第259話 出発準備

 説得が終わればマイセンズの情報収集だ。


 アシッカ伯爵領のことはサイルスさんが知っていたので、そこの情報もいただいておく。アシッカ伯爵領の領都を通ると言うんでな。


 スケッチブックに情報を書き込み、こちらの文字でも残しておく。残留組にも情報を頭に入れていて欲しいからな。


「コラウス辺境伯とアシッカ伯爵は繋がりがあるので?」


「ない。あちらは違う派閥に属しているんでな。ありきたりな情報しか持ってない。冒険者もいくことがないしな」


 馬車で五日。一日三十キロとして約百五十キロ。この時代では気軽にいけない距離か。


「小さな領地だ。領都もリハルの町より小さい。あちらのほうが辺境と言った感じだな」


「ミシニー、いったことあるのか?」


「昔な」


 とだけ。昔って、どのくらい昔だよ? とは訊けない雰囲気。答えたら歳がバレるとかか?


「エルフがいっても大丈夫なところか?」


「フードを被れば大丈夫だろう」


 つまり、晒したら危険ってことか。領都に寄らない道を探る必要はあるってことだな。


 これ以上は情報を集めるのは無理なので、出発の準備に取りかかった。


「タカトさん」


 パイオニアにトレーラーをつけていると、ダインさんがやってきた。


「お久しぶりですね。どこかにいってたんですか?」


 ここに店を構えたのに、どこかへいっていたダインさん。仕入れにでもいってたのかな?


「ライダンドまでいってました。今年は麦の収穫がよかったので駆り出されたんですよ」


「ってことは、ゴブリンの被害は少なかったんですね」


「はい。去年の倍は収穫できたそうですよ。他の野菜も被害がなかったので今年は餓死者は出ないでしょう」


 そう言えば、そんなことがあるとか言ってたな。この時代を生きるのは大変だよ。


「どこかにお出かけですか?」


「ええ。アシッカ伯爵領に接したマイセンズと言う森に向かいます」


「アシッカ伯爵領、ですか?」


 ダインさんは知らないようだ。


「女神からの命令で冬の間はそこにいってます。ミサロ──は知らないんでしたね」


 秋の終わりくらいからいなかったからミサロは知らないな。


 ホームに入ってミサロを連れてきた。


「新しくゴブリン駆除員になったミサロです。オレはいなくなりますが、ミサロは残るので酒のことはミサロに言ってください。一日何回かは館に出るようにしてありますので」


 定時報告として職員に伝えてもらわなくちゃならないからな。


「アシッカ伯爵領はどこにあるんです?」


「隣のマイヤー男爵領に向かい、ミジア、ロックを通った先にアシッカ伯爵領があるそうですよ。オレも話を聞いただけなので、どことは説明できないんですけどね」


 地図がないって本当に面倒だよ。


「マイヤー男爵領にいくなら魔石屋に寄るといいですよ。あそこはいろんな魔石が揃ってますし、買取りもよくしてくれると噂です」


 魔石屋ね。そんなものがあるんだ。


「コラウスにはないんですか?」


「必要なら狩ればいいだけですし、売るのは冒険者ギルド。コラウスでは成り立たないんですよ」


 へー。そういうものなんだ。なら、魔石屋に寄らないとダメだな。水の魔石が欲しかったからさ。


「冬の間はラザニア村にいられるんですか?」


「はい。さすがに店を構えておいて閉めていたら立場がありませんからね」


「では、冒険者ギルドのマスター、ロイド・マスターグさんに酒の注文に応えてやってください。あと、飲みにいけなくてすみませんと伝えてください」


「あー。もうロイド様がギルドマスターになったんですね。では、挨拶がてら伝えておきますよ」


「ありがとうございます。酒一本、奢りますよ」


「それこそありがとうございます。タカトさんが売る酒は美味しいから毎日の楽しみですよ」


 ワインが好きと言うので二千円のを渡した。


「タカト。しばらく出てくる。デザートイーグルの弾を二百発くらい頼む」


 次はアルズライズがやってきた。用意が進まんな。


「あいよ。遠くにいくのか?」


「ああ。ミロイド砦にいってくる。まだゴブリンがいそうだからな」


 駆除し切れてなかったのか? まあ、冬になればエサがなくなる。そこに処理肉をばら撒けば寄ってくるだろう。


「じゃあ、バレットの弾も五十発は持っていけ。バレットの射程は二千歩ほど。その距離からゴブリンを吹き飛ばせるなら竜の目でも当てられるだろうよ」


 竜とは言え、目はそこまで丈夫なはずはないだ。殺せなくても視界は奪えれるんだから練習しておくに越したことはないだろうさ。


「わかった。やってみよう」


 おう、がんばれ。


 バレットの弾を渡し、トレーラーに荷物を積み始めた。


「タカト。ウルヴァリンの用意ができたから出発するな」


「はい。気をつけてくださいね」


 マイヤー男爵領にいったことがあるカインゼルさん(とライゴ)に先発してもらい、マイヤー男爵領からミジアへの道の情報を探ってもらうのだ。


「あ、マイヤー男爵領の魔石屋も探してもらえますか? 水の魔石があったら買いたいので」


「わかった。タカトたちがマイヤー男爵領にきたらわしらから向かう。門の前で待っててくれ」


 マイヤー男爵領の領都は、大銅貨一枚払わないと領都に入れないそうで、門の前には隊商用の広場があるそうだ。


 カインゼルさんとライゴを見送り、荷物の積み込みを再開させた。

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