第203話 マスター

 午後になってダインさんが馬車を連ねてやってきた。


「随分と運んできましたね」


 馬車四台とか、なにをそんなに持ってきたのよ?


「はい。ここに支店を置かしてもらおうかと思いまして。その荷物です」


 支店? あなた、店を持たない行商人でしたよね? 密かに隠し持ってたんですか?


「実はライダンドでの儲けでミスリムの町に店を持てるようになりました。と言っても小さな店なんですがね」


 塩でそんなに儲けられるものなのか? あれって公務みたいなもんだったんだろう? 予算とか決まってんじゃないの? よく知らんけど。


 まあ、この人はコラウスの工作員みたいな人。オレを監視するために近くにいるよう命令でもされたんだろうさ。


「こちらとしてはいろいろ仕入れてくれる人がいるのはありがたい限りです。ただ、支店はそちらで用意してくださいね」


「もちろんです。タカトさんとはいい商売がしたいですからね」


 思惑がだだ漏れだな。いや、出してきた、ってのが正しいか? もしかして牽制されてるのだろうか? 


「そうですね。お互い、儲けられるような関係になりましょう」


 まあ、なんだっていいさ。ダインさんにはギルド運営資金を稼ぐ手立てとなってもらうんだからな。利害が一致したと納得しておこう。


「詳しいことはシエイラと話し合ってください。オレはゴブリンを駆除しないとギルドが回せませんからね」


「シエイラさんですか。あの女性を使うんですから尊敬しますよ。わたしだったら全力で拒否しますね」


 オレだってできることなら拒否したかったよ。だが、ギルドを立ち上げて、運営するにはあのくらい強烈な性格じゃないとダメだろう。まあ、手綱が取れないときはギルドマスターを召喚したらいいさ。あの人はちゃんと手綱を握っていたようだからな。


 領主代理の関係者ってことを示すように支店の土地は確保してあり、巨人に建てるようお願いしているとのこと。完成するまでは馬車に寝泊まりして、露店を建てて商売するそうだ。


 まあ、そちらはそちらに任せるとして、さっそく酒の買いつけをするダインさん。ライダンドにいってる間に消費されて注文が殺到してるんだってさ。


「日本酒ばかりですね? そんなに人気なんですか?」


 オレはまだ日本酒の美味さを理解してない。勧められたら飲むが、好んでは飲まない。オレはビール、ウイスキー、ワイン、焼酎の順で好きなのだ。


「ええ。水のように澄んでいるのにとても味わい深い。冷やしても温めても美味い。旦那さん連中はニホン酒に取り憑かれてます」


 見た目的にウイスキーかワインを飲みそうなのに、日本酒を好むとか異世界人の舌はどうなってんだろうな?


「じゃあ、他の種類も出しておきますね」


 オレの知っている日本酒を出していたが、吟醸酒や大吟醸、純米酒と分けて出してやるか。まあ、値段が高くなるが、取り憑かれてるってなら文句は言わず買ってくれるだろうよ。

 

「いろいろあるんですね」


「ええ。オレもそれほど詳しくはないですが、配合や工程が違うみたいですね。飲み比べするのもいいと思いますよ」


 ギルド活動資金にご協力をお願いします、だ。


「十五日で消えてしまうのが残念です」


「そうですね。オレもそう思いますよ」


 せめて任意のものは十五日縛りを解いて欲しいよ。パレットいっぱいに買った5.56㎜弾(マガジン入り)を消さないようにするのが面倒でたまらないよ。


「まあ、こまめに買ってこまめに運んでください。領内ならそう時間もかからないでしょうからね」


 主要な客は街だろうし、こまめに配達すれば十五日縛りもそう苦ではないだろうさ。


 銀貨三十枚を受け取り、館へ戻る。


「タカトさん。いえ、マスター。今し方リハルの町から使いがきてまたマーヌが出たので狩って欲しいと言ってきました」


 館に入るなり職員の一人がそんなことを言ってきた。オレ、マスターって呼ばれるの?


「支部長のミズホさんからの依頼ですか?」


 使いだろう冒険者を見ながら尋ねた。


「はい。支部長からの依頼です」


 それを示すものは持ってこなかったみたいだが、まあ、ゴブリン駆除ギルドは冒険者ギルドの下部組織。お呼びがかかったら喜んで出るまでだ。


「わかりました。すぐにいきます。カインゼルさんを呼んできてください」


 職員に呼んできてもらい、ミズホさんからの依頼を伝え、ビシャとメビを連れて出てもらうことにする。オレはまだやることがあるんでな。


「手間がかかるようならリハルの町に泊まってください。面倒でもかかった金はあとで職員に報告してください。出張費を払いますんで」


「組織化するのも良し悪しだな」


「まったくです」


 これまでのようにどんぶり勘定とはいかない。サポートする人らの給料を払わなくちゃならないんだからな。不平が出ないようにしていかないとならんのよ。


「あ、魔石があったら取ってきてください。運営資金にしますんで」


 ゴブリンから取れる命の魔石は教会に売れる。募金した分は魔石の価格に上乗せして返してもらうぜ。


「了解だ。ビシャ、メビ、いくぞ」


「うん! いっぱいいるといいね!」


「いってきまーす!」


 我が請負員はやる気満々でなによりだ。


「タカトさん。宿舎のことで親方さんが話したいそうです」


 オレもさっさと館のことを終わらせてゴブリン大駆除作戦に取りかからないとな。

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