第261話 横丁

「ワイニーズだ! 逃げろ!」


 領都への出入りはそれなりにあり、オレたちに気づいた領民が不審がっていたのでミシニーが叫んだ。


 ここではいつものことなのか、そうパニックになることはなく、領民は一目散に城壁に向かって走り出した。


「タカト! くるよ!」


 何気に視力がいいラダリオン。オレにはまだ点にしか見えないよ。


「止まれ! ミシニーはシエイラを守れ! ロズはライトだ。ワイニーズの視力を潰せ!」


 ワイニーズが目で獲物を認識しているなら九千ルーメン攻撃は効くはずだ。


「ラダリオン。万が一のときは元に戻れ」


 マイヤー男爵領でラダリオンが巨人であることを隠しておきたいが、命が失われそうなときに出し惜しみしていられない。まずは生き残れ、だ。


「くる!」


 こちらが警戒していることは見えているだろうに、それでも突っ込んでくるとは。エサに困っているのか、はたまた凶悪なだけか。適当生産に慈悲はなし、だ。


 降下してくるのは一匹。いや、後ろにもいるな。連続で襲ってくる気か?


 ロズが九千ルーメン攻撃によりワイニーズが咄嗟に反転した。


 ──チートタイム、スタート!


 大地を強く蹴ってジャンプ。反転したワイニーズの胴体に一発。体を捻って背後にいたワイニーズの頭に一発。重力に従い落下するが、地面に水を集めて落下の威力を殺して着地した。


 ……竜に対抗する手段を考えててよかったぜ……。


 チートタイム停止とともに水は弾け、バランスを崩して尻餅ついてしまった。いてて……。


「旦那、大丈夫か?」


「大丈夫だ! ワイニーズは?」


「ミシニーの姐さんが止めを刺した。二匹は逃げた」


 仲間を置いて逃げるとはしょせん獣か。いや、恐竜か? まあ、撃退できたのならなんでもいいさ。チートタイムも二分以上は残ってるしな。


「マスター。早く体を拭かないと」


「これくらいなら大丈夫だ」


 水を手のひらに集めてポイ。バケツ一杯分の水ならもう自由自在さ。


「タカト。兵士がくる」


「わたしが対応します」


 冒険者ギルドで身につけた対人スキル? 交渉スキル? で、兵士たちを丸め込め、ワイニーズの魔石はこちらに。残りはマイヤー男爵領に渡すことで場を収めた。


 男爵とご対面、とはならないか。まあ、身分のある者が一介の冒険者と早々に会ったりしないか。すぐに情報が上に上がるとも思えないしな。


「シエイラ、ありがとな。面倒事にならずに済んだよ」


「役に立てたのなら幸いですわ」


 フフと笑うシエイラ。こいつとは言い合いは避けておこう。負ける未来しか見えないわ……。


「タカト。カインゼルだ」


 騒ぎを聞きつけてか、カインゼルさんがやってきた。


「無事か?」


「ええ、大丈夫です」


「よかった。まずは場所を移そう」


 と言うことで領都に入った。ワイニーズのことで入領税? は免除されました。


 カインゼルさんの先導で向かった先は高級な宿で、オレたちの貸し切りみたいな感じだった。


「よくこんな高級宿が取れましたね?」


「冬は閑散としているからな。金を弾ませて貸し切りにした」


 まあ、現地の金はある。あり余っている。貸し切りしたところで懐が痛むことはないし、カインゼルさんには充分な金を渡してある。これを期に定宿にしておこう。


 一旦食堂に集まり、お互いの状況を話し合った。


「相変わらず問題に出くわすな」


 カインゼルさんの苦笑に肩を竦めてみせた。


「きっと女神の呪いですよ」


 でなければオレの運が悪いってことになる。いや、女神に選ばれた時点で運が悪いか……。


「魔石屋はまだやってますかね?」


 明日も朝に出発したい。魔石屋には今日中にいっておきたいのだ。


「ああ。冒険者ギルドから請負されているところでもあるので遅くまでやっているそうだ」


 へー。冒険者ギルドも請負とかさせるんだ。ってか、なんで冒険者ギルドがないんだ? どこにでもあるもんじゃないのか?


 全員でいくこともないのでオレ、カインゼルさんの二人でいくことにした。他は休んでなさい。


 領都自体が小さく、マルスの町くらいしかないのでマイセンズ魔石屋は三分も歩かずに到着? 路地裏っぽい通路を入ったらなんとか横丁みたいなに小店が並んでいた。


「ここは、マイズ一家と言う筋ものが牛耳っているそうだ」


 反社会的組織と関わるのはごめんなんですけど。


 カインゼルさんは臆することなく横丁に入っていき、しょうがないのでオレも続いた。


 時間的にまだ酒を飲む時間じゃないので人の往来はそれほどなく、柄の悪いヤツもいない。ここ、ちゃんとやっていけてるのか?


「ここだ」


 カインゼルさんが指差したのは六畳ほどの広さしかなく、店の半分を塞ぐようにカウンターがあり、奥に色取り取りの魔石が並んでいた。


 ……いろんな魔石があるもんなんだな……。


 色だけじゃなく形も大きさも千差万別。三角形のやいびつなもの。拳くらいあるもの。この世界、魔物じゃなく人間が害悪なんじゃなかろうか?


「いらっしゃい」


 なんか怪しい占い師みたいな老婆がどこからか出てきて、カウンターに立った。メッチャぼったくりの臭いがするー!


「カインゼルさん?」


「大丈夫だ。怪しいのは見た目だけだ」


 あ、カインゼルさんも怪しいと思ったのね。オレだけじゃなくてよかった~。


「ヒヒッ。怪しくて悪かったね。魔石の買取りならさっさとだしな」


 呪われる前に魔石が入った革袋をカウンターに置いた。

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