第121話 報酬

 一匹にマガジン一本分を使ってたので生きているものは少なかったが、合計で二十三匹しか倒してなかった。


「大体六十匹くらいか」


 半分以上倒したとは言え、まだ、四十匹近くは残っている。しばらくこの近くでゴブリン駆除をするのは止めておこうっと。


「夜明けか」


 四時間くらい眠っててよかった。徹夜だったらヘロヘロになって判断力が鈍っていたことだろうよ。


「お前たち、まだ動けるか?」


「は、はい。これと言った戦闘はしてませんから」


 若いとは羨ましいことだ。オレも二十歳くらいのときは徹夜くらい平気だったのにな。歳は取りたくないものだ。


「そうか。まあ、それでも腹減っただろう。これを食っておけ」


 アポートポーチからシリアルバーを取り寄せて冒険者たちに配り、袋を破いて食ってみせた。


「うめー!」


「こんな甘いの初めてだ!」


 概ね好評だが、一人は甘いのが苦手なようで一本だけしか食わなかった。


「甘いのが苦手か?」


「あ、いえ、すみません……」


「じゃあ、これを食っておけ」


 魚肉ソーセージを出し、ナイフで剥いてやって渡した。


「美味いです!」


 魚肉ソーセージは異世界人の舌にも合うようだ。いやまあ、ラダリオンもオヤツで食ってるけどな。


「食ったらモクダンを村に運び込むぞ」


 このまま放置すると新たな魔物を呼んでしまう恐れがある。さっさと魔石を取り出して解体してもらおう。


 八十キロはあるモクダンを二人がかりで運び込んでいたらラダリオンがやってきた。


「起こしてよ」


 ムー! って顔をするラダリオン。そうむくれるなよ。


「悪い悪い。気持ちよさそうに眠ってたんでな。力仕事残してたからモクダンを村に運んでくれ」


「わかった」


 不満顔ながらも素直に聞いてくれるラダリオン。また焼き肉してやるから許してちょうだい。


 村の連中も出てきて人手が増えたので、太陽が完全に顔を出した頃にはモクダンを村の中へ運び終えた。


「村長。あとは頼みます。オレらはもうクタクタなので」


 さすがに八十キロもあるモクダンを三匹も運ぶと腕も脚もパンパンだ。ミリエルに癒してもらわないと。って、あの娘のことだから徹夜したな。


「ラダリオン。少しの間、頼む。余裕があったらMINIMIあとマガジンを集めてくれ。カインゼルさんは起こすなよ」


 パイオニアの助手席で眠るカインゼルさん。さすがに五十過ぎてからの死闘は堪えるようだ。


「わかった。シュークリームとまるごとバナナをいっぱい買っておいて。イチゴのも」


 ハイハイ、わかりましたとセフティーホームへ戻った。


「タカトさん」


 やはり起きてたか。無理する娘だよ。


「ご苦労様な。なんとか片付けた。あとは村の連中に任せたから風呂入って寝ていいぞ。オレも買い物したらラダリオンに任せて寝るからよ」


「はい。さすがに眠いです」


 だろうな。そのまま眠ってしまいそうなくらい体が揺れてる。


 オレが消えたらそのまま眠ってしまいそうな勢いなので、電動車椅子から抱き上げ、マットレスまで運んでいった。


「ゆっくり眠れ」


「……はい。お休みなさい……」


 毛布をかけてやったら気を失うように眠ってしまった。


 オレもマットレスの上で寝たいが、後始末もしなくちゃならない。もう少しがんばるとしよう。


 タブレットをつかみ、冷蔵庫の中身を確認して食料やお菓子、飲料、ラダリオンに頼まれたものを買った。


「買うだけでも一苦労だよ」


 あ、弾も買っておかないと。まったく、出費がかさむぜ。


 粗方買ったらハンバーガーを二つ食い、牛乳で流して外に出た。


 ラダリオンはおらず、カインゼルさんもまだ就寝中。マガジンを補充して地面にマットを敷き、横になった。


「──タカト。起きて」


 ラダリオンに揺らされて起きたら太陽が真上にきていた。ちょっと横になったのにがっつり眠っちゃったよ……。


「なんかあったか?」


 あくびをしながら大きく伸びをする。


「冒険者がやってきた」


 今きたのか? ちょっと遅すぎないか? 昨日の様子じゃ全滅してても不思議じゃない状況だったぞ。


「ラダリオンは昼を食ってきていいぞ。あ、カインゼルさんは?」


「じいちゃんは少し前に起きて、やってきた冒険者のところにいった」


 そっか。まあ、オレが出るよりカインゼルさんのほうがスムーズに話し合えるだろう。


「MINIMIやマガジンは集められたか?」


「全部かはわからないけど、集められるだけ集めた」


「ありがとな。まあ、見つけられないものは諦めよう。オレもどこに放り投げたかわからんしな」


 ラダリオンがセフティーホームに戻ったら小型ガスコンロ、シェラカップ、カップ、水、インスタントコーヒーを出して、目覚めのコーヒーを淹れた。


「美味い」


 ブラックがわかる三十代。歳とともに味覚も変わっていくのかね?


「タカト。起きてたか」


 のんびりコーヒーを飲んでたらカインゼルさんが戻ってきた。あ、おはようございます。


「カインゼルさんも飲みますか?」


「ああ、いただこう。ちょうどコーヒーを飲みたかったんだ」


 カインゼルさんもブラックがわかる五十代。ちょっと濃目に淹れてあげた。


「冒険者がきたそうですね」


「やっとな」


 あ、やっぱりくるのが遅かったんだ。あの支部長ならもっと迅速に動く人かと思ってたんだがな。


「モクダンの魔石だ。今回の報酬としてもらってきた。特異種の魔石は応援に駆けつけてくれた冒険者に渡す」 


 袋の膨らみ方からして二十個は入ってそうだ。ちなみに村にきたときに倒したモクダンの魔石はオレらのものってことでパイオニアに積んでます。


「村にはいいんですか?」


「村にはモクダンの肉を渡したし、若いヤツらには魔石を一つずつ渡した」


 まあ、タダ働きは可哀想だしな。魔石一つくらいもわらわなくちゃやってられんだろうよ。


「……雲が出てきましたね……」


 こりゃ、夜には降り出す感じだな。次は何日降るのやら……。

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