第8話 おっかねー

 ぐっすり眠った次の日、柔軟体操をたっぷりしてからMP5K−PDWの扱い方を学び始めた。


 もうベレッタくんの二の舞は犯さない。君を相棒として、彼女として、お前を知っていくぜ。


 一時間くらい使って構造を知っていき、次に構え方を練習。マガジンの脱着を何度何度も練習した。


「てか、マガジンを入れるポーチが必要か」


 いくら何度も脱着しようが違うマガジンに切り換えの動作を素早くできないと命取りになるな。


 タブレットで三十発用のマガジンポーチ? ケース? を探してると、いろんなものをつけられるベルトがあった。


 ベルト単品、三十発用マガジンが入るポーチを三つ、ペットボトルが入るポーチを買った。右腰側にはマチェットをつければ問題なかろう。

 

 午後からはベルトをつけて練習開始。なかなかスムーズにいかなくてムズい。マガジンの向きを間違えるとマガジン交換が手間取って仕方がない。


 それにマガジン交換に手間取り、相棒を落としてしまった。専用のベルトを買った。


「うん。これなら落とさないな」


 ベルトをたすきかけにしてまたマガジン交換の練習を始めた。


 ほどよくスムーズにできるようになったらマガジンに弾を込める。


「地道な作業だ」


 まあ、工場でも地道で単純な作業はある。これで心が折れるようでは工場で勤められんぞ。


 マガジン五本に入れ終わり、ポーチに入れてみる。


「そう、重さは感じないな」


 相棒にもマガジンを差して動いてみる。うん。重くはないな。


 マガジンに入れた弾をすべて抜き、弾を何発かジャケットのポケットに入れて外に出た。


「寒っ。もう昼過ぎてんのに寒すぎんだろう」


 今日は特に寒い。氷点下になってんじゃないのか?


 一度戻って使い捨てカイロを貼ってきた。


 カイロが暖まるまで屈伸運動をし、暖まってきたら周囲を探った。


「さすがのゴブリンも今日は出歩いてないみたいだな」


 集中して気配を探るが、遠くにうっすら感じるていど。今日の駆除はやるだけ無駄だろうな。


「まっ、都合がいい。今日は射撃の訓練ができる」


 名称はわからないが、構造は理解できた。工業製品を作る作業員を舐めんな、だ。

 手前の出っ張りを手前に引いて上にかけてからマガジンに一発だけいれて差し込み、出っ張りを下げて前に引っ張られると弾が装填される。


「安全装置を解除。相棒を構え。撃つ!」


 引き金を引くと、耳が痛くなる音がして強い反動に押された。


「……銃、コエー……」


 ベレッタのときは感じなかったが、こうして冷静になって撃つと、銃の怖さがよくわかった。


「さ、さすが人を殺すために生み出されたものだな」


 てか、耳が痛い。撃つ度にあんな音聞いてたら難聴になるわ。


「耳栓買うか」


 また戻り、二十個入りのを三百円で買った。


 ニット帽をずらして耳栓を詰める。どこまで効果があるかわからんが、ないよりはマシだろう。


 出たり入ったりが激しくて気持ちが冷めるが、だらけたら怪我をする。意識をしっかり持って射撃練習をした。


 一発入れて撃ち、また一発入れて撃ちを繰り返す。


 効率とか関係ない。これは安全に撃つを繰り返し、相棒に慣れるためにやっている。


「ふー。撃つだけなのに精神使うな」


 持ってきた弾を撃ち尽くして一息つく。


「今日はこれで終わるか」


 根を詰めても仕方がないし、気温が上がってくれないとゴブリンも動かない。今は着実に経験を積んでいこう。


 セフティーホームに戻り、また柔軟体操。しっかりと飯を食って風呂に入り、明日のためにぐっすり眠る。


 朝になったら決めたルーティンをこなし、マガジンに弾を十発ずつ入れてポーチに入れる。


「よし。少し歩くか」


 相棒の扱いばかりじゃなく、体を鍛えることも忘れない。


 ゴブリンの気配を探り、周囲を警戒しながら相棒を構えて進む、ってのは本当に疲れる。三十分くらいごとに休みながら二、三キロ歩くと、凍死したゴブリンを発見した。


「……死ぬならオレに殺されろよな……」


 自然死したところでオレに報酬は入らない。死ぬ直前にオレの前に現れろや。


「しかし、この寒さでも食料探しに出ないとダメなのか。どんだけエサのないところに生息してんだよ?」


 まさか地の果てとかじゃないよな? それだと人のいるところまで相当歩くんじゃないか? って以前にどっちに向かえば人のいるところなんだ?


「……なんか不安になってきた……」


 いや、今は相棒の扱いとゴブリンを駆除することだけを考えよう。明日の朝食を考えるより今日の夕食を考えろ、だ。


「そうだ。こいつを的にしたらいいんじゃね?」


 死後硬直だか凍ったかはわからんが、的にするんだからなんでもいっか。


 安いロープを買ってきてゴブリンの首に回し、手頃な枝に吊り下げた。


「ふぃー。なにも食ってねーのに重いんだよ」


 マチェットを抜き、八つ当たりに脚に振り下ろした。硬っ!


「連射、やってみるか」


 十メートルくらい離れ、連射マークに合わせる。


 大地を踏み絞め、中腰に構え、そして、引き金を引いた。 


 バババッとあっと言う間に弾丸が吐き出され、ゴブリンの腹に消えていった。


「……銃、おっかねー……」


 しばらく動けなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る