第123話 保護

「クソ! GPSが欲しいな!」


 高いところを探そうにもこの辺の道はわからんし、進んだら行き止まりと、方角を調べながら走らないと遭難してしまうわ。


「こちら00。状況は?」


「こちら01。もう少しで追いつく」


「こちら02。かなり離された。方向は東に向かっている」


「00了解」


 スケッチブックを取り出し、リハルの町、ムバンド村、ブランド村を描き、道を足して自分の位置を確かめる。


「かなり奥までいってるな。元の道に戻るか」


 バックで下がり、Uターンできる場所で方向を変えて元の道に戻った。


「こちら01。追いついた。モクダンは三匹。一匹は特異種っぽい」


 また特異種? 違う群れがいるのか?


「SCARの銃声か?」


 G3ではないのならラダリオンだろう。てか、巨大化すると音も凄まじいな。


 カインゼルさんの気配から一キロは離れていない感じがする。


 スケッチブックの地図と方位磁石を置き、北に合わせてカインゼルさんの気配の位置は東。少し南よりか。


「こちら02。01に追いついた。特異種は蹴飛ばされて死亡。一体は上半身が吹き飛んでる。もう一体は見当たらない。おそらく逃げたのだろう」


「00了解。応援は必要ですか?」


「必要ない。今、02がモクダンが追っていたものと接触している。しばし待て」


「00了解。しばし待ちます」


 長いため息を吐き、アポートポーチから缶コーヒーを取り寄せて一服した。


「ん? 追っていたものと接触?」


 一息ついたらカインゼルさんの連絡に首を傾げた。それって接触しないとならない存在ってことか?


 今はどうしようもないので缶コーヒーを飲みながら待つことにした。


「こちら02。無事確保した。今から戻る」


 確保?


「……00了解。02から見て北西方向、距離一キロのところにいます」


 カインゼルさんもオレの気配はわかるが、一応、ナビはしておこう。


「02了解。00の気配はわかった」


 それから三十分くらいしてラダリオンが元のサイズのまま戻ってきた。その腕になにかを二つ抱いて。なんかの動物か?


「カインゼルさん。怪我は?」


「ない。ラダリオンが倒したからな。魔石は特異種からしか取れなかったよ」


 拳くらいの紫の魔石を見せてくれた。さすが特異種。デカいこと。


「それで、なにを確保したんですか?」


「ニャーダ族の子供だ」


 はい? ニャーダ族? なんですかそれ?


「謂わば獣人だ。北の地に住んでいる少数種族だ。おそらく奴隷狩りで拐われてきたのだろう」

 

 獣人、いるんだ。あのダメ女神はなんのために獣人なんて創造した? ゴブリンでも狩らせようとしたのか? だったら奴隷狩りに捕まるような命にするんじゃないよ。命がもったいないわ!


「もしかして、厄介なことに首を突っ込んじゃいました?」


 違うと言ってください。


「それはタカト次第だな。故郷に帰すか、ここで見放すか、ゴブリン駆除に使うか、誰かに押しつけるか、わしはタカトに従う。モクダン退治が終わればわしはタカトに雇われた者だからな」


 そんな決定権など望んじゃいないが、だからと言って捨てられるものでもない。オレにゴブリン駆除以外なにができる? 異世界スローライフで生きていけるのか? 閉じ籠もっていれば生き残れるのか? 三十過ぎて別の仕事につけると言うのか? どれもこれも明るい未来は想像できない。


 これまで手に入れた人や立場を考えたらゴブリン駆除を続けるしかない。続けるように力をつけて状況を整えるしかないのだ。


「オレがまず保護しましょう」


 これは慈善事業じゃない。ニャーダ族の子供がゴブリン駆除を手伝わないと言うなら捨てる。自分も救えないヤツが他人の命まで面倒は見られないのだから。薄情と罵られようとその考えは崩しちゃダメだと思うのだ。生き抜くためにもな。


「ラダリオン。その子らを抱えてラザニア村に帰ってくれ。道は覚えているな?」


 リハルの町に報告にいかなくちゃならんし、怯えて震えている子供を抱えてなんていけない。ラダリオンのことは怖がってない様子。連れていくよりこのままラザニア村に向かわせたほうがいいだろう。巨人の足ならそう時間もかからないはずだしな。


「覚えてる」


「じゃあ、頼む。ミリエルにはオレから伝えておくから」


「わかった」


 途中までラダリオンの後ろをついていき、途中から別れてオレとカインゼルさんでリハルの町へと向かった。


「コラウス辺境伯領に獣人とか暮らしてるんですか?」


「奴隷としてなら暮らしてるとは思う。この国ではあまり一般的な存在ではないからな」


 少数種族って言ってたし、オレも街にいったとき人間しか見てない。他種族は少ない国なんだろうか?


「あ、エルフはどうなんです?」


 すっかり存在を忘れてた。ミシニー、エルフだったよ。


「結構いるな。まあ、活動拠点としてるのはコレールの町だからこの辺で見ることは少ないだろうがな」


「他種族に寛容な国なんですか?」


「国と言うよりコラウス辺境伯領が寛容なんだろうな。先々代様が巨人族と仲良く、優遇したことからエルフも集まった感じらしい」


 昔のコラウス辺境伯は優秀だったようだ。


「あの二人を面倒みるなら後ろ盾が必要ですね」


 後ろ盾と言うか身分か? 言葉は悪いがオレの所有であると示すものがな。


「それならギルドを立ち上げたらどうだ?」


「ギルド?」


「ゴブリン駆除ギルドだ。冒険者ギルドからゴブリン駆除を請負、謂わば下部組織として立ち上げるのだ。冒険者ギルドとしても安い金でゴブリン駆除をやってもらえるなら後ろ盾くらいにはなってくれるだろう」


 なるほど。ギルドマスターにかけ合ってみるか。ダメなときはまた考えればいいだけのことだしな。

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