第150話 アルズライズ

 充分休んだ次の日。外のうち、ラダリオンの部屋で銃の掃除を皆ですることにした。


 用があるならと言ったんだが、カインゼルさんも混ざって銃を分解して掃除をしている。


 ビシャとメビにはまだ難しいので、シリコンスプレーで外側を拭いてもらう。


 万能潤滑油、556でやってたが、やはり専用のガンオイルがいいのかと思って調べてすぐ出た防錆潤滑剤でやることにした。


 まず最初にグロックから始め、カインゼルさんに分解手順を教えながらやっていく。ラダリオンにはSCARと416Dを任せた。


 ミリエルにはMINIMIのバレル掃除をお願いする。それならやらせていたから。


 のんびりやりながらやっていると、豪鬼のアルズライズがやってきた。この鬼、雨の日は休みなんだろか?


「買いにきた」


 相変わらず言葉少ない鬼である。まあ、だからっておしゃべりでも困るけどよ。


「邪魔をしたようだな」


 ラダリオンの部屋に気配を感じたのか、殊勝なことを言う。見た目は怖いが、意外と根は真面目なんだよな、この鬼って。


「構わない。休みみたいなものだから。ラダリオン。休憩しよう。菓子を持ってきてくれ」


「ケーキ食べたい!」


「わたしも~!」


 アルズライズがくるとケーキを食べれると思ってるのか、部屋からビシャとメビが飛び出してきた。


「ラダリオン。イチゴとティラミスを持ってきてくれ」


 そうお願いして持ってきてもらい、オレはカセットコンロを出してお湯を沸かした。


「……毎日食べれたら……」


 イチゴのケーキを一つ完食してからの一言。甘党と言う生き物の胃はどうなってるんだろう? 見てるこっちの胃がおかしくなりそうだわ……。


「ゴブリン駆除の請負員となれば食えるぞ。ゴブリン一匹狩ればそのケーキが二つ買える。通常依頼のついでにゴブリンを数匹狩れば毎日どころか朝昼晩と食えるぞ」


 朝昼晩とケーキを食える毎日。考えただけで口の中が甘くなってくるな。


「なる!」


 と言うのでアルズライズを請負員とした。


「ついでたがらラザニア村周辺のゴブリンを駆除するか。カインゼルさん。スコーピオン、貸してもらえますか?」


 まだ銃を買い足してないし、MP9は駆除向きじゃない。スコーピオンなら水にも強い。こんな日にちょうどいいだろう。


「アルズライズ。周辺にゴブリンが何十匹かいる。やるか?」


「もちろんだ」


 ホームに戻って用意を整え、スコーピオンを借りてアルズライズと二人でゴブリン駆除へと出た。


「まず、あちらに二匹いる」


「わかるのか?」


「ああ。オレはゴブリンの気配だけはわかる。だから、他の魔物は任せる」


 金印の冒険者がいるなら心強い。雨の日の訓練をしておこう。


 オレが先行し、三十メートルまで近づいた。


「あそこ。三十歩くらいの距離に二匹隠れている。こちらに気づいている気配だ」


「わかった」


 そう返事して、振り向いたらアルズライズが消えており、どこ? と視線をさ迷わせていたらゴブリンの気配が消えた。へ?


「狩ったぞ」


 悠々と前方からゴブリンの首をつかんで戻ってきた。


 ……き、金印、バケモノすぎんだろう……。


「ゴ、ゴブリンは捨てていい。殺せば報酬が入る。請負員カードを確かめてくれ」


 両手のゴブリンを放り投げ、請負員カードを取り出した。


「……入っている」


「それで七千円。まあ、大銅貨二枚くらいだな」


 あれ? 大銅貨一枚ってどのくらいだったっけ? 忘れたわ。


「あのケーキが四つ買えるんだな」


 アルズライズにはケーキ換算したほうがよさそうだ。


「ああ。シュークリームなら七十個は余裕で買えるな」


「三日は朝昼晩と食えるな」


 フフっと凶悪に笑った。一日二十個も食うんかい! ラダリオン並みだな!


「次はどこだ?」


「あっちに三匹だ」


 それから一時間で三十六匹を駆除できた。まさにサーチ&デストロイであった……。


「今日はこのくらいにしよう。余裕でケーキ百個は買えるくらい稼いだし」


 レインジャケット、蒸れて暑い。一時間も山を駆け巡ったし、いい訓練になっただろう。


「わかった。ケーキ百個ならしばらく楽しめる」


 アルズライズならすぐになくなりそうだな。


 うちに戻り、アルズライズにはサウナを使ってもらい、オレはシャワーを浴びた。


 すっきりさっぱりし、サウナから上がってきたアルズライズによく冷えたベスミーシェイクを出してやった。


「ベスミーか?」


「ああ。リハルの町で買ったものだ。ジャムもあるから食うかい?」


 ミリエルに作り方を教えたらロミーにも伝わり、今では巨人の奥様たちがリハルの町から買ってきて作っているよ。


「ああ。いただこう」


 ミリエルに持ってきてもらい、アルズライズに出してやった。


「甘い。砂糖が入っているのか?」


「ああ。たっぷり入ってるよ。土産に持っていくかい?」


 最初はよく食ってたが、さすがに十日も食えば飽きる。ラダリオンも最近では朝にしか食ってないよ。


「もらう」


 と言うので在庫一掃処分。美味しくお食べください。


「そうだ。ゴブリン駆除ギルドを立ち上げるんだが、アルズライズも入るかい? これと言って決まりはないが、大量発生したときに協力してもらえたらそれでいいからさ」


 金印ともなれば冒険者業が忙しいだろうし、無理強いはできない。暇なときに手伝ってくれるくらいで構わないさ。お菓子のために定期的に駆除してくれるだろうからな。


「入る。お前とだとゴブリン狩りが楽だからな」


 金印でもゴブリン狩りは面倒で、こんなに簡単に狩ったのは初めてなんだとさ。


 こうしてゴブリン駆除員は三人。請負員が十二人になった。もっと増やしてオレが生きられる環境を作っていこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る