第202話 やってきた職員たち
朝になり、領主代理からすぐにゴブリンを殺したいと申し出があった。
なにも爽やかな朝からやることなくね? とは思いはしたが、領主代理は戦いに身を置いていた人。血生臭いことに抵抗はないのだろう。
まずは朝飯を食ってからってことにし、その間にミリエルらに用意を調えておくようお願いした。
朝飯が終われば本当にすぐ席を立ち、外に出て並べられたゴブリンを表情一つ変えることなく首を跳ねていった。
……素人でもわかる。領主代理、金印並みの実力者だ……。
「これだけ倒して十万ちょっとか。数日しか持たんな」
オレなら十万あれば一月は暮らせる自信はあるのに、ブルジョワには十万円ははした金のようだ。あぁ、十万円で四苦八苦してたあの頃が懐かしいぜ……。
兵士に手伝ってもらい、ゴブリンの死体を穴に捨て、すぐに埋めた。
……遠い未来、ここから大量のゴブリンの骨が出たら大騒ぎになるだろうな……。
「恨むならお前らを適当に創造したダメ女神を恨むんだな」
あ、オレの枕元に立たれても自責の念に駆られることはないから立つだけ無駄だよ。その恨みはダメ女神にぶつけろな。陰ながら応援するからよ。
「また捕まえたら買わしてもらうよ」
汚れた剣をボロ切れで拭い、鞘に戻したらこれで終わりと帰り支度に入る領主代理。呆れるくらい颯爽としているよ。
二十分もしないで領主代理一行が去り、入れ替わるようにシエイラ一行がやってきた。
シエイラが連れてきた人数は十名。男は四人、女は六人だ。年齢はバラバラだが、よく教育されてるようで身だしなみもしっかりしており、二列に並んでオレと向かい合った。
「随分と優秀そうな人たちを連れてきましたね。この人たちが抜けた穴、大丈夫なので?」
こちらとしては助かるが、変な恨みは買いたくないよ。
「問題ありません。円満に引き抜きましたから」
引き抜いたんだ。まあ、無理矢理でないのなら構わないけどさ。
「とりあえず、部屋割りは任せる。オレはあそこの家を使ってるからな」
館の部屋を使おうかと思ったが、せっかく建ててくれた家を使わないのももったいない。しばらくは使っていこう。
「しばらくはシエイラが館長として采配してくれ。と言っても請負員が少ないんで、館の管理や周囲の手入れになるけどな」
「わかりました。とりあえずは生活環境を築くよう進めますね」
「ああ。これは当分の活動資金だ」
金貨二枚と銀貨三十枚を渡した。あ、ゴブリンを売った代金も。
「オレはここの税法とかよくわからんから任せる。あと、各自の給金だが、冒険者ギルドと同じくらいにしてくれ。住むところと食事はギルドが出すってことにしてくれ」
「随分と破格な待遇ですね。資金は大丈夫なのですか?」
「そこは問題ない。商売をするから。料理人は連れてきたか?」
「はい。ジョフ、ミルラ」
と、三十歳くらいの男女が前に出た。
「料理人として雇った夫婦です。小さな店をやっていましたが、資金繰りに苦心していたので今回のことに誘いました」
「よ、よろしくお願いします!」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします。美味しいものを作ってください」
食材は現地調達するとして、調味料類はオレが出す。単調なメニューにはならないはずだ。
「そうだ。ダインさんって呼べますかね? 生活に必要なものを運んできてくれる業者になってもらいたいんですよね」
ラザニア村に店はなく、ミスリムの町も街も遠い。気軽にいける距離じゃない。持ってきてくれる業者がいないと生活できないだろうよ。
「ダインには話は通してあります。午後には必要なものを運んできてくれるでしょう」
まったく優秀な女性だよ。厄介なのは玉に瑕だけど。
「とりあえず、館の案内をします」
いや、館のこと知らないオレが案内とかおこがましいんだが、責任者はオレなんだから学びながら指示を出していくしかないのだよ。
館の一階は町の冒険者ギルドと同じ造りで、正面から見て右側に職員の部屋。左側に応接室と会議室的な大部屋がある。
これを巨人が造ったんだから凄いよな。巨人の手と言うのは凄いもんだと痛感させられるよ。
二階は各個人の部屋で、一応二人部屋で造られているが、夫婦以外は一人一部屋──で収まらないので、職員以外の者は宿舎に移ってもらうことにした。
あれこれとやってたら昼となり、館の食堂で食事にする。
もちろん、こんなときはホテルの朝食ビュッフェ。昼なのに? とかは言わないで。昼食ビュッフェだと量が凄まじくなるんだよ。テーブルに置き切れないわ。
「凄いご馳走ですね?」
「今日は特別です。ゴブリンが大量に駆除できたらまた出しますからしっかり働いてください。あ、ジョフさんとミルラさんはこの味を覚えてください。まあ、ここまで、とは要求しませんが、この味に近づけるよう努力してください」
申し訳ないが、味覚はオレたちに合わせてもらいます。しっかり食べないとゴブリン駆除ができないからな。
味が合うかな? との心配も杞憂に終わり、皆喜んで食べており、料理人の夫婦も真剣な顔で味わっていた。これならオレの味覚に合わせて作ってくれそうだな。
食後にドーナツでも出してやるか。
そう考えながらオレも料理に手を伸ばした。
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