第152話 コーヒー

 小雨が霧雨になってきて、気温も二十度まで落ちてしまった。


「涼しくなったな」


「晴れたらまた気温が下がりますよ」


「またあの寒さがやってくるのか。ミリエルやカインゼルさん、よくあの寒さを乗り越えられたよな」


「薪だけは安いですからね。銅貨一枚あれば数日分の薪は買えるんです。わたしは熱の魔石を買って乗り切りました」


「わしも熱の魔石で乗り切ったな」


 湯タンポみたいなものか? そう言えば、オレは使い捨てカイロで乗り切ったっけ。寒くなる前に少し買っておくか。


「午後から街に買い物にいってきます。ミリエルもいってみるか? オレじゃどんな布がいいかわからんからついてきてくれると助かる」


 ミリエルの脚は膝くらいまで回復しており、ゴルグが作ってくれた下駄と四点杖を使えば難なく歩けるくらいまでにはなった。まあ、バリアフリーではないし、舗装もされてないから相当汚れるとは思うがな。


「はい! いきたいです!」


 ノリノリなミリエル。周辺しか移動できないことに鬱屈してたのかな?


「ビシャとメビもいくか?」


 ラダリオン? あいつは服とかにまるで興味ないからいいんだよ。


「いかない。これからマルグとゴブリン駆除にいくから」


 あ、マルグもゴブリン請負員になりたいと駄々をこねたから親の許可の下、ゴブリン請負員としました。


「暗くなる前には帰ってくるんだからな」


「わかったー!」


 ちょっと不安であるが、そう遠くにいかなければ問題はないだろう。ビシャもメビも調子に乗る性格ではないし、山歩きも慣れている。装備もしっかりして出かけろだ。


 一旦、ホームに戻って用意を済ませ、カインゼルさんに留守を任せて街へ出かけた。


「気持ちいいです!」


「そうだな。少し、遠回りしていくか」


 北回りの道はちょっと悪路ではあるが、ゆっくり走れば酔うこともなかろう。酔いそうになったら休憩すればいいんだしな。


「ゴブリンの気配があるな」


 三十キロで走っていると、ちらほらとゴブリンの気配を感じる。だが、これなら刈り入れ前に追い払うってことしなくても問題はあるまいて。


 北から回り、西の門から街へと入る。


 連日の雨で道は泥だらけ。今日ではなく明日きたほうがよかったかもしれんな。


「店はどこにするんです?」


「第二城壁街で探してみるよ」


「第二城壁街ですか? 二級市民以上でないと入れなかったはずでは?」


「領主代理から二級市民にしてもらったんだよ」


 その代償として酒を献上しなくちゃならなくなったけどな。ギルドマスターが稼ぐ分では酒とお菓子は両立できないんで。


「わたしも入っていいんですか?」


「特別許可証をもらったから大丈夫だよ」


 商用門から入らなくちゃならないが、そうちょくちょくいく場所でもない。パイオニアならそう苦でもないさ。


「タカトです。第二城壁街へ買い物にきました」


 オレのことは知らされているので、ほぼ素通りだ。すぐに第二城壁街へ入れた。


 第二城壁街の地図は勾留している間に見せてもらい、スケッチブックに描き移して頭に入れた。また魔物が襲ってきたら逃げられるように、な。


「確かこの辺だったはずだ」


 布を扱っている商会が商用門の近くにあったはず。


「あれでは?」


 ミリエルが指差す方向に布や服を売る店があった。


 第三城壁街と違い、道路は煉瓦道で、よく掃除されているので商品が外にまで並べられていた。


 道幅はあり、馬車の往来はないようなので店先に停めさせてもらった。


 なんて店かわからんが、第二城壁街に店を出せる商会だろうに客はいない。御用回り、ってやつでもやってるんだろうか?


 金持ちの買い物がどんなものか知らんが、こうして店を開いているんだから入っても問題はあるまい。


「いらっしゃいませ」


 ここの主人ぽい、品のある中年男性が迎えてくれた。


 オレとミリエルを見ても笑顔を絶やすことはせず、追い払うこともしない。第二城壁街にいるってことだけで信用されてるんだろうか?


「布を見せてもらってもよろしいですか?」


「はい。ごゆっくり見てください。お求めのものがあればお申しつけください」


 と言われてもわからんので、ミリエルに丸投げ。オレはおサイフに徹します。


「タカトさん。予算はいくらですか?」


「予算か。まあ、銀貨十枚くらいでいいんじゃないか?」


 銀貨一枚一万円として、十万円くらいなら大体のものは買えるだろうよ。


「では、肌着に使えそうな布と、ちょっとしたお出かけに使えそうなもの。あと、厚手のものを見せてください」


 こう言うとき女性って頼もしいよな。ご主人。お願いしますねと、視線でお願いし、オレは店内を見て回った。


「お客様。こちらでお茶でも如何ですか?」


 そう広くもない店内。あっと言う間に見て回ってしまい、暇を持て余していたらご主人に声をかけられた。


「お連れ様はまだかかりそうですし、男性には酷でしょう」


 と言うご主人の言葉に甘え、お茶を飲むスペースに案内された。異世界の男も女の買い物には付き合い切れないんだな~。


「ここでも紅茶は飲まれるんですね」


 異世界なのに紅茶があるとか不思議なものである。この辺で栽培されてるのか?


「お客様は紅茶を嗜まれるので?」


「たまに飲むていどですね。いつもはコーヒー──って、わかりませんよね」


 さすがにコーヒーはないわな。


「いえ、わかりますよ。わたしもコーヒーは大好きです」


 あるんかい! この世界どうなってんのよ?!


「まあ、そう頻繁に入ってくるものではないので毎日は飲めませんがね」


 どうやらコーヒーは希少品で、裕福な家、主に男性に人気がある飲み物として広まっているそうだ。


「コーヒーがお好きならコーヒーをお出し致しましょう」


「よ、よろしいので? 希少なものでしょうに」


「大口のお客様。コーヒーくらい安いものですよ」


 銀貨十枚は大口なのか? まあ、せっかく出してくれると言うのだからありがたくいただいておこう。


 出してくれたコーヒーはなかなか美味いもので、元の世界にも負けてなかった。前に食べた串焼きもそうだが、もっとこの世界の食に触れないといかんな~と思わせるぜ。

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