第10話 残念?
暖かい日は続いている。
別に春になったわけじゃなかろうが、ゴブリン駆除を強制されたものにはありがたい。
「靴も新調したし、多少のぬかるみも問題なしよ!」
ただ、問題なのが出歩くゴブリンが少ないことだ。焼き肉作戦を終了してから四日。駆除できたのは三匹だけ。餓死寸前で、銃弾一発で簡単に死んでしまったよ。
まあ、問題は問題であるが銃の練習と体力作りかと思えばそれほど苦にはならないからな。
「ここもか……」
この四日でゴブリンの巣(仮)を何ヶ所か見つけているのだが、山の斜面に穴を掘って、かなり奥にいるみたいなのだ。
処理肉を置いて出てきたところを、って思ったのに、出てくる気配はまるでなし。二、三匹はいるのによ。
直径三十センチくらいの穴をライトで照らしてみるが、姿が見えることはなかった。
気配からして三メートルくらい奥。緩く右にカーブしててゴブリンの気配が固まっている感じがする。少なくとも四匹はいるんじゃなかろうか?
「うーん。出歩くゴブリンより巣を探すほうが楽なのにな~」
穴を埋めたら? と思う方もいらっしゃるだろう。オレもそう思ってスコップ使ってえっちらほっちら埋めたよ。だが、窒息死した様子はない。今も五千円が入ってはいないよ。
「冬眠でもしてんのか?」
三メートルも穴を掘って確かめる気にはならないのでスルーはしていた。だが、出歩くゴブリンが少ないのだからなにか対策を考えないとダメだよな~。
「バル○ンでも焚くか?」
いや、冬眠してたら吸ったりしないか?
「なら、火炎瓶か?」
灯油かガソリンを瓶に詰めて布に火を点ければいいのか? 失敗したら火達磨になる未来しか見えんな。
「……ダイナマイト、いや、手榴弾か?」
持ち運びも扱いも手榴弾のほうがいいだろう。いや、手榴弾なんて映画の中でしか知らんけどよ。
少し離れたところに移動し、セフティーホームに帰る。
缶コーヒーで一息ついてからタブレットをつかみ、手榴弾を探した。
「手榴弾もいろんな種類があるんだな~」
しかも、三百円から四千円と値段もバラバラ。さすがに三百円はありえんやろう。怖くて触りたくもないわ。
「安全を考えて四千円のM67ってのを買うか」
手榴弾の適正値段など知らんからどうこう言えないが、四千円は高いよな~。使い所を選ぶものだぜ。
「まあ、試しだ」
今はまだ資金的にもゴブリンの強さ的にも余裕があるし、今後の考えれば使い慣れていたほうがいいだろう。なにより、一匹でもマイナスにならないのだからやっちゃれ、だ。
まず一個だけ買い、どんなもんかを確かめる。
やり方は映画の通りだろう。レバーをつかんでピンを抜く。五秒くらいで爆発する。
「穴に入れてすぐ逃げないとダメだな」
頭の中で何度もシミュレーションしてから外へ出た。
先ほどの穴に向かい、入れたあとどう逃げるかを何度も確認する。
「よ、よし。やるぞ、オレ」
バクバクする心臓を深呼吸で静め、もう一度シミュレーションをしてから決行する。
ピンを抜いて穴に放り込み、一、二と数えて伏せた──ら転げ落ちてしまった。
──ドンッ!
と、重い音がして振動が伝わってきた。
「……結構威力があるんだな……」
映画は過剰にしてるんだろうが、現実の手榴弾も凄まじい。そりゃ使われるわ。
「ん? あれ? 二万円が入ったぞ?」
気配は二、三匹だったのに、なぜ二万円ももらえるんだ? 意味わからんぞ!
「ん~。まあ、駆除できて二万円が入ったらどうでもいいか」
死んだゴブリンだけがいいゴブリンだ。深く考えるのは止めておこう。そのうちやっていくうちに理由がわかんだろう。
「なにはともあれ手榴弾は有効ってことだな」
ジャケットについた汚れを叩いて落として次の手榴弾を買いにセフティーホームへと戻った。
「へー。手榴弾を入れるポーチまであるんだ」
ポケットに入れて歩くのもな~と思ってなんか適当なショルダーバッグやポーチを探していたら手榴弾用のポーチを発見した。
「出歩くゴブリンも少ないんだし、マガジンポーチを外して手榴弾用のポーチを二個つけるか」
出歩くゴブリンもそうはいないんだし、三十発もあれば充分だろう。万が一のときはセフティーホームに逃げ込めばいいさ。
ポーチと手榴弾を買い、マガジンと交換する。
「昼までにもう一ヶ所はいけるな」
外に出て気配を探り、固まっているところへ向かった。
二十分くらい歩くと、ゴブリンの巣を発見。気配は三。ここも穴を掘ったものだった。
「あの手でよく掘ったもんだな。枝でも使ったのかな?」
穴を掘る大変さはオレもよくわかるよ。
「でも、なんら罪悪感もないのでオレの糧になってくれ」
手榴弾のピンを抜いて穴へとポイ。速やかに退避。六万円が入った。え?
深く考えるなと言っておいてなんだが、気になってしょうがねーよ! なんで気配が三だったのに六万円になるんだよ?! 意味わかんねーよ!
疑問を抱えながら次へと向かう。
三十分くらいで次の穴に到着。気配は一。手榴弾を穴へと放り入れた。
「……一万円になったよ……」
なんのミステリーだよ? なんかの超常現象か?
「いや、もしかして、妊娠か?」
ふと思い浮かび、これまで駆除したゴブリンがオスだったことを思い出した。
アニメのゴブリンに捕らわれていてゴブリンはオスだけかと思い込んでいたが、この世界のゴブリンはメスもいるってことか?
「……エロはなし、ってことか……?」
残念、と思ったそこの君。この好き者め!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます