第125話 紛らわしいわ!

 シャワーを浴びてさっぱりとし、中央ルームでビールを飲んでいたらミリエルが戻ってきた。


「二人とも落ち着いて眠ってしまいました」


「そっか。なにか必要なものはあるか?」


「まずは下着と服ですね。着ていたものはボロ切れでしたから」


 どんなものがいいかと、ミリエルと一緒にタブレットを見て下着や服、靴などを買った。


「あの二人はセフティーホームには入れないんですか?」


 ロミーさんにも訊かれたことをミリエルも訊いてきた。


「ここに入れることは一生、ゴブリン駆除をさせることだ。あの二人にそんな道を進めたいか?」


 意地悪な言い方だが、ここに入ることはそう言うことなのだ。


「女神からゴブリン駆除員をやらされた者は最長五年しか生きられてない。そんな道に誘うなどできない。請負員がちょうどいいんだよ」


 ミリエルを誘うときにそんなことは説明しなかったが、両脚がないミリエルの未来もオレと似たようなものだ。あのままミスリムの町にいても長生きはできなかっただろうからな。


「去りたいならいつ去っても構わないからな」


 その回復魔法がなくなるのは惜しいが、責任から逃れることもできる。他人の命を持つって想像以上に重いんだよ。


「去りません! ここがわたしの居場所ですから!」


 ミリエルの宣言に小さくうんと頷いた。自らの意志でここにいてくれると心の重さが少しだけ軽くなるからな。


「じゃあ、置いてきます」


 すっかり移動がスムーズになったミリエル。下着や服、靴などを抱えて中央ルームを出ていった。


 残りのビールを飲み干し、夕飯を買うことにした。


 六時くらいになってラダリオンがやってきた。


「ご苦労さんな。飯にするか?」


「ううん。シャワー浴びてくる」


 珍しく食うことよりシャワーを選んだ。ど、どうした!?


 ユニットバスに消え、五分くらいで出てきた。そこはいつものラダリオンだった。いや、もうちょっと綺麗に洗ってきなさいよ。


「豚骨醤油ラーメンも食べたい」


 オムライスに豚骨醤油はどうなんだ? とは思ったが、ラダリオンの胃に食い合わせとかは関係ない。入るものすべて胃を満たす食料であった。


「野菜も食べろよ」


「うん」


 望むものを望むままに。でも、ちゃんと野菜も食べなさいよ。ほら、トマトとブロッコリーだ。ドレッシングはフレンチでいいな?


 五人前を平らげたらコス○コのティラミスを十五秒で完食。お代わりにいくかと思ったらごちそうさまだった。


「もういいのか?」


「うん。ちょっと食欲ない」


 皆まで言うな。ラダリオンが食欲ないと言うならそうなのだよ。素直に受け入れたまえ。


「故郷が焼かれたんだって」


 一瞬、なんのことかわからなかったが、あの二人のことだと理解した。


「そうか」


 縁もゆかりもなく、数時間前に会った者に感情移入はできない。後ろ姿しか見てない存在だし。


「仲間のところに戻りたいか?」


「……ううん……」


 三十過ぎの男でも帰りたいと思ってるのだ、十四歳くらいのラダリオンが帰りたくないなんて思わないわけがない。けど、自分が捨てられたとわかっているから否定してるのだろう。ってまあ、オレの勝手な思い込みだけどな。


「あの二人、なに食うんだ?」


「ホットドッグのソーセージ」


 それは肉しか食べないってことか? 肉食系? もっと聞き出してきなさいよ。


 とりあえず、胃に優しいかどうかはわからんが、サラダチキンと無添加のソーセージ、鍋とカセットコンロを持って外に出た。


「ラダリオンの部屋か?」


 二階から下を覗くが三人の姿はなし。ラダリオンの部屋か? 


「入るぞ」


 ドアが開け放たれてるが、一応、声をかける。怖がらせても不味いからな。


「はい。どうぞ」


 許可が出たので部屋に入ると、ニャーダ族の子供がサッと物陰に隠れた。猫か。


「大丈夫よ。タカトさんは優しいから」


 そう言われても信じられないのだから無理しなくていいさ。


「それより、腹減っただろう」


 カセットコンロに鍋をかけ、水を入れて湯を沸かす。


 沸いたらソーセージを入れて茹で上げ、サラダチキンと一緒に皿に盛って出してやった。


 物陰からグ~っと腹の虫がなく。この世界の住人は胃が強くできてそうだ。


 なかなか出てこなかったが、ラダリオンがやってきたら物陰から出てきた。


 ニャーダ族と言うから猫の獣人かと思ったら、見た目、犬の獣人だった。なんの詐欺だよ!


 クソ。この世界の名称、いろいろ間違ってるだろう! ニャーダじゃなくワンダーにしろや! 紛らわしいわ!


「食べるといい」


 ラダリオンがそう言うと、二人は皿に手を伸ばし、ソーセージをつかんで食べた。あ、フォークを持ってくるの忘れたわ。


 二人は手づかみでソーセージやサラダチキンをあっと言う間に食べ尽くし、満たされたのか電池が切れたかのように眠ってしまった。


「ラダリオン。今日は一緒についててやれ」


「タカトさん。トイレはどうします? 雨が降ったら外にいくのは辛いですよ」


 そっか。この家にトイレなかったっけな。


 セフティーホームに戻り、仮設トイレで探していき、ポータブル水洗トイレってのがあった。一万円くらいだし、二つ買えばしばらくは問題なかろうよ。


 衝立で見えないようにしてやり、あとはラダリオンに任せてオレとミリエルはセフティーホームへと戻った。

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