第128話 光の神

 今日の儲け、八十五万円也~。うん。相変わらず人類滅亡を感じる数である。


「なんでこんなにいるんだよ?」


 一日で二百匹以上駆除するとか明らかに異常事態である。なにか理由がなければ人類滅亡まっしぐらだわ。


 とは言え、その謎に挑む余裕はオレになし。駆除していくのが精一杯。魔王の配下が暗躍してないことを切に願うだけである。


「村長。大変でしょうが、ゴブリンの死体の片付けをお願いします」


「ええ。お任せください。死体を片付けるくらいなんでもありませんよ」


 そう言ってもらえて助かるよ。数が数だし、一日二日はかかるだろうにな。


「明日は街の近くにいこうと思うのですが、あちらもゴブリンの被害は出てますかね?」


 ゴブリンをいっきに駆除すると他からゴブリンが流れてくる恐れがあるし、街のほうに逃げていったのも何十匹といた。山は危険だから街側を攻めてみようと思うのだ。


「ええ。もう少しでマルキュリが収穫時期になるので冒険者を雇おうかと悩んでいることでしょう」


 マルキュリ? どんな作物だ?


「そちらに村はあるので?」


「村はありません。五軒ほどの集落が点在しています」


 街の周りは集落になって、十キロくらい離れると村ができるのかな?


「若い者を走らせてタカト様のことを伝えておきますよ」


「いいんですか? 死体の片付けもあるでしょうに」


「構いませんよ。ゴブリンが減ってくれれば秋が楽になりますからな」


 それなら村長のご厚意に甘えて伝えてもらうことにした。


 パイオニア二号に乗り込み、うちへ帰ることにする。


 うちに着くと、カインゼルさんとラダリオンが帰っており、荷物を降ろしているところだった。


「そちらも結構な数を駆除したみたいですね」


「ああ。まったく、どこから集まってくるのやら。これまでよく滅びなかったと怖くなったよ」


 カインゼルさんもオレと同じことを思ってたようだ。


「なにか原因はあるのでしょうが、探る手立てもありませんしね。今はゴブリン駆除に専念しましょう」


「そうだな。稼げるときに稼いでおくとしよう」


「ですね」


 手立てがないのだから考えるだけ無駄。自分たちにできることをしましょう、だ。


「汗を流したら明日のミーティングをしましょうか。ラダリオン。お湯を持ってきてくれ」


 まだビシャとメビの家は建設途中だが、風呂場はできていた。まあ、湯船を置いて屋根と壁があるだけのものだが、汗を流すには充分である。


「わしもゴルグにサウナを作ってもらうかな。仕事終わりに入りたいよ」


 サウナ文化なせいか、カインゼルさんは風呂に入ったりせず、サウナで汗を流すほうがさっぱりするそうだ。


 シャワーを浴び、夕飯の用意をしてからカインゼルさんの家に向かい、ビールを飲みながら二人でミーティングをする。


 まあ、ほとんど飲み会になってしまってるが、これも飲みニケーション。美味い酒を飲んで理解し合い、明日を生きる鋭気を養いましょう、だ。


 八時くらいには解散し、セフティーホームに戻った。


「タカト、お酒臭い。シャワー浴びて」


 お子様なラダリオンには酒のよさがわからないようで、腰の辺りをつかまれてユニットバスへと押し込まれてしまった。


「早く個人の部屋を作らないとセフティーホームから追い出されそうだな」


 熱いシャワーを浴びて酒の臭いを流してさっぱりさせた。


「タカトさん。今日、行商人のダインさんが訪ねてきて、これを注文していきました」


 ミリエルから紙を渡されたが、書いてる文字がわからない。なんて書いてあんだ?


「ミリエルは字を読めるのか? オレ、ここら辺の文字知らないんだ」


 まったく、気の利かないダメ女神である。言葉だけじゃなく文字も読めるようにしとけってんだ!


「大陸語が読めないんですか?」


 大陸語? ここ、大陸なんだ。


「あ、そう言えばミリエルには言ってなかったな。オレは別の世界からダメ女神に因って連れてこられたんだよ。ゴブリンを駆除しろってな」


 ダメ女神からのアナウンスは聞こえただろうが、それが誰の声か教えてなかったよ。


「タ、タカトさんは勇者なのですか!?」


「ラダリオンにも言われたが、オレは勇者じゃなくゴブリン駆除員だよ。てか、勇者はダメ女神から召喚されるものなのか?」


「あ、いえ、ダメ女神ではなく、光の神であるマリーサ様が遣わした光の導き手。敬意を込めてわたしたちは勇者と呼んでいます」


 ダメ女神とは違うのか? あ、そう言えば、関係ない神が広まっているとか言ってた記憶がある。


「とにかく、オレは勇者に選ばれることがないくらい弱いからゴブリン駆除を強制的にやらされてる、ただの臆病な男さ。敬われる存在じゃないよ」


 まあ、強かったとしても勇者とかゴメンであるし、敬われたいとも思わない。普通に生きていけたらそれでよかった普通の男だよ。


「悪いな。ミリエルなら勇者についても不思議じゃない力を持ってるのに、オレなんかの仲間にしてしまって」


 勇者なら神の力で失った脚も回復させれるだろうが、オレには薬を与えるのが精一杯。横からかっさらったようで申し訳ないよ。


「いいえ! タカトさんの仲間になれてよかったです! 見も知らない勇者ではなく、タカトさんの仲間になれたことをわたしは誇りに思います!」


 それは吊り橋効果ってヤツだろう。いつかその効果は消え去るさ。


「ああ。ありがとな。そう力まなくていいよ。それより、なんて書いてあるか教えてくれるか?」


 ミリエルにかかった魔法が消える前に、大陸語とやらをマスターしておくとしよう。

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