第435話 悪い女

 朝の八時、ギルドから出発する。


 目標は山脈の中腹と言うざっくりとしたものだが、そこの地図がないのだから現地にいってから決めるしかない。


 途中まではパイオニア二号とウルヴァリン、そして、軽トラに分乗して向かう。


 それで十六人はキツいが、荷物はホームに入れてあるし、そう長いこと乗っているわけでもない。ミントンカ男爵領まで乗っていくまでだ。


 ミントンカ男爵はアシッカ伯爵の寄り子であり、一番離れたところにある男爵領だ。


 顔合わせはしているが、あまり記憶がない。四十歳くらいの髭面としか残ってない。あまりしゃべるタイプでもなかったしな。


 道はよくないものの幅はあるので二時間くらいで到着できた。 


「約二十キロか。これじゃ気軽にこれる距離じゃないな」


 ミントンカ男爵領は木材や豚が主産業で、アシッカで使っている木材はここから運んでいる。


「なかなか堅牢な柵だな」


 山が近いだけにふんだんに木が使われており、高さも三メートルくらいある。櫓もいくつも建っていて魔物の襲撃がよくあることを語っていた。


 そんなところでよく豚を飼っているな。エサをばら撒いているようなものじゃないのか?


「マスター。誰か出てきました」


 柵の門が開き、男爵らしき男とガタイのいい男たちが出てきた。


 さすがこんなところに住もうという連中である。オレの倍はありそうなのばかりだ。バーバリアンかな?


「お久しぶりです。ミントンカ男爵様」


 うっすらとしか覚えてなかったが、こうして顔を見合わせたら思い出したよ。


「ああ、久しぶりだ、タカト殿。今日はどうした?」


「ギルド職員にゴブリンを狩らせるために山脈に入ろうと思いまして、一番近いミントンカ男爵様のところにきました。ゴブリンの情報がありましたら教えてもらえませんでしょうか? お礼はさせてもらいますので」


「……わかった。中へ」


「ありがとうございます。車を中へ」


 運転手に指示を出し、村に入った。


 中は意外と広く、木造の家が密集して建てられており、離れたところに煉瓦の倉庫がいくつか並んでいた。


「ザイル。軽トラで荷物を持ってくる。ここを見張っててくれ」


「わかりました」


 軽トラに乗り込み、ホームに入る。


 荷物は一ヶ所に纏めてあるのですぐに積み込められ、五分くらいで外に出た。


 荷物を降ろしたらまたホームに。次はミントンカ男爵へ渡す手土産を積み込んだ。


 大体はワインで、次は塩。これはコラウスで買ったものなので十五日縛りはない。あとはバイルズ武具店から買った斧を十本だ。


 ……なぜか定期的に売りにきているから予備として買い込んでいるんですよ……。


「ミントンカ男爵。これは世話になる礼です。受け取ってください」


「気前がよいな」


「仲良くやっていきたいですからね。このくらい惜しくもありませんよ」


 ワインは全部で二万円。塩と斧なんて銀貨……何枚だ? よくわからんわ。


「まあ、手土産みたいなものですよ。受け取ってもらえたら幸いです」


「わかった。ありがたく受け取ろう。お前たち、運べ」


 バーバリアンな男たちが軽トラから荷物を降ろして家のほうに運んでいった。


「中で話そう。大したもんは出せぬが、歓迎しよう」


「ありがとうございます。シエイラ、ついてきてくれ。ザイルたちは出発の準備を進めておいてくれ」


 そう指示を出して男爵のあとに続いた。


 アシッカの男爵は村長みたいな立場みたいで、他よりちょっといい家って感じだった。


 中もエビル男爵の家とそう変わらない。ただ、奥さんの趣味なのか、こちらはファンシーな感じに整えられていた。


「マレビア。お客人だ」


 奥に呼びかけると、二十歳くらいの女性が出てきた。娘さんで?


「妻、マレビアだ。こちらは前に話したタカト殿だ」


 はぁ? え? 妻? 娘ではなく?


「マレビアです。主人からよく聞いております。よろしくお願いします」


「あ、はい。よろしくお願いします」


 なんと返していいのかわからず、思わず下手に出てしまった。


「お、お若い奥様で」


 軽く二回りは違うよね? お巡りさん案件ですか?


「恥ずかしい限りだが、前の当主が兄で急逝してな。急遽、わたしが継ぐことになった。十も下の娘など無理だと言ったのだが、長老連中に押しきられたのだ」


 十も下? え? ミントンカ男爵、もしかして三十代なの? 四十過ぎにしか見えないんだけど!!


「し、失礼ですが、男爵様は何歳なのですか?」


「三十二歳だ」


 まさかの一歳上! どんな見た目詐欺だよ! 


「さ、三十二歳ですか。オレと同年代とは親近感か湧きますよ」


「同年代? タカト殿は何歳なのだ?」


「三十一歳です」


 二十九から三十になるほどの衝撃はないが、歳を重ねるのが嬉しくない年代になったものだよ。


「三十一!? よくて二十歳かと思ったぞ! マレアット様とも気心が知れていたからな」


 伯爵と同じ歳と思われてたんかい! なんか視線が痛いな~と思ってたら若造が! とか思われていたのか?


「三十一歳ですよ。オレの故郷では年相応に見られるんですがね」


「……まさか、同じ年代とは……」


 よほどショックなんだろう。いや、なににショックを受けているかは知らんが、奥さんまで驚いているよ。


「オレ、そんなに若く見られていたのか?」


 シエイラに尋ねてみた。


「そうですね。わたしも歳を聞いたときは驚きましたが、妙に落ち着いてた理由もわかって納得しました」


「もしかして、若造だ思って色気を振り撒いてきたのか?」


 悪女か。いたいけな青年になにやってんだよ!


「まあ、それもありますね」


 悪戯っぽく笑うシエイラ。いたいけな青年のトラウマになってないことを祈るよ。てか、他の理由もあったんかい!


「将来ある若者をいじめるなよな」


「いじめてませんよ。ただちょっと味見しただけです」


 まったく、タチの悪い女だよ……。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る