第122話 無口同士

 応援にきた冒険者の中に豪鬼と呼ばれるアズルライズがいた。


「金印の冒険者だ」


 オレが見てる人に気がついてカインゼルさんが教えてくれた。


「バケモノですね」


「そうだな。コラウス辺境伯領でマーグを単独で狩れるのはあの男くらいだろう。わしが五人いても勝てんよ」


 それならオレなんて息を吹きかけられただけで殺されそうだわ。


「オレたちは帰れそうですか?」


「ああ。元々わしらは勝手にきて勝手に力を貸しただけだ。最後まで付き合う必要はない。ただ、リハルの町に寄って報告しなくちゃならんがな。あ、魔石はどうする? 売るか?」


 そう言えば、なんの魔石か見てなかったっけ。と、袋を開けてみたら紫色の魔石だった。


「属性は力で身体強化によく使われるものだ。紫の魔石を使える前衛は大体使っておる。この大きさなら銀貨三枚で買い取ってもらえると思うぞ」


 身体強化か。それは羨ましい。オレも使えたら戦いが楽になるのにな。


「じゃあ、売っちゃいますか。ミリエルには必要ないみたいですし。あ、カインゼルさんは使えないんですか?」


「わしはあまり魔法は得意ではない。属性は熱らしいが、簡単な火を出すくらいしかできんよ」


 と、指先から小さな火を作り出した。タバコが吸えたらライターいらずだな。


「オレも魔法とか使ってみたいです」


 転生じゃなく転移でこの世界にやってきた。あのダメ女神からしてこの世界で生きる体には変えてないはず。魔法も使えないだろうよ。


「タカトはもう魔法以上の力を持っておるだろう。銃やパイオニア、酒に食い物。さらに請負員にもできる。それで魔法もは贅沢だぞ」


 まあ、そう言われたらそうか。それらを代償にしてまで魔法が使いたいとも思わんしな。


 ラダリオンが戻ってくるまでオレらも昼飯とする。


 カインゼルさんは少し前にモクダンの肉を食べたようなのでフランスパンを軽く炙ってガーリックバターをつけて食い、オレは大盛りのカップラーメンをいただいた。


 カップラーメンは毎日食いたいものではないが、たまに食いたくなるものである。ズルズルズル~。


「なんかそれ、美味そうだな」


 なにやら食いたそうなカインゼルさん。異世界の人に──って、ラダリオンも美味そうに食ってたっけ。


「じゃあ、試しにどうぞ。基本となる味です」


 とりあえず醤油ラーメンを取り寄せて作ってやる。


「さっぱりして美味いな。他にも味があるのか?」


「ええ。たくさんありますよ。カップラーメンで探すといいですよ」


「そうか。探してみよう」


 なんとも美味そうに食い、汁まで飲み干してしまった。


 コーヒーを飲んでゆっくりしてたらラダリオンが戻ってきた。じゃあ、帰る支度でもしますかね。


「タカト」


 ラダリオンに呼ばれて振り向くと、豪鬼のアルズライズがそこにいた。いつの間にっ!?


「アルズライズ。なにか用か?」


 オレとは繋がりがないので黙っていたらカインゼルさんが話しかけてくれた。


「これを売ってもらいたい」


 と、シリアルバーの空袋を掲げてみせた。ん? はい? なぜに?


「どうしてまたそれを?」


「好みの甘さだからだ」


 首を傾げたカインゼルさんがオレを見る。いや、見られても困るんですけど。


「甘いものが好き?」


「ああ」


 なにやらラダリオンとアルズライズが目と目で語り合っている。え? どういうこと?


「これあげる」


 と、ショルダーバッグ(お菓子入れ)からシュークリームをアルズライズに渡した。オレらはなにを見せられてるんだ? と、カインゼルさんに視線を向けたらわしが知るかと肩を竦められてしまった。


 無口同士のやり取りを黙って見てると、アルズライズが革袋を出してラダリオンに渡すと、ラダリオンはショルダーバッグごと渡した。え? なんの交渉があった?


「ラザニア村にいる」


「わかった」


 なにが? なにがわかったの? ちゃんと言葉を使ってわかるように言いなさいよ!


 背を見せて去っていくアルズライズ。なぜか一仕事終えた背中に見えるのはなぜだろう?


「……同志……」


 なんのだよ? 言葉を話す生き物なんだから言葉でわかり合えよ。オレは仲間なんだからよ。


「まあ、なんでもいいよ。帰りますか」


 荷物を積み込み、運転はオレでムバンド村を出た。あ、煮込むと美味いヤツ買うの忘れた! 


 なんて後悔するもリハルの町で買ったらいっかと思い直して先を進んだ。


「タカト。モクダンの臭いがする」


 ブレーキを踏んでパイオニアを停め、カインゼルさんが飛び出してG3を構えた。


「数はわかるか?」


 オレもパイオニアを降りてグロックを構えた。


「臭いは二匹か三匹」


「カインゼルさん、見えますか?」


 メガネはカインゼルさんが持っているのだ。


「いた! なにかを追っている! あっちだ!」


「ラダリオン、元に戻って追え! 無線機のスイッチは入れろよ!」


「わかった!」


 五、六メートルくらいの巨人となり、カインゼルさんが指差した方向へと駆け出した。


「わしもいく!」


「なら、リュックサックを担いでいってください。大体のものは入れてありますから」


 アポートポーチを渡したいところだが、ベルトから外すのに時間がかかる。その間にラダリオンを見失ってしまうならリュックサックのほうがいいだろうよ。


「ラダリオンをお願いします!」


 駆けていくカインゼルさんの背に声をかけ、パイオニアに乗り込んで高いところへ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る