第434話 アシッカ支部

 次の日、デトたちに声はかけずアシッカに向かった。


 気温が十度を越えたので、城壁の外の雪は完全に解けてなくなり、畑を耕す人がちらほら見えた。


 巨人たちもレーキを使って耕すのを手伝っている。あ、そういや、ゴルグはどうした? コラウスに帰ったか? 


「ゴルグ、どうしました?」


 農作業する巨人に尋ねてみた。


「何日か前に帰ったよ」


 あ、そうですか。どうもです。


 大した稼ぎを与えてやれなかったな。コラウスに帰ったらまたゴブリンを集めてやるか。どうせまた増えているだろうしな。


 伯爵にミラジナ男爵のことを伝え、奴隷傭兵団の配置や処遇を話し合い、そろそろ帰ることを伝えた。


「それは寂しいな」


「そう言ってもらえるのは嬉しいですが、自分の判断と決断で動けるようにならないといけません。経験を積んでください。夏にはまたきますので」


 コラウスからマイヤー男爵領まで道があり、マイヤー男爵領からミジア男爵領、ロック男爵領と巨人が均してくれている。夏までにはパイオニアが走れる道や橋はできているだろう。そうなれば二日くらいでやってこれるだろうよ。


「わたしもコラウスにいってみたいよ」


「なら、留守を任せる者を育ててください。できる上司は下に仕事を割り振れる者ですよ」


「上に立つということがこれほどの苦行だとは思わなかったよ」


「そうですね。自分の立場をよくしようとしたらいらぬ苦労を背負わされる。なのに見返りは少ない。ただ、平和に、穏やかに暮らせたらそれでいいだけなのに」


 上を見たらきりがなく、下を見たら際限かない。ほどよい位置にいることが幸せだと、社会に出て悟ったよ。


「ああ、まったくその通りだ」


 立場は違うが、背負う苦労は同じ。そして、こうして愚痴を言い合う相手がいてくれる。恵まれてはいると思うよ……。


 今生の別れでもないし、まだアシッカにはいるが、この共感に乾杯したくて伯爵が好きなシーバスを出した。


「「乾杯」」


 一杯飲んだら「また」と言って館をあとにした。


 パイオニアはホームに戻し、歩いてギルドに向かった。


 きたときと同じく人の往来は激しく、滅びかけた街とは思えない。他から流れてきた者がゴザを敷いて物売りをしてたり、どこから持ってきたのか屋台まで出ている。発展と衰退は凄まじく早いものだよ。


 冒険者ギルドの前にはくたびれた感じの冒険者チームが何組かいた。


 長旅をしてきたんだろうな。疲れが顔に出ているよ。ホームに入れるオレは恵まれていることを再確認したよ。 


 逆にゴブリン駆除ギルドは閑古鳥が鳴いている。まあ、請負員のほとんどはエルフと奴隷傭兵団であり、駆除員がいなきゃ請負員にできないんだから当然の結果だろうよ。


「マスター、お疲れ様です」


 中に入ると、ほんわかとした空気が満ちており、皆仲良くお茶をしていた。


「お疲れさん。冒険者が流れてきてみるみたいだな」


「ええ。隣の領地や山脈を越えてミヤマランからきているみたいですね」


 オレもお茶に混ざり、冒険者の情報を聞かせてもらった。


「薬草なんて生えてたんだ」


 なんの仕事があるのかと思ったら、オードブルにはいろんな薬草が生息しており、毎年冒険者が集まってくるそうだ。ただ、去年からゴブリンが集まりすぎて、冒険者ギルド撤退まで追い込まれたそうだ。


「冒険者ギルド、勝手に築いちゃって不味かったかな?」


「コラウスの冒険者ギルドからの支援ってことになっているから問題ありません」


 そっちは完全に管轄外でノータッチ。ふーんと流しておく。


「問題はゴブリン駆除ギルドだな。伯爵への支援くらいしかやることないし、縮小したほうがいいかな?」


「そうですね。もう宿屋と酒場経営みたくなってますしね」


 話し合った結果、アシッカにはザイルとカナル、タリアに残ってもらい、ここで雇い入れた者とでギルドを運営してもらうことにした。


「じゃあ、三人を連れてゴブリン駆除に出るか。五十万円ずつ入れておいたほうがいいだろう」


 山脈にはまだゴブリンがいそうだ。また拠点を築いて狂乱化させたら五百匹なんてすぐ集まるだろうよ。


「それなら職員全員でいきませんか? ここにきてゴブリンを狩ったのって一、二回くらいですしね」


「そうだな。がんばってくれた職員に報いてやらんといかんな」


「だが、留守にはできないからミリエルとアリサにいてもらうか」


 ミリエルがいるならすぐに戻ってこれる。アリサたちには護衛してもらうとしよう。


「職員は何人だっけ?」


「コラウスから連れてきた職員が六名。アシッカで雇い入れたのが十名です」


 計十六人名か。結構な数になってたな。


「あれ? ゼイスはどうしたんだ?」


 元鉄印の冒険者だったゼイスや他にもいたよな?


「コラウスに戻りました。あちらも人が足りてませんからね」


 さすがシエイラ、頼りになるぅ~。


「何日くらいで用意できる?」


「今日と明日で用意します。ミリエルには今日か明日の朝はきてもらってください。引き継ぎをしますので」


「わかった。これからマイセンズの砦にいってくるよ」


 報酬の動きからしてゴブリン駆除をやっているみたいだ。暗くなる前には戻ってくるだろうから、アリサたちも連れて戻ってくるとしよう。


 久しぶりにKLX230を出してきてマイセンズの砦に向かった。

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