第260話 マイヤー男爵領
カインゼルさんたちが出発してから二日後の朝九時に出発した。
パイオニア二号の運転はシエイラ。案内役のミシニーが助手席に。後部席にはラダリオンとロズ。そのあとを追うようにKLXを運転するオレが続いた。
マイヤー男爵領にいくには、ミスリムの町から続く街道を東に走ることになる。
この街道は王都にも続くそうなので、道は堅く踏み均され、田舎の未舗装な道くらいにはなっていた。
もう冬と言っていいので隊商や旅人はおらず、魔物の襲撃もない。まあ、ゴブリンの気配はちらほらと感じるが、進みは順調であった。
ミシニーの話では馬車で約二日。峠があるのでその前で休み、日の出とともに出て越えて、そのままマイヤー男爵領に入るそうだ。
まあ、入ると言ってもいきなり領都に着くってわけじゃなく、マイヤー男爵領の村に着いたことでマイヤー男爵領に入ったってことになるそうだ。
オレらは大体時速三十から四十キロの間で走っていたので、峠も関係なく昼前には村に到着。隊商が使う広場でトイレタイムとした。
冒険者たるミシニーは岩陰ですることも平気だが、街くらしのシエイラには厳しいので、ワンタッチテントを立ててやり、簡易トイレを置いてやった。
昼には早いが、そう急ぐ駆除ではない。昼をここで摂ることにした。
ラダリオンに昼の用意を頼み、オレは地図を制作をする。
コラウスから街道は一本道ではあるが、まっすぐってことはなく、東と言ってもやや南にズレていた。
距離も約十七キロ。ライダンド伯爵領にいくより遥かに近い。こちらの街道を利用して王都にいくのもよくわかると言うものだ。
「ここ、なんて村だ?」
村があることは聞いてたが、小さい村としか聞いてなかったよ。
「コレソン村ですよ。小さいので冒険者ギルドはありません」
とはシエイラ。街道沿いにある休憩所的な村ってことらしい。
スケッチブックにコレソン村と書き、デジカメを出して周辺を録画で収めた。
「ロズ。少し手伝ってくれ。村を見る」
ドワーフが歩いてどれだけ注目を浴びるかを知りたいのだ。
「不快な思いをさせたらすまない。他種族を嫌う境界線がどこか知りたいんでな」
それでドワーフをどこまで活動させるかを決めたいのだ。
「構いません。見下されるのは慣れてますんで」
マガルスク王国でドワーフは奴隷以下。家畜扱いされてたそうだ。
「世界が違えど人間は差別しないと生きていけんのかね? アホらしい」
働いていた工場にも外国の研修生を嫌ってたヤツがいたっけ。別に犯罪をしているわけじゃないんだから嫌う必要もなかろうに。オレには理解できんよ。
村に入ると、村人らしき者らがこちらを見てきた。ってか、オレを見てる。
「こんな変な装備してたらオレのほうが気になるか」
うーん。冒険者らしい格好にするんだった。TPOを間違えたな。
「旦那、わし一人で歩いてきますよ」
「ああ頼む。だが、無理する必要はないからな。不快になったら戻ってこいよ」
ロズを不快にしてまで知りたいことじゃないからな。
「わかりやした。石でも投げられたら逃げ出しますよ」
石まで投げられるんだ。マガルスク王国、クソだな。
村の様子はロズに任せ、オレは村を録画してからを戻った。
「随分と細かく記録するんだな」
録画デジカメの映像を不思議そうに観るミシニー。今度、写真に収めてプリントアウトしてやるか。
「情報は武器だからな。収集できるときに収集しておくんだよ」
いつまでもコラウスに閉じ籠ってはいられない。また女神からの強制命令が下るかもしれないのだ、外のことをなにも知らないではどんな厄介事に転ばされるかわかったもんじゃない。危険なものは事前に知っておくべきだ。
ロズが戻ってきたので村の様子を聞き、シエイラにも記録してもらってホームに運んだ。
「ミサロ。これを館に頼むよ」
今日は肉じゃがを極めんとしようとしているミサロさん。今日こそ夜は肉じゃがに決定だな……。
「わかったわ。あ、夜は肉じゃがを使ったカレーにするから」
なんか主婦の知恵、みたいなのが芽生えてんな。まだ十七歳だってのに。
「あ、ああ。楽しみにしてるよ」
外に出たら片付けを済ませ、出発する。
コレソン村から領都までは近いそうで、二十分もしないで領都が見えてきた。近っ!?
「ここから歩いていこう」
一日の移動にはならないとは思ってたが、まさか十四時になる前に着くとは思わなかった。
人類の叡知をホームに戻し、オレとラダリオン、シエイラは灰色のポンチョを纏った。
「ミシニー。先導を頼む。ロズは最後尾だ」
マイヤー男爵領ではドワーフは珍しい種族のようで、コレソン村では注目されたそうだ。
マイヤー男爵領の領都も城壁都市であり、魔物の襲来を懸念してか壁が高い。バリスタみたいなのが設置してあった。
「なにか空を飛ぶ魔物がいるのか?」
「ワイニーズがたまに現れるのよ」
ワイニーズ? なんだ?
「竜の亜種だな。よく人が狙われるんだよ」
「──いた。四匹!」
いつの間にかSCAR−Lを空に向け、スコープを覗いていたラダリオンが声を上げた。
オレもすぐにP90を空に向けた──けど、ゴブリン用なのでワイニーズは黒い点にしか見えなかったので、単眼鏡を出して覗いた。
「……プテラノドンだな……」
この世界は巨大隕石が落ちなかったのか? まさか恐竜とかまだ生きてないよな? オレの領分じゃねーからな。
「オレとラダリオンで空を警戒する。ミシニー、ロズ、シエイラを頼むぞ」
リンクスを取り寄せ、空に向けながら領都に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます