第433話 燃え上がれ

 オレ、もしかしてとんでもなくパワーアップしてないか?


 魔力増幅腕輪をしているとは言え、威力が並みとは思えないし、一日中山を歩いたといのにそれほど疲れなかった。

 

 休み休みとは言え、ウォータージェットは二百発は撃てたし、今も二、三キロ歩いたくらいの疲れしかない。前とはダンチだぞ。


「……竜の血、どんだけだよ……」


 オレ、大丈夫だよな? ちゃんと人間でいられているよな? 変な生き物になってたら嫌なんだけど!


 恐怖で体が震えてきたが、空腹とはすべてを陵駕するもの。思い悩むのはあとだと山を降りた。


 村に戻ると、なにやら賑わっていた。なんだ?


「マスター。お帰りなさい」


 若い女性としゃべっていたデトがオレに気づいて駆け寄ってきた。


「なにかあったのか?」


 なんかやたらと女性が多くない?


「村の女衆が料理を振る舞ってくれているんです」


「随分と馴染んでいるな」


 前は隠れて出てこなかったのに。


「タカト殿。勝手にすまぬな。女衆が礼をしたいと聞かなくてな」


 男爵がやってきてそんなことを口にした。


「こちらとしてはありがたいですが、どういう風の吹き回しです?」


 親切心から、なんてことはないはずだ。なにか思惑があってのことだろう。これはどう見ても色仕掛けされてんだろう。


「……ミラジナは男が少ないのだ……」


 下手に隠し立てすることなく口にした。


 あーなんかそんな話聞いたことある。血が濃くならないよう外から血を入れるって。ここってそういうところなんだ。


 まあ、元の世界でも昭和初期まであったと言う。こんな中世のような時代じゃ当たり前のようにあることなんだろうな~。


「そちらは構わないので? 奴隷でありモリスの民ですよ?」


 オレは別に気にしないし、そっちが望んでいるなら好きにしたらいいとは思う。けど、現地の人にしたらどうなの? 差別やら人権無視が当たり前の時代なんだからな。


「いずれアシッカの民になるのだろう?」


「マレアット様から聞いたので?」


 信頼できる人には言っても構わないとは言ったが、ミラジナ男爵は信頼する人の一人だったんだな。


「ああ。わしも賛成だ。胃が痛くなるくらい男手問題に苦慮していたからな。奴隷だろうとモリスの民だろうと関係ない。アシッカの民になるのだからな」


「……男爵はもっと保守的な方だと思っていました」


 他から血を入れるなどもっての他、とか言いそうな人だと思っていたよ。


「そうだな。だが、このままではミラジナ男爵が途絶えてしまう。わしの孫は女ばかり。なんの呪いかと思うよ」


 男系社会ではそう思いたくもなるだろうな。よく知らんけど。


「確かにわしは古くさい人間だが、男爵としての立場や役目を放り出してまで我は通せん。次を残す義務がある。なら、優秀な血を入れたい」


 と、デトに目を向けた。てことは、あの女性は孫か。


「人を見る目がおありだ」


「無駄に歳は重ねておらんさ」


 やはり人は怖いもんだ。だが、伯爵にしたら心強い味方ができたってことだ。


「デトは後継者に向いてますか?」


「タカト殿が気にかけるくらいにはな」


 この人の評価を大幅に変える必要があるな。伯爵の味方として深く関わらせるとしよう。


「他からちょっかいを出されないためにデトたちはまだ奴隷のままにさせておく必要があります」


「それは理解しておる。今のアシッカでは対抗することもできんだろうからな」


「このことが他の男爵に知られたら囲い込みが激しくなりそうですな」


 保守的なミラジナ男爵が動いた。他の男爵にしたら青天の霹靂だろうよ。このままではいかないと絶対に動くはずだ。


「マレアット様がタカト殿を重んじるのもよくわかる。男爵ていどでは相手にもならんよ」


「春にはアシッカを離れる身。今後のマレアット様を支えるのはミラジナ男爵のような方ですよ。ちょくちょく顔を出して話を聞いてやってください。この隊はミラジナ男爵駐留として進言しておきますので」


 貴族の思考はわからんが、派閥争いは知っている。自分の派閥を守るためなら攻めにも出れるものだ。今、伯爵のブレーンの席は空いている。早い者勝ちで取り合え、だ。


「……怖いの……」


「無駄に歳を重ねてない人のほうが怖いですよ」


 守るべきときに守り、攻めるべきときには攻める。老獪とはこの人のことを言うんだろうよ。


「デト。しばらくミラジナ男爵領駐留を命じる。男爵の指揮で動け。武器や物資は報酬から買うことを許す」


 計画が変わってしまうが、モリスの民がアシッカに受け入れられるならそれもいいだろう。これからもモリスの民を移していくんだからな。


「はっ! わかりました!」


 てか、男は女で変わると言うが、まさにその実例を見た感じだな。いや、今まで女っけがなかったからコロッといったのか?


 そういや、同僚にも男子校出身のヤツがいたが、女に免疫なくてコロッと騙されていたっけ。デトたち、大丈夫かな?


 まあ、心配しても仕方がないか。このことを伯爵に伝えて、ミラジナ男爵を味方に引き込むよう進言するとしよう。春前には一度コラウスに戻りたいからな。


「デト。明日も休みにするから人生を楽しむといい」


 盛り上がったらそのままいってしまいそうだしな。燃え上がれ、男たちよ、だ。


「はい! ありがとうございます!」


 男たちの感謝を軽く流し、ホームに入った。オレは女より冷えたビールのほうが優先されるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る