見えないが、結構隠れている。収穫はまだ先だと言うのになにを食ってるんだか。


「まあ、なんでもいいわ」


 今日、死んでいくゴブリンの食生活など興味もない。たくさんいてラッキー! って気持ちで駆除していきましょう、だ。


「こんなものか」


 軽く一時間やって十二匹。まずまずと言っておこう。あの二人も二十匹くらいだしな。


 集落に戻り、部落の人たちに片付けをお願いした。


「この少しの間に三十匹以上狩るとは。ウワサは本当だったんですな」


 オレのウワサ、どんだけ広まってんだよ。コラウス辺境伯領にきて二、三月だってのに。


「昼までもっと駆除するので深い穴を掘っていてください」


 この一時間でゴブリンは西と南に分かれた。オレだけでも三十匹以上は駆除できるだろうよ。


「わかりました。深いのを掘っておきますよ」


 部落長さんも意気やよし、である。


 三十分休んだら再開し、昼までに三人で八十匹を駆除することができた。


「……百匹以上か……」


 ほんと、このまま駆除しなかったら秋も被害が出ていたな。いや、被害甚大か。冬を越せなかったかもしれんぞ……。


「部落長さん。午後からはバズ村のほうに移動しようと思うんですが、あちらに連絡してもらえますか?」


「もうゴブリンは狩り尽くしたのですか!?」


「いや、ゴブリンがいっきにいなくなると他から流れてくる恐れがあります。あるていど駆除して他に移動し、少しずつ駆除していくほうがより多く駆除できるんですよ」


 地面にコラウス辺境伯領の地図を描いてゴブリン駆除の計画を話した。


「街を一周したら外周部に移り、少しずつ、ですが、確実にゴブリンを駆除していきます。秋までには相当量のゴブリンを駆除できるでしょう」


 コラウス辺境伯領から追い出したら山へと入ってゴブリンを集めていっきに駆除する、って計画を立てているが、一寸先は闇。予定は未定。河童の川流れ。どうなるかは神のみぞ……知らないか。何度も失敗してるんだからな……。


「ゴブリン殺しに偽りなし、ですな」


「なかなかどうして上手くいくことなんてないですよ。変な横やりが入ったり、凶悪な魔物が出たりと、順調なときこそ警戒しませんとね」


「そうですな。わしらも秋まで油断しないよう心がけます」


「ええ、災難は油断したときにやってきますからね」


 そのときのために備える。それしかないのだから一喜一憂するな、だ。


 部落長さんが下がったら昼飯とし、一時過ぎに教えてもらった集落に向かった。


「ん? 笛の音?」


 どこからか笛の音が流れてきた。


「笛の音? そんなの聞こえないよ? メビ、聞こえる?」


「ううん、聞こえないよ」


 え? 二人には聞こえない? 幻聴か? 昨日の酒は完全に消えてるぞ。


「あれ? 聞こえなくなった。風が吹いただけか?」


 いかんな。寝ぼけてるのかもしれん。集落に着く前に水でも被って活を入れておくか。


 パイオニア二号を停め、セフティーホームに戻って冷たい水で顔を洗ってきた。


 笛の音のようなものは聞こえない。やはり寝ぼけていたようだ。鳥の鳴き声がするだしか聞こえんよ。


「タカト、大丈夫?」


「ああ、大丈夫だ。さっぱりしたし、気合いも入った。午後もしっかり駆除するぞ」


 パイオニアに乗り込み、集落へと向かい、午後も百五十匹以上駆除できた。一日で約二百五十匹。カインゼルさんたちと合計すれば五百匹。どんだけいんだよ! とは突っ込んだが、もう今さら。明日もがんばろうっと。

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