第283話 食料不足
「……ミリエル嬢が言ったように誠実な方でよかった……」
顔を上げると、柔らかい笑みを浮かべていた。ミリエルがなにか言ったのか?
「タカト殿は誠実には誠実で返す人だから真摯に対応すればアシッカ伯爵領の発展に繋がるとな」
ミリエル、そんなこと言ってたのか……。
「発展するかはマレアット様の判断と決断。そして、行動次第です。アシッカ伯爵領を治めているのはあなたなのですから。わたしどもはそれに応えるだけです」
すべてをこちらに丸投げされても困る。オレはコンサルタントを生業としているわけじゃないんだからな。
「ああ、わかっている。こちらとしてもタカト殿と協力していきたいと思っている。見てのとおりアシッカは窮地だ。タカト殿に見捨てられたらアシッカは消えてしまう。民を働かせてやってくれ」
「それを書面にして、ゴブリン駆除ギルドへの要請と言う形にしてください。お互いの関係を明確にしておくためにも」
あとでどんな問題になるかわからない。アシッカ伯爵からの要請にゴブリン駆除ギルドが応じた、って形を明白にして記録を残すべきだろう。
「それと、今日のことは記録して残しておいてください。大きな権力から横槍を受けたときの証明ともなるはずですから。もちろん、こちらも記録して、コラウスにも伝えますので」
「……随分と手間をかけるのだな……?」
「それが自分を守るためのことですから。マレアット様は、より上の爵位を持つ方の傘下だったりなにかの派閥に入っていたりはしますか?」
「いや、恥ずかしいが、アシッカ伯爵は周辺の男爵を纏める寄り親だ」
戦国時代にあった寄り親寄り子ってヤツか? まあ、どんな制度かよく知らんけどさ。
「なるほど。若いのにやけに落ち着いているなと思っていたら、そういう理由でしたか」
「落ち着いていられるのはタカト殿がきてくれたお陰だからだ。たくさんのゴブリンに囲まれ、日々食料や燃料が減っていく。恥ずかしながら何度も泣いたものだ」
真面目で責任感のある人なんだろうな。でなければ逃げ出しているところだ。
「わたしが言うのもなんですが、マレアット様は立派ですよ。それでも逃げずにいるんですから」
まあ、逃げるに逃げられず閉じ籠っていたんだろうけどな。
「ふっ。ミリエル嬢やアルズライズ殿があなたを信じるのもよくわかる。わたしも見習わなければならんな」
オレを見習っても仕方ないと思うがな。
「これからしばらくは町の周りにいるゴブリンを駆除し、これまで駆除した死体を片付けに入ります。なにかございましたらギルド支部に連絡を入れてください。職員を向かわせますので」
オレも駆除や片付けに参加しなくちゃならない。呼び出されても応えられない場合もある。その辺はご了承ください、だ。
「ああ。了解した。よろしく頼む」
一礼して伯爵の前から下がった。
部屋を出ると、モーリスさんとコートを預けた中年女性がいた。見送りか?
「タカト様。少しよろしいでしょうか?」
「マレアット様に内緒で?」
「いえ。これは奥のことなのであとで報告致します」
奥? なんや?
ここでは、と言うので館の一階。伯爵が入ってこなさそうな部屋へ通された。
「申し訳ありません。お客様をこんな奥に通すなど失礼極りないのですが、ゴブリンのせいで奥事情が切迫しておりまして、お茶を出すことも貧窮しております」
つまり、食料がないってことか。
「わかりました。ただ、わたしどもが出す物には制約の魔法がかけてあります。わたしどもの手から離れたら十五日で消えてしまいます。それを記憶に刻んでおいてください」
「はい。そのことはミリエル嬢より聞いております」
「予算はいかほどで?」
さすがにタダで、とはいかない。こちらも潤沢に金があるわけじゃない。伯爵とよい関係を保つためにも金銭関係はしっかりしておくべきだ。
「まずは銀貨二十枚でお願い致します。もう食料庫は空に近いので」
「ミリエル。モーリスさんと欲しいものリストを作ってくれ。館の食料庫になにがあるか調べるから」
館のことはシエイラに一任して、食料庫は料理人のジョブとミラルの管轄。オレは尋ねてないとわからんのよね。
「わかりました」
ホームに入り、ミサロに事情を話して記録帳を持ってきてもらった。
「かなり量を貯めてたんだな」
食料はオレらが出しているが、万が一に備えてこの世界の食料も貯めるように指示は出していた。だが、こんなに貯め込んでいるとは思わなかったよ。
「今年は雪が降るかもとジョブが多めに集めたみたいよ」
そういや、カインゼルさんも言ってたな。今年は雨が多いから雪が降るかもと。天気予報がないと経験則や肌でわかるものなんだろうか?
「半分くらいアシッカに渡しても問題ないか?」
「大丈夫そうよ。今年はゴブリンの被害が少なかったから雪が解けてからでも困らないってさ」
ゴブリン駆除をがんばってよかった、ってことだな。
「──タカトさん。モーリスさんが薪もあれば欲しいそうです」
「薪か。館に薪はあったっけ?」
各部屋に暖炉を設置したから薪はあるだろうが、どれだけあるかまでは知らない。それもシエイラ任せだし。
「たくさんあるわよ。宿舎を造るのに森を拓いたからね」
教えてくれたのはミサロ。何気に館の事情を把握しているよな……。
「じゃあ、トレーラーに薪を積むように指示を出してくれ」
さすがにミサロ一人では薪をホームに運ぶのは大変だ。トレーラーに積んでホームに入れ、館に出せばそう苦労はないはずだ。
「結構あるな」
欲しいものリストを見ると、銀貨二十枚で足りるのか? と思うくらいの量が書かれていた。文字は読めないけど。
「これは、別の方法を考えないとダメだな」
とてもじゃないが一つの町を支えるほどの物資は用意はできない。これは、巨人を投入するしかないか?
まずは銀貨二十枚分の食料を用意して外に運んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます