第55話 巨人の教育

「ああ。冒険者ギルドマスターがタカトを準冒険者と認めてギルドがゴブリン狩りの請負を任せる。その他の依頼は拒否できることをギルドマスターサイルスが認める、だそうだ」


 貸した虫眼鏡片手に羊皮紙の文面を読んだゴルグが内容を教えてくれた。


「それ、効力はあるのか? ギルドマスターより上が出てきたら覆されないか?」


「んー。ギルドマスターの上となると役人か貴族、辺境伯様くらいだろうが、あのギルドマスターなら大丈夫だろう。元一級冒険者で、辺境伯様の妹と結婚してたしな」


 無理矢理逃げなくてよかった。辺境伯を敵にしてたところだよ。


「そうか。ありがとな。ってかゴルグ、文字も読めるとかいいところの出か?」


「親父が城で働いててな、おれもガキの頃は街で生活してたんだよ。そのときに読み書き計算を教えられたのさ。まあ、おれは頭を動かすより手を動かすほうが得意だったから職人になったんだがな」


 人に歴史あり、だな。


「もし城にいくことがあったらおれの弟が働いているからおれの名を出せばわかると思うぞ」


「城にいくようなことにならないことを願うよ。厄介なことになりそうだからな」


 自らいくことがなければ城の者に呼ばれるしかない。もう厄介事を押しつけられる未来しか見えないよ。


「まあ、信用できるなら準冒険者になってもいいな」


「そうだな。ギルドとしてはタカトの存在は願ったり叶ったりだ。ゴブリン狩りをやるヤツは本当にいないからな」


 被害が出てんだから予算組んでやらにゃいかんだろう。ここの統治者、大丈夫なのか?


「ゴルグにやる気があるなら請負員にするぞ。木を伐りにいったついでに二、三匹殺せば充分酒代になる。二十匹も殺せばもっと専門的な道具が買えるぞ」


 ラダリオンに出し入れさせるのも手間だろうし、巨人の一人が請負員となれば道具も巨人サイズになるはずだ。


「あんた、なりなさいよ! 仕事の合間ならできるだろう」


 話を聞いていたロミーさんが割り込んできた。あ、これは拒否できないヤツだ……。


「お、おい、なに言ってんだよ。ゴブリンを狩るのが面倒なことくらいお前もわかってるだろう」


「罠を作りなよ。タカト、教えてやってくれよ」


 あらら。こちらまで飛び火したよ。いやまあ、ゴブリンが駆除されたらオレにも入るから構わないけどな。


「ラザニア村の周りにもゴブリンはたくさんいる。落とし穴なり箱檻なり、やり方はいろいろあるよ。ゴルグは弓とか使えるか?」


 ゴブリン相手なら本格的な弓はいらない。なんなら吹き矢でもいいんじゃないか? あ、スリングショットでもいいな。子供頃自作して河原で遊んだものだ。


「昔、少しやったくらいだからゴブリンに当てられるかは自信ないな~」


「まあ、罠を仕掛けたらいいさ」


 前にやった落とし穴作戦を教えてやる。ラダリオンに掘れたんだからゴルグにも掘れるだろう。手間なら誰かに手伝ってもらえばいい。酒を報酬にすれば喜んで集まるだろうよ。あ、譲渡不可でも貸し出しは可。消費されるもの、腐るものはダメ女神の規制に引っかからないみたいだよ。触らなければ十日で消えるのは変わらないがな。


「誘き寄せるエサは残飯でいいし、ないならこちらで用意するよ」


 一キロの処理肉を買ってラダリオンに持って出てもらえれば五、六倍に膨れ上がる。儲けの三割が入るんだから用意くらいさせてもらうさ。


「ハァ~。わかったよ。仕事にも余裕あるしな。手の空いてるヤツを集めて穴を掘るか」


「手伝うヤツにはオレがワインをご馳走するよ」


 五百円で買える安いワインでもこちらじゃ高級品になる。飲み会を開いたとしても一万円に届くことはないさ。ツマミなんてバターピーで充分なヤツらだからな。


「それなら村の男全員が参加するぞ。お前がくれるワインは美味いからな」


「ゴルグが請負員になればゴルグも買えるようになるさ」


「なんかオレの仕事が増えるように思うのは気のせいか?」


 やはりゴルグは賢い。まだ請負員の説明もしてないのに予想できるんだからな。


「その分、嫁や子供に美味いもの食わせてやれるんだからがんばれ」


 子供三人育てるのは大変ってことくらい独身者のオレでもわかる。嫁や子供に楽をさせたいなら父親ががんばれ、だ。


「がんばっておくれよ、旦那様」


 嫁のキスを嫌そうな顔で受け止めるゴルグ。爆発すればいいと思う(ニッコリ)。


「とーちゃん、おれもゴブリン狩りしたい!」


 と、息子くんが抱き合う二人に飛びついてきた。


「はぁ? お前にはまだ早い。村から出れるのは十歳からだろうが」


「同じ歳のカルロは村出てるじゃんか!」


「カルロは薪運びの手伝いで薪置き場までしかいってないだろう」


 そう諭すが息子くんは駄々をこねるばかり。子育てって大変だな……。


「タカト、おれもゴブリン狩りたい! たくさん狩ったら飴たくさん食えるんだろう?」


 この子もラダリオンと同じで食欲で動くタイプか?


「十歳以下で出れる方法はないのか?」


「親と一緒なら村の周りに出ることは可能だが、子供一人では死ぬだけだ。ここら辺は狼が出るからな」


 狼出るんかい! そう言うのは先に言えよ! 無警戒だったよ!


「マグル」


 あ、息子くんの名前ね。娘ちゃんはミミ。下の子はロックだよ。


「さすがにいきなりは無理だからまずゴブリンを狩る特技を一つ身につけろ」


「……とくぎって……?」


 まだ特技がわからん歳か。


「明日、いいものをやるよ。マグルでも使える武器だ。それを使いこなせればゴブリンどころか飛んでいる鳥すら狩れるぞ」


「お、おい、タカト。危険なことは止めてくれよ。まだなにもわからん子供なんだから」


「わからないのならわかるように教えるまでだ。オレもマグルくらいの歳にじいちゃんから善し悪しを教わったしな」


 オレ、じいちゃんっ子で、ゲームより外で遊ぶことのほうが多く、スリングショットも作るところから教えられたものだ。


「まあ、悪さしたら食事抜きにするかぶっ叩いてやれ。痛みを知らないヤツは碌な大人にはなれんからな」


 元の世界なら虐待になるだろうし、正しいとは言わない。だが、オレはじいちゃんの教えがあったからまっとうに生きてこられたのだ。オレが結婚できて子供ができたら人の痛みをわかる子に育てるさ。


「ハァ~。わかったよ。マグル。悪さしたら食事抜きに拳骨だからな」


 マグルの頭を鷲掴みして持ち上げるゴルグ。それに耐えられるマグル。巨人、おっかねー!

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