第7話 MP5

 落とし穴作戦Ⅱは大成功だった。


 穴を三メートルくらい深く広くして、計十六匹をこの世から駆除できた。


「ふふ。八万円か。五日の苦労が報われるな」


 一日一万六千円。食費を豪華にしたので二千円も使ってしまったが、それでも一日一万四千円。かなり稼いだほうだろう。


「感無量とはこのことだな」


 前回のを足せば十万円は武器費に回せるだろう。落とし穴作戦Ⅲをやらなくてもいいかもしれんな。


「今度はちゃんと選ばないと」


 まあ、素人になんの銃がいいかなどわからんが、よく考えることにしよう。十万円もあればそれなりに選べるだろうからよ。


「ん? またきたか」


 よほどこの周辺にエサがないのか、処理肉に集まってきて、落とし穴に落ちるのだ。


 まあ、さすがに十匹以上だと串刺しから逃れる者も出てくるが、そこは岩を落として止めを刺してあげる。


「二匹だけか」


 すぐに枝葉で落とし穴を軽く塞ぎ、処理肉をばら撒いた。


 ゴブリンがくる反対側に立ち、しゃがんで弱ってる振りをする。もちろん、マチェットを握りながらな。


 十分くらいしてゴブリンが現れ、オレに気づいてキーキー言いながら走ってくる。


 大丈夫。怖いが、怖じ気づくほどではない。二匹の気配に集中して止まった。


「ギー!?」


「ギィ!?」


 驚いたように叫んで落とし穴へと落ちた。


「愚か者め。人間様の知恵を舐めんな」


 いや、ゴブリンが衰えていたからだ。どいつもこいつもガリガリだしな。まともな判断もできんのだろうよ。


 這い上がってくるゴブリンの頭にマチェットを振り下ろして殺してやる。


「はい、お前もご苦労さん」


 二匹目も頭に振り下ろして殺してやった。さらに一万円ゲットだぜ。


「これで止めておくか」


 調子に乗って死んだなんてよくあること。ここは、十八匹で満足しておこう。もう近くにゴブリンの気配はないんだからよ。


「埋めるのはいいな」


 この周辺にはゴブリンしかいないようだし、いてもカラスみたいな鳥だけ。臭いに釣られて現れる魔物もいないだろうよ。


 それでも五百メートルくらい離れてからセフティーホームへと帰った。


「ふー。まずは風呂だな」


 仕事終わりの風呂。そして、よく冷えたビール。生きている幸せを感じるぜ。


「今日はレモンサワーも飲んじゃおうっと」


 大丈夫。これで終わるから。ちゃんと栄養バランスが取れた食事もするから許してね。


 幸せな気分のまま眠りにつき──たいが、まだやることはある。


 風呂に入る前に脱いだ下着を湯船で洗い、よく絞って干した。


「洗濯機の偉大さを知るぜ」


 中央ルームに戻り、タブレットで予算十万で買える銃を探した。


「……ありすぎてなにがいいかわからんな……」


 一つの銃でいろんなバージョンがあり、付属品がある。年代でも差があるし、新品中古でまた値段が違う。


「ん~。拳銃よりサブマシンガンのほうがいいかな~?」


 いや、拳銃もあればそれに越したことはないんだろうけど、パンパン撃って当てる自信はない。なら、量でカバーするほうがいいんじゃなかろうか?


「それともショットガンのほうがいいか?」


 散弾なら多少外れてもゴブリンくらいなら殺せると思う。弾も安いし、二匹から三匹なら三発も撃てば倒せるはずだ。あいつら、こちらが弱いと感じたら真っ直ぐ向かってくるからな。


「よさげのやら新しいのは買えんし、また中古品的なものだろうな」


 てか、平和な国で暮らし、銃に興味もなかったが、こうして探すと元の世界、どんだけ物騒なんだって思うよな。


「拳銃がある日常ってどんなんだろうな?」


 いや、そんな日常を今送っているか。クソだな。


「MP5ってのはよく映画で見るな」


 いろいろ見ていたらオレでも知っているものが現れた。


「これもこれでいろんな種類があるな~」


 ただ、たくさんあるからか二万円台から売っている。


 とは言え、二万円は地雷だろう。二十万円以上のものがあるのを考慮すれば十万円くらいのが妥当で、七万円台までが安全圏かな?


 ダメ女神が異世界の住人を連れてきてまで駆除しろと言うのだ、十万円くらい稼ぐのは難しくないはずだ。危険度も跳ね上がるがな。


「へー。弾も安いんだ。五十発で五百円とかあるよ」


 安全を考えて千円くらいのを買ったとしても、一匹に十発使ったとしても五匹は倒せる。練習に使っても惜しくはないだろう。


「重いのかな?」


 軽そうには見えるが、何時間も持って歩くのだから軽いほうがいいだろう。弾だって大量に持てば重くなるんだからな。


「PM5K−PDWってのいいかもな」


 KとPDWがなんなのかわからんが、普通の? よりは小さそうだし、付属品がついてなければ一万円はアップできそうだ。ストックも折り畳み式でショルダーバッグにも入れられるかもな。


「う~ん。八万円のか?」


 見た感じではそう悪いものはなさそうだ。


「三十発入るマガジンも一つ五百円くらいか」


 新品は二千円から三千円。そう過酷な使い方しなければ五百円くらいのでも大丈夫だろう。


 ……これなら予算十万円で買えるか……。


 なにが当たりでなにが外れかわからないし、知識もないのだから賭けるしかない、か。


「よし! 男は度胸。お前に賭ける!」


 MP5K−PDW。三十発入るマガジン五本。弾を百発買った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る