第258話 (*>∇<)ノ

 砦に戻ると、領主代理の副官がきていた。


 まだ昼前だと言うのにもうきたのか。しかも、お供を連れずに一人できたようだ。


「一ノ瀬孝人です」


 城にいったときに会ってないので名を告げておいた。


「ミロルド・シャードマンです」


 声は落ち着いていて、目は戦う人のそれだった。


 エルフの血か、体はミシニー並みにスレンダーであるが、確実にオレより強いのはわかる。もしかすると金印並みに強いかもしれんな……。


「ミロルド。眠りの魔法が切れる前にやってしまおう」


「わかりました。五十匹は持ち帰りたいのでお願いします」


 ミロルドさんとおしゃべりすることもないので、あとのことはサイルスさんにお任せ。皆を集めて片付けをする。


 ──ピローン!


 ハァー。また脳内アナウンスが始まるのか。


 ──一万五千匹突破おめでとー! お祝いにとっておきの情報を与えましょう。この冬はマイセンズがお勧め! そこにゴブリンの巣がいっぱいあるよ~(*>∇<)ノ。


 もし、この世界に悪魔がいるならオレの前に出てきてください。あのクソ女神の頭に弾丸をブチ込めるなら魂でもなんでも売り払いますから……。


「……タ、タカトさん、今の……」


「女神からの拒否できない指令だな」


 なぜだかわかる。断ったら絶対にそこに送られるって。


 スキットルを出していっきに煽った。最高なジョニ黒がまったく味がしないよ……。


「タカトさん、飲みすぎです」


「飲まなきゃ精神が持たないよ」


 今のオレにはウイスキーが精神安定剤。酔わなきゃ精神が崩壊するわ。


「ミリエル」


「わかりました──」


 意識が途切れ、瞼を開いたら館の自分の部屋だった。え? あれ? はぁ? 夢?


「……なんか酷い夢……ではないな。しっかりとクソ女神のアナウンスと顔文字が脳裏に焼きついてやがるぜ……」


 ベッドから起き上がり、テーブルに置いてあったペットボトルに手を伸ばし、水をいっき飲みした。


「……マイセンズか……」


 クソ女神が冬と言ったからには簡易砦はサイルスさんに任せていくしかないか。


「てか、マイセンズってどこだよ? 地図情報を寄越しやがれってんだ」


 もう一本飲み干し、深いため息をついた。


 よく戦争映画でタバコを吸ってるが、今ならよくわかる。精神安定剤として吸ってたんだな~。


 まあ、だからと言って吸おうとは思わない。肺をダメにして走れなくなったら嫌だからな。


「──あ、タカト。目覚めたようね」


 ホームからミサロが出てきた。たくさんのおにぎりを盆に乗せて。


「ああ。次はおにぎりか」


「ええ。どうしても美味しい塩おむすびができないのよね」


 シンプルにして頂点みたいなものに挑んでんな。そのうち釜で炊きたいとか言わんでくれよ。


「一つくれるか。腹減って気を失いそうだ」


「一つと言わずたくさん食べなさい。厚焼き玉子作ってこようか?」


「いや、漬物が食べたい。沢庵を買ってきてくれ」


 しばらく厚焼き玉子は結構です。しょっぱい漬物が食べたいです。


「わかったわ。沢庵ね──」


 ホームに消え、しばらくしてミリエルとシエイラが部屋に入ってきた。ちゃんとノックしてから入ってきなさいよ。


「タカトさん、大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。オレ、どうしたんだ?」


 ミロイド砦にいたことは覚えているが、なぜ目が覚めたら館にいたんだ? クソ女神の言葉以外、なんか思い出せないんだが……。


「疲れて倒れてしまったんです。館まではアルズライズさんが運んでくれました」


 アルズライズに? それは申し訳ないことしたな。またデザートビュッフェでも開いてやるか。


「えーと、なんか領主代理の……なんだっけ? なんか誰かきて、会ったような気がするんだが……」


 なんだ? なんかスレンダーな女がいたような記憶がぼんやりとある。


「領主代理様の副官で、ミロルド・シャードマン様よ」


「……あ、あー思い出した!」


 ハーフエルフだとか言うミシニー並みにスレンダーな女だ! って、口に出しては言えないけど! ミシニー、部屋にいたし!


「ゴブリンは……殺したようだな」


 報酬金が増えている。ちなみに三百八十万円強と言ったところだ。


「シエイラ。マイセンズってどこだか知っているか?」


「マイセンズならアシッカ伯爵領に接する森の名前だ。コラウスからだと馬車で五日、と言ったところだな」


 とは、ミシニー。さすが冒険者。情報通である。


「用意が調ったらマイセンズに出発する。パイオニアとウルヴァリンでいくから六人、いや、KLXも出すから七人でいく。シエイラ。館長代理を立ててくれ。マイセンズにはお前を連れていくから」


 館長として使える金を持っていてもらいたいし、前に約束したからな。


「わたしもいくぞ」


「おれもだ」


 ミシニーとアルズライズが声を上げると、わたしもわたしもわしらもと騒ぎ出した。


「簡易砦もあるんだから全員は連れていけんわ! 冬の間はマイセンズにいるから交代でいく。まずは拠点作りと調査をするから七人だ」


 交代でやるとなるならカインゼルさんは連れていく。木を伐ったりもするからラダリオンもだな。シエイラとオレで四人。道案内にミシニーで五人。留守番役にドワーフを二人を連れていこう。


 ってことを夜まで説得する羽目になりましたとさ。

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