第127話 サーチ&デストロイ
オレらが向かう場所は、街から見て北。リハルの町との間にあるマルセ地区で葡萄畑が広がるところだ。
マルセ地区は以前いったロブル地区と隣合わせのところで、こちらもゴブリンの被害に苦しんでいるとのことらしい。
ここを選んだのはカインゼルさんで、ビシャとメビの機動力を活かすにはちょうどいいんじゃないかってことだ。
主要道を二十分くらい走ると、高台にあるミヨンド村が見えてきた。
村に入り、村の人に声をかけて村長に合わせてもらった。
「ゴブリン殺しのタカト様ですね。バズ村の村長から聞いています」
隣合わせのところだから伝わっているだろうな~とは思ってたが、まさかゴブリン殺しまで伝わっているとは思わなかったよ。
「そうですか。それなら話が早くて助かります。この辺りでゴブリンを駆除しようと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんです! ゴブリンには毎年苦しめられてますからな、狩っていただけるのならありがたい限りです」
協力的でなにより。こう言うところばかりだと助かるんだがな。
「威力の強い武器を使うので人は立ち入らないでください。当たったら洒落になりませんので」
「わかりました。村の者にはしっかり伝えておきます」
スケッチブックを出し、ミヨンド村の周辺のことを教えてもらい、ゴブリンがよく出る場所を教えてもらった。
他にも道も教えてもらい、ゴブリンが隠れそうな場所とか小屋とかも細かく聞き出した。
「随分と細かく聞くんですな?」
「ゴブリン以外が出たときのためです。この辺にもゴブリン以外の魔物がでるのでしょう?」
ここも山と言えば山だ。山を伝わって魔物が現れるはず。そのとき逃げる方向、隠れる場所、ビシャとメビとはぐれたときを考えておかないと全滅ってこともある。そのリスクを減らすためにもよく聞いておく必要があるのだ。
「ええ。熊がたまに出ます。夜に現れるので村の者に被害は出てませんが」
熊か。一応、熊よけスプレーも持っておこうっと。
「では、村の北から始めます。午前中は近寄らないでください」
パイオニアで北側に向かい、ミーティングをしてから開始する。
「かなりの数がいるな~」
相変わらず姿は見えないが、ゴブリンの気配はあちらこちらにある。これじゃロブル地区も増えてるかもしれんな~。
「ビシャ、メビ。ゴブリンの臭いはわかるか?」
「うん。わかるよ」
「いっぱいいるね」
さすが犬の獣人。嗅覚が鋭いこと。
「まずはオレの背後について銃の音に慣れろ」
頭の上にある耳ではなく、人間と同じく横についてるが、犬耳なのでイヤーマフはつけられない。柔らかい耳栓で堪えてくれ。
「わかった」
ビシャが答え、メビが了解と頷いた。
ベネリM4に弾を装填し、近くのゴブリンに向けて引き金を引いた。
「お? こちらのゴブリンは逃げるのかよ」
ロブル地区にいたゴブリンは隠れたままだったのにな。種類が違うのか?
まあ、逃げたところでオレの察知範囲から逃げるわけではない。三十メートルくらいの距離からゴブリンを狙っていった。
十時くらいまでに四十三匹も駆除できた。幸先よくて笑いが出そうだぜ。
「少し休憩したら二人にもゴブリン駆除をやってもらうが、百メートル以上は離れるな。常にオレの位置を把握すること。もし、オレを見失ったら笛を吹いてその場から動かないこと。いいな?」
何回も言ったことだが、大事なことなので何度でも言う。
「わかった」
「うん」
「よし。火薬の臭いが満ちてるが、ゴブリンの臭いはわかるか?」
「大丈夫。ゴブリンの臭いは独特だからわかる」
「あたしもわかるよ」
火薬の臭いにも負けぬゴブリンの臭い。どんだけだよ?
「じゃあ、ビシャは右。メビは左だ。いけ!」
二人が頷き、ククリナイフを抜いて駆け出していった。
すぐにビシャ側のゴブリンの気配がなくなり、少し遅れてメビ側のゴブリンの気配もなくなった。躊躇いまるでナッシング。サーチ&デストロイを行っていた。
「……獣人、おっかねー……」
まだ子供の二人がこれなら大人の獣人どんだけだよ? ニャーダ族を滅ぼした奴隷狩り、バケモノかよ。この世界、どんだけパワーバランスが崩れてんだよ!
昼までに三十五匹を駆除するとか、獣人に恨まれないよう二人に優しくしておこうっと。
昼飯の前に村長へ報告。後片付けをお願いした。
午後からは東側を予定して移動し、昼飯とする。
「請負員カードで昼飯を買ってみろ」
二人を仲間にはしたが、すべてを面倒見てやるつもりはない。自分の食い扶持は自分で稼げ。自分の力で生きていけ。いつオレから離れても大丈夫なように、な。
「あたし、トンカツサンドにする!」
「あたしは、テリヤキチキンバーガーにする!」
姉妹とは言え、味の好みは違うようだ。ビシャは豚肉。メビは鶏肉を好んでいる。お菓子の好みは同じでよくケンカしてるけど。
「美味いか?」
「うん、美味しい!」
「美味しいよ!」
笑顔で食べる二人に笑みが零れる。ラダリオンは表情に出さないからなほっこりする。あいつは美味しいと饒舌になるからな……。
「その美味さを忘れるなよ。それは自分で稼いだ美味さなんだから」
説教臭くて自分でも嫌になるが、まだ幼い二人に教えておかないと碌な大人にならないし、大人の責任として教えなければならない。これから一緒にやっていく仲でもあるんだからな。
「命あってこそ美味いものが食える。驕らず、慎重に、己の力を理解してゴブリンを駆除するんだぞ」
二人にどこまで届いているかわからないが、やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、である。研修期間に何十回と復唱させられたが、そのあとの言葉は忘れてしまいました。ごめんなさい。
「いっぱい食うのもいいが、動けないくらい食うなよ。まだまだゴブリンはいるんだからな」
「わかった!」
「午後もいっぱい駆除する!」
うんと頷いて、オレもホットドッグを食べ始めた。
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