第124話 いい夫婦

 リハルの町に到着し、町館へと向かった。


 堀を渡り、町館の中庭的なところにくると馬車で溢れていた。なんだ、いったい?


「避難してきたんだろう。リハルの町ではよくあることだ」


 よくあることなんだ。住んでる人らは心休まらないことだろうな。オレなら胃を痛めるか頭髪が薄くなるかのどちらかだよ。


 ギルド支部の前にパイオニアを停め、カインゼルさんが支部長に報告にいってる間に、オレはサッとセフティーホームへと戻った。


 玄関にはミリエルはおらず、中央ルームで芋を洗っていた。


「ミリエル。ご苦労さんな」


「あ、タカトさん。帰ってきたんですか?」


「今はリハルの町でモクダンの報告しているところだ。夕方には帰れると思うが、先にラダリオンとニャーダ族の子供が二人帰ってくる。その子らの世話を頼むよ」


「ニャーダ族、ですか?」


 ミリエルも知らないようで首を傾げた。


「カインゼルさんの話では獣人のようで、奴隷狩りで連れ去られてきたみたいだ。詳しいことは帰ってから話すよ」


「わかりました」


 タブレットをつかんドーナツを差し入れ用とおやつ用に買った。


「じゃあ、頼むな」


 ミリエルに見送られて外に出た。


 オレが出たことに気がついた者がいるかはわからないが、訊かれたら魔法と答えておけばいい。魔法がある世界だけど、魔法がどんな理屈で動いているか理解してるヤツなんていないんだからな。


 モクダンの魔石が入った革袋をつかみ、支部へと入った。


 カインゼルさんは支部長室にでもいったのか姿はない。モクダン騒ぎで冒険者の姿も少なく、職員は手持ち無沙汰にしていた。


「魔石の買取りをお願いします」


 準冒険者の木札を一緒にカウンターに出した。


「タカト様ですね。支部長より聞いております。では、しばらくお待ちください」


「あ、これは差し入れです。他の支部では喜んでもらえたので皆さんの口にも合うかと思いますよ」


 リハルの町のギルド支部に何人いるかわからんが、三十個もあれば行き渡るだろう。足りなかったり余ったりしたら平和的に解決してください。こちらは関知致しませんので。


「あ、ありがとうございます。とてもいい匂いですね」


 職員の女性が下がり、しばらくして皿に金貨二枚と銀貨を数十枚乗せて戻ってきた。何枚あるんだ、これ?


「魔石は六十二個。うち一つは特異大なので金貨二枚と銀貨四十三枚となります。ご了承なさいますか?」


 内訳を聞いたところでわからないのだから了承して受け取った。


「タカト」


 と、タイミングよくカインゼルさんがやってきた。


「報告終わりですか?」


「ああ。帰るとしよう」


 ギルド支部を出てパイオニアに乗り込もうとしたら双子の徴税人が忽然と現れた。うおっ!? びっくりした!!


「「恵まれない子供たちにお恵みください!!」」


「……教会はそんなに貧してんのか?」


「「毎日のパンを買うこともできません」」


 そのシンクロ率止めろや。一人ずつしゃべれよ。怖いんだよ。


「食えるうちに読み書き計算できるようになって自らの力で抜け出せ」


 銀貨を三枚箱に入れてやり、パイオニアの運転席に乗り込んだ。


「「おじさん、ありがとうございます」」


 双子の徴税人に手を振ってパイオニアを発車させ、リハルの町をあとにした。


 また特異種に遭遇するかと警戒しながら運転するが、何事もなくラザニア村に到着できた。


「お疲れ様です。雨が降ったら休みにしますんで、また午前は訓練をお願いします。午後は好きにしていいんで」


 パイオニアを小屋に収め、分け前を渡して明日の予定を語った。


「了解。ガソリンはわしが入れておくよ」


「お願いします。銃は金庫に仕舞っててください。空のマガジンは持っていきますんで」


 空マガジンをリュックサックに入れてうちへと向かった。


 ラダリオン用のドアが開け放たれていたのでそこから入ると、奥様連中がいた。


「お帰り。いろいろ大変だったみたいだね」


「ああ。自分の運のなさに嫌になるよ」


 儲けたは儲けたが、金貨や銀貨で弾は買えない。換金できるようにして欲しいぜ。


「何度も頼んで悪いが、また家を作ってくれるか? あの獣人の子供を住まわせたいからさ」


 ラダリオンとミリエルが盥で洗ってる獣人の子供のところにいこうとしたら、ロミーが足を出してきた。な、なによ?


「あの二人は女の子だよ」


 なるほど。よけいな疑惑を持たれたくないなら近づくなってことね。了解です。


「そうか。なら、あの二人に任せるほうがいいな。ロミー、それも頼むよ」


 女で獣人とかオレには謎の生命体でしかない。大人の女にお任せするよ。


「構わないが、一緒には暮らさないのかい?」


「オレは誰も彼も抱えてやれるほど器量の大きい男じゃないんでな。ラダリオンとミリエルだけで精一杯だよ」


 情けないと言いたいなら言えばいい。カッコつけてまで他人の命を抱えたくもない。こっちは五年の壁をどう超えるか考えるだけで精一杯なんだからよ。


「女は守られてばかりの弱い生き物じゃないよ。もっと二人を頼りな」


 これだから女には敵わんのだよな。なんの最強生物かと思うよ。


「……ゴルグはいい嫁さんをもらったようだな」


「わたしがいい旦那をもらったんだよ」


 ハイハイ。そうですか。それはご馳走様ですよ。


 鼻を鳴らしてその場から立ち去った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る