第265話 ウォータージェット

 この時代、領地の境界線は曖昧で、関所みたいなもので主張していることはない。一応、○○の領地です的な立て札が打ち込まれるらしいが、定期的に管理しているわけでもなく、その残骸が朽ちているのを見つけてアシッカ伯爵領に入ったことがわかった。


「……わんさかいるな……」


 今オレたちは徒歩で移動してる。


 道幅はそれなりにあり、ゴブリンの気配はなかったが、エンジン音で気づかれるのを避けるために徒歩移動にしたのだ。


 進む毎に察知範囲にゴブリンの気配で占められていく。密集度が凄まじいな!


「作戦を変えましょう」


 MINIMIで斉射、とか考えていたが、密集しすぎて表面しか削れない。高いところもないし、斉射は止めておこう。


「M32グレネードランチャーで催涙弾を撃ちます」


 風上に移動し、元に戻ったラダリオンに二丁撃ちで催涙弾を広範囲に放ってもらった。もちろん、町に流れないようにな。


「カインゼルさん。指揮をお願いします。ちょっと検証したいことがあるので」


「無茶はするなよ」


「気をつけます」


 無茶なんてしたくないが、無茶しないとならない状況に追い込まれるのだからふぁっくなユーだぜ。


「ロズ、ライゴ。シエイラを守ってくれ」


 二人に頼み、催涙弾が及ばなかった場所へ向かった。


 ゴブリンの気配からアシッカ伯爵領の町は小さい。いや、小さいとは聞いていたが、本当に伯爵が治める地なんだろうか? もしかしたら千人もいないんじゃないか?


 一応、城壁に囲まれているからゴブリンに侵入されてはいないが、この状態が一月も続いたら餓死者が出ることだろうよ。


 一キロほど離れたら川に出た。


 幅二メートルもない小川ていどのものだが、水量は充分。マチェット無双はまた今度にして水魔法の実験に切り替えることにした。


 水の魔石を二つ取り寄せる。


 てか、これどう使うん? って思ったが、そこはチートタイム補正に頼ることにした。


 深呼吸をして精神集中。両手に持つ水の魔石をギュッと握り締めた。


「チートタイムスタート!」


 能力限界まで川の水を集めて水球を作り出した──はいいが、視界から外れるくらいデカくてサイズがわからない。てか、思ってたのと違う!


 すぐに遠くに投げ放った。


 気温が一桁台ならこの水は堪えるはず。風邪でも引け!


 投げ放つと同時にチートタイムを中断。クソ! 十五秒無駄にした。そして、魔石もなんか小さくなってるよ。


「チートタイム中は魔石はいらないな」


 ただでさえチートタイムを使いこなしてないのに、さらにプラスさせても魔力の無駄でしかない。まずはチートタイムを使いこなせ、だ。


「チッ。こっちに気づいたか」


 普通なら逃げるんだろうが、狂乱化しているようで完全にエサ認定。こちらに向かってきた。


 土手に上がり、チートタイム再スタート。


 今度は威力を抑えて一メートルくらいの水球を目の前に作り出し圧縮。一点から発射。一秒もしないで撃ち出された。


「エゲつな!」


 どこまで飛んでいったかわからないが、今ので少なくとも百匹以上は天に召された。


 って、茫然としている場合ではない。今ので一分も無駄にしたわ!


 今度は二メートルくらいの水球を作り出して圧縮。そして発射。なくなる前に薙ぎ払ってやる。


「……巨神兵になった気分だわ……」


 二射目は軽く五百匹は逝った。


「まずはこんなものだな」


 チートタイムを一分二十一秒残して止めた。


 貧乏性なオレはすべてを使い切る度胸はない。ゲームでも貴重な回復薬は最後まで残しておくタイプなんだよ。


 全体的に一割か二割を削ったていどだが、こちらは少数。全滅させるまで戦い続けることはできないのだから計画的にやっていくしかないんだよ。


 皆のところに戻ると、ミシニーも戻っていた。


「さすがに多すぎて魔力が持たない」


「まあ、七千か八千はいる感じだからな。無理する必要はない。時間をかけて削っていけばいいさ」


「逃げたりしないか?」


「逃げたら逃げたで構わないよ。地道に駆除していけばいいだけのことだからな」


 オレとしては地道に駆除していくほうがリスクがなく、弾も無駄にすることもない。一日五十匹駆除していくのが理想なんだよ。


「まずはここから離れるぞ」


 オレたちの臭いを消すために処理肉をばら蒔いてから森の奥に移動した。


 皆で枝や倒木を集めて簡易砦を作り、ワイヤーを周辺に張り巡らせた。


「まずは食事をしよう」


 光が漏れないようシートで囲んだので、LEDライトをつけ、カセットコンロで具だくさんのシチューを作った。


「ミサロが持っていけって」


 ホームに入っていたラダリオンがコロッケの山を抱えていた。


「今日はコロッケを極めんとしていたのか」


 ちなちにオレは、コロッケにはしょうゆをかける派だ。てか、よくこれだけ作る時間があったな。弾込めとか銃の手入れとかもあったのに。小人でも呼び寄せているのか?


 食事を終えたらミーティング。スケッチブックを広げて町の周辺になにがあるかを描き込み、明日の作戦を決めた。


 終わればお湯を運んできて交代で体を洗ってもらい、酔わないていどにビールで疲れを癒した。


「ミリエルたちはもう発ったのか?」


「はい。今日の朝に。アルズライズが指揮してくれるので四日もかからず到着するかもしれませんね」


 ソロで冒険をしているようだが、ミリエルたちなら素直に従うだろうよ。


「なら、それまで稼いでおかないといかんな」


「残しておかないと文句を言われますよ」


「獲物は早い者勝ちだ。遅れてくるヤツが悪い」


 カインゼルさんもミシニーも結構非情である。まあ、オレも稼がなくちゃならないので全滅させる気持ちでやるけどな。


 見張りの順番を決め、明日も戦えるよう休んだ。

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