第151話 ライダンド伯爵領へ

 小雨の日がしばらく続いている。


 なんでもこの小雨が、雨季の終わりになる合図であり、雨が上がれば秋と見られるそうだ。


 前の世界も暑い日が続いたと思ったらいっきに気温が下がって、あっと言う間に秋になってたっけな。まあ、こちらは基本的に気温が低い。暑い日でも三十度くらいだった。三十九度とか何度も経験してたら気にもならない暑さだったよ。


 カインゼルさんとの訓練も終わり、ミリエルに回復魔法をかけてもらいながら外を眺めていると、行商人のダインさんがやってきた。


「お久しぶりです」


「ええ、そうですね。お元気そうでなによりです」


 あれ? 前にダインさんきたのいつだっけ? 雨の日だったから一月も過ぎないよね?


「また酒を売っていただけませんでしょうか? タカトさんから売っていただいた酒を気に入る方が増えまして」


 この世界、酒か菓子好きしかいないのか?


「そうですか。こちらは構いませんよ。どんな酒をお望みで?」 


「日本酒を多く都合してもらえると助かります。わたしの大口の旦那さんが気に入ってしまって、十五本は仕入れてくれと頼まれましてね」


「日本酒ですか。随分と変わった舌をお持ちですこと」


 オレはあまり日本酒は飲まないからなんとも言えんが、ワインとかエールを飲んでる人の舌に合うんだな。酒飲みの人か?


 日本酒もいろいろなので安いの高いの、吟醸、大吟醸、純米、スパークリングなど、十五本ともバラバラにしてやった。


「今回は中瓶で用意しておきますね。気に入ったのを教えてくれれば次回からそれを用意します」


 他にもウイスキーやワインも用意してやり、カインゼルさんと相談して銀貨三十二枚で売ることにした。


「こんなに仕入れて売れるもんなんですか?」


「消滅魔法がかけられてないのでしたら領外に売りにいきたいところですよ」


 領外か。カインゼルさんからは聞いてるが、そう頻繁にいくところではないので、ウワサていどにしか知らないとか。いずれ領外にいくことにもなるなら一度見にいってもいいかもしれんな~。


「ダインさんは、領外にいったことはあるので?」


「見習いのときにライダンド伯爵領には何度もいきました。一人立ちしてからは辺境伯領内ばかりですがね」


 見た目は三十歳くらい。感じからして四十はいってないはずだから十年以上前ってことか。なら、伝手はないにも等しいか。ギルドにいって護衛依頼でも受けたほうがいいかもしれんな。


「あ、ライダンド伯爵領には兄弟子がいますし、年に数度は辺境伯領にきていますよ」


 オレの悩む顔を見てなにかを察したのか、ライダンド伯爵領との繋がりを示してきた。


「ライダンド伯爵領になにかご用で?」


「いや、一度領外を見ておこうかな~と思いまして。ただいくのもなんですから、護衛しながら、とか考えてたんですよ」


 あちらのゴブリン事情とかも聞けたら尚よし。道も覚えたらパイオニアでいける。百キロも二百キロも離れてるんじゃないだろうから、いく気になればいける距離のはずだ。


「でしたら、わたしの護衛をしていただけませんか? ワインの原料を運びたいのです」


 原料? 


「……それって、酒を売るギルドか商会が握っているのでは?」


 前にきたときそんなこと言ってなかったっけ?


「酒の売買は大きいところが仕切ってますが、原料の売買は町が仕切っています。まあ、それを担う仲買がいますが、三等種ならわたしでも買えるんです。儲けとしては少ないですが、ライダンド伯爵領で羊毛を仕入れれば儲けは出せるんです」


 羊毛の産地なのか、ライダンド伯爵領って? ロミーなら知ってるかな?


「ライダンド伯爵領にいけるならオレは構いませんよ。いついきます?」


「十日後ではどうでしょうか? 急いで用意します」


「あ、別に急がなくてもいいですよ。街へ買い物にいかないといけませんし」


「では、十五日後でも構いませんか? わたしは、ミスリムの町を拠点としております。準備が調いましたら連絡にきます」


「わかりました。オレらがいないときは巨人のゴルグに伝えてください。よほどのことがない限りは夜には帰ってきますから。あ、これって、冒険者ギルドを通したほうがいいんですかね?」


 カインゼルさんをチラッと見ながらダインさんに向けて問うた。


「わたしだとそう高い報酬は出せないので、冒険者ギルドを通すとさらに報酬は少なくなります」


「揉め事を少なくするためにはギルドを通したほうがいいが、タカトはダインに道案内とライダンド伯爵領のことが知りたいのだろう? それなら協力者として一緒にいくのだから通さなくても構わないだろう。三等種ならすべてを失ってもそう致命的な損害にはならんのだろう?」


「はい。原料はライダンド伯爵領にいく口実みたいなものです。空荷でいくのもなんですからね」


 そう言うもんなのか? オレにはよーわからんわ。


「その辺はダインさんに任せます。オレらは五人で、魔法の馬車一台でいきます」


 馬車を護衛するなら何人かは歩きのほうがいいだろう。なら、一台で充分だ。いざとなればホームに入れられるからな。


「わしがダインと連絡を取り合う。タカトは街のほうに集中したらいい」


「そうですね。なら、お願いします」


 今日はそれだけ決めて、ダインさんは帰っていった。

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