第264話 稼げ

 行商奴隷団と別れてすぐ、ゴブリンの気配が爆増した。


「あいつらなにかしたのか?」


 なんて勘繰ってしまうくらいゴブリンの気配に囲まれていた。


「ここで迎え撃つ。ラダリオン。ベネリM4を持って元に戻れ。カインゼルさんは右、オレは左。ミシニーは遊撃。射程外にいるのを倒せ。シエイラはオレの横に。ロズとライゴは後方だ」


 MINIMIを二丁と箱マガジンを取り寄せ、シエイラにはMP9を持たせて配置についた。


「ほぼ全方位からくるぞ! 近づかせるな!」


 ゴブリンがこちらに到達するまで五分くらいあったので準備は万全。心の準備も万全。一匹残らず駆除してやるわ!


「撃て!」


 射程内に入ったらゴブリンどもを撃ち殺していった。


 一時間以上ぶっ放し続け、押し寄せてきたゴブリンを駆逐してやった。


 報酬額から言って、少なくとも五百匹はいたな。まあまあな数だったと思えるのは感覚が麻痺しているからだろうか?


「とりあえず、弾薬の補給が終われば移動するぞ」


 もう十六時は過ぎた。暗くなるまで三十分あるかないかだ。ゴブリンの臭いがしないところまで移動するとしよう。


 その日は野営できる場所があり、ゴブリンが襲ってくることはなかったが、四日目からは進めないくらいエンカウントしてばかり。そろそろピローン! がやってくるぞ。


 ──ピローン! 一万六千匹突破だよ~! 


 言ってる側からきたよ。ミュート機能を切に望むぜ。


 ──アシッカ伯爵領の町は大量のゴブリンに囲まれてます。速やかに駆除してください。さあ、稼げ稼げ(*>∇<)ノ


 ほんと、顔文字止めろや! オレの血管がブチ切れるわ!


「クソ! ミシニー。魔力と体力はあるか? あるならアシッカ伯爵領の町に先行して暴れろ。今ならゴブリンを殺し放題だ」


「任せろ!」


 結構暴れたにも関わらず駆けていくミシニー。言ってなんだが、お前、どんだけだよ?


「タカト、なにがあった?」


「女神によるアナウンスによるとアシッカ伯爵領の町がゴブリンに囲まれているようです。ホームでミーティングしてきますので、ここで休んでてください。もし、ゴブリンが襲ってきたら先へいってください。ラダリオンは残ってシエイラの護衛だ」


 ここまでくる間にちゃんと印はつけてきたし、ミシニーが駆けていった方向もわかる。はぐれてもすぐ合流できるはずだ。


「応援を呼ぶなら早いほうがいいぞ」


「ええ。第二陣を呼びます」


 ダメ女神が言ったときからなにかあると察し、第三陣までは決めてある。


 逐次投入になるが、全兵力を投入できるほどゴブリン駆除ギルドは数に恵まれているわけじゃない。ましてや他領へ向かわせる体制もできてない。第三陣なんて冒険者を雇ってきてもらうってことだし。


 実質、第二陣──ミリエル、ビシャ、メビ、ドワーフ二人、職員三人の少数精鋭だし。とても町を囲むゴブリンに対応できる数じゃねーし。つーか、もう駆除じゃなくてゴブリンとの戦争だよ! もう趣旨が変わってんだよ!


「ラダリオンは残ってろ」


 そう言ってホームへ。時刻は十四時くらいだったが、昨日からゴブリンとの戦闘が続いているので、ミリエルもミサロと一緒に銃の手入れをしていた。物理的距離も精神的距離も離れてはいたけど。


「ミリエル。緊急事態だ。明日の朝に第二陣を出発させろ。アシッカ伯爵領はゴブリンで溢れている。ミサロは銃と弾薬を切らさずにいてくれ」


「わかりました。皆さんに連絡してきます」


 そう返事をするとすぐに外に出ていくミリエル。なんかそのまま出発しそうな勢いだな。


「ミサロ。魔王軍がアシッカ伯爵でなにかしてる話、聞いたことあるか?」


「わからないわ。幹部と言っても魔王直属の幹部ではなかったから」


 縦社会で横の繋がりはない、ってことか。オレが考える以上に魔王軍は強い組織なのかもしれんな。


「ただ、ゴブリンを増やす計画がある噂は聞こえてきてたわ。魔王軍も優秀な人材が豊富ってわけじゃないから」


 魔王軍も猿山のボスではやっていけないってことか。現実の魔王軍は夢も希望もあったもんじゃないんだな。


「これから戦いの連続になるかもしれん。ホームに籠るようになるが頼むな」


「気にしなくていいわよ。わたしは黙々とやっているのが好きだから」


 もっと人らしく人の中で生きて欲しいが、ミサロの立場から言ったらすぐには無理だろう。ゆっくり周りと打ち解けていくしかないな。


「うん。ありがとな」


 黙々と弾入れをしているミサロの頭を撫でる。


 見た目はけしからんが、精神は年相応なのはわかったので、つい子供扱いになってしまう。


「じゃあ、稼いでくるよ」


 ダメ女神の言葉に従うのはムカつくが、稼がなければ生き残れないし、いい暮らしもできない。チャンスだと思って気合いを入れろ、だ。


 外に出ると、何事も起こってなく、各自警戒しながら休んでいた。


「明日の朝には第二陣は出発します。それまでオレらだけで対応します」


「まあ、問題なかろう。タカトとラダリオンがいれば弾薬が枯れることもないしな」


「酒は補給できませんけどね」


「ふふ。終わってから飲む酒が一段と美味く感じそうだ」


 全員の顔に不安や焦燥は欠片もない。うん。大丈夫。このメンバーなら千でも二千でも相手できる。


「では、美味い酒を飲めるようしっかり稼ぎますか」


 ニヤリと笑い、ミシニーが暴れ回っているほうへ向かった。

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