第9話 焼き肉作戦

 人間は慣れる生き物とはよく言ったもので三日も銃を使うと躊躇いはなくなった。いつでもゴブリンかかってこいや! と殺る気満々だと言うのにゴブリンがいません。


「そりゃ、雪降ったもんな~」


 凍死したゴブリンを的にしてたら雪が降ってきて、次の日には世界を真っ白に染めていたよ。


 まあ、降ったと言っても十センチくらい。南のほうにでも住んでなければ驚く積雪量ではない。初期装備の靴(恐らくこの地に合わせて用意してくれた感じだ)でも問題なく歩けたよ。


 とは言え、寒いものは寒い。使い捨てカイロ八枚貼っても寒すぎるぜ。


 歩けば温まるかと思ったが、一向に温まらない。これで風が吹いてたらセフティーホームに閉じ籠っているところだ。


「また凍死したゴブリンか」


 見つけるのは凍死したゴブリンばかりなり。自然に負けるならオレを呼ぶ必要なくね?


「まあ、暖かくなれば竹の子のように増えるんだろうな」


 ダメ女神が異世界から拉致してくるのだ、繁殖力はハンパないんだろうよ。


「このままではいかんな」


 三日も無収入とか命の危機を感じる。春まで無収入なら確実に詰むぞ。


 ただ、ハイキングしただけの三日目が終わり、四日目も無収入かな~? と思ったら太陽が出てくれた。


 昼には雪も解けたが、足元はグチャグチャになって歩き難い。靴下まで濡れてきたぜ。


「靴下で破産しそうだな」


 まだ半月も過ぎてないのに靴下が十五組もあり、毎日三回は履き代えているよ。


「靴も状況にあわせて買わなくちゃな~」


 泥だらけになっては洗い、濡れたまま履いている。こんなことしてたら靴の寿命も短いだろうよ。


「ん? ゴブリンの気配だ」


 グチョグチョの靴に気を取られて気づかなかったが、一休みで止まったらゴブリンの気配に気がついた。


「……バラけてるな……」


 エサがなさすぎて集団行動もできなくなったのか?


 こちらとしては単独で動いてくれるのは好都合なんだが、バラけすぎて追うのが大変だ。これでは一日二匹くらいしか狩れないぞ。


 それはそれで訓練にもなるから構わないのだが、さすがにこのグチョグチョになった山を歩くのは勘弁して欲しい。できればこちらに集まってくれると嬉しいな。


「……エサで釣るか」


 ゴブリンは肉の臭いに敏感っぽい。やっすい処理肉に数キロ先から集まってきていた。焼いたらゴブリンまっしぐらじゃないか?


 やる価値はあると、木を……って、濡れてて焚き火もできんな。乾燥させないとダメか。


 倒れている木の枝をマチェットで切り落とし、纏めてセフティーホームに運んだ。


 セフティーホームで一晩置いておけば乾燥するはず。作戦は明日、天気がよかったらだ。あ、てるてる坊主作っておこう。


 そんな純真な願いが天に届いたのか、雲一つない空にお天道様が輝いていた。


「今日は殺れる気がする!」


 乾燥した枝を外に運び、弁当の容器に火をつけて枝をくべた。ダイオキシン? 自然破壊? そんなもん知りません。オレが生きることに比べたら些細なことである。


 あ、ちなみにタブレットでかったものはセフティーホームから出し、オレが十五日触らなければ消滅します。クソ! 元の世界の道具を転売してボロ儲けができんじゃないか!


 いい感じに燃えたら焚き火の周りに処理肉をバラ撒く。さあ、こい! ゴブリンども!


 少し離れて待っていると、近くにいたゴブリン四匹がこちらに向かってくるのを感じた。


 目立たない位置に移動し、待つことしばし。ガリガリになったゴブリンが一匹ご到着~。処理肉に飛びついた。


 その瞬間に走り出し、後方からマチェットを振り下ろした。


 え? 銃は? とは言わないで。せっかく集まってきてるのに音で逃がしてはこれまでの苦労が報われんでしょう。


 餓死寸前だからか、頭への一撃でご臨終。腕をつかんで焚き火から引き剥がし、落ち葉や土をかけて次の獲物を隠れて待った。


 単独で動いているお陰で各個撃破できる。四匹を一撃で倒せることができた。


「二万円ゲットだぜ!」


 喜ぶのもそこそこに殺したゴブリンを埋める。見つかったら困るからな。


「臭いがキツつくなってきたな」


 三十メートルくらい離れてるのに、焼ける処理肉の臭いがここまで流れてきていた。


「お、またきた」


 次は一匹だが、あちらから近づいてきてくれるのだから文句はない。難なく五千円をいただきました。


「この作戦、最高か!」


 さすがに五匹で打ち止めになったが、ゴブリンの巣(仮)の近くでやればあちらから近づいてきてくれる。難なく駆除できるはずだ。


 だから銃は? とは聞く耳もたん。ちゃんと夜にマガジン交換や構えの練習はしていますから。


 それから五回場所を変えて焼き肉作戦を繰り返し、三十八匹もこの世からおさらばさせてやった。


「たった数日で十九万円とかニヤける~!」


 もちろん、食料や日用雑貨に使ったから実質十五万円くらいの儲けだが、それでも嬉しいのは嬉しいものだ。


「とは言え、さすがにゴブリンの数は減ってきたな。そろそろ巣を襲うか」


 エサを探しに出るゴブリンの気配は少なくなり、今日の焼き肉作戦も二匹しか殺せなかった。もう作戦終了にしたほうがいいだろうよ。

 

「なにはともあれ、今日は祝杯だ!」


 フフ。刺身の盛り合わせつけちゃおうっと。

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