第126話 ビシャとメビ

「タカト、がんばれー!」


「負けるなー!」


 カインゼルさんから訓練を受けるオレを応援するビシャとメビ。数日前の警戒はなんだったんだ? ってくらい馴れ馴れしくなっていた。


 ラダリオンの話によればオレが群れのボスであり、食い物をくれて守ってくれる存在でもあると理解したらしく、いっきに壁を取り払って懐いてきた。犬か! いや、見た目、犬だけど!


 二人は姉妹で、ビシャが姉でメビが妹とのことだが、年齢はわからず、見た目から十二歳と十歳って感じだ。


「……なんかやり難いな……」


 まあ、やりやすくてもカインゼルさんにボコボコにされるのだが、二人がうるさくて集中できんよ。


「師匠!」


 と、マルグまでやってきて訓練にならなくなってしまった。ハァー。


「まあ、こんな日もいいだろう」


 悟ったような諦めたようなカインゼルさんに、オレもそうですねと同意することにした。


 雨の日はなるべく七人で過ごし、一緒に飯を食って仲を深め合う。そのお陰か、ビシャとメビはマルグにも慣れ、マルグについてって巨人の村までいくようになったよ。


 雨が降って五日目。雨足に衰えはなく、カインゼルさんの話では今がピークで、十日くらい続くんじゃないかと言っていた。


 ……早く止んでくれんと金ばかりが減っていくぜ……。


 人が増えたら出費も増える。一日の生活費が十万円を超えてしまった。これは秋になる前に山に入ってゴブリンをたくさん駆除しないと冬を越せなくなるぞ。


 雨が降って七日目。昼過ぎに豪鬼がうちを訪ねてきた。


「買いにきた」


 なにを? 開口一番のそれに首を傾げてしまった。


「タカト。お菓子だよ」


 あ、ああ、そうだった。この見た目でアルズライズは甘党だったんだっけな。


 お菓子よりウイスキーを飲んでるほうが似合いそうなのに、お菓子が好きとか人の好みとはわからないものである。


「これで」


 と、銀貨三枚を差し出してきた。これで買えるだけ、と言えないものなんだろうか? それでよくやってこれたよな。いや、やれてないからソロでやっているのか。ごめんなさい。


 とりあえずミリエルにココアを出すようお願いし、オレはラダリオンとともにセフティーホームに戻った。


 ラダリオンの監修で銀貨三枚分──銀貨一枚は一万として決め、三万円分のお菓子を買った。


「オマケに歯ブラシと歯磨き粉を足しといてやるか」


 丈夫そうな歯をしてたが、これだけのお菓子を食ったら虫歯になりそうだ。


 三万円分のお菓子をビニール袋に入れて外に出て、アルズライズに渡した。


「ここで少し食べていいか?」


 帰るまで我慢できないってことなんだろうよ。子供か!


「タカト、あたしも食べたい!」


「あたしもー!」


 ラダリオンではなくオレに要求してくる犬っ娘ども。


 ラダリオン、基本的にビシャとメビには優しいが、お菓子に非情で二人がせがんでも絶対に渡さない。それを理解してミリエルに移ったが、この娘は甘いものより米菓子や乾物系を好んでいる。


 貝のひもやチーたらを渡されてビシャとメビは学んだんだろう。あ、この人ダメだって。そうなればオレかカインゼルさんのどちらか。だが、カインゼルさんも乾物系で即除外。消去法でオレにせがんできたのだ。君たち、ちゃんとオレをボスだと認めたんだよね?


「わかったから離れろ! 引っ張んじゃないよ!」


「タカト、ナメられすぎ」


「そうですよ。しっかりしてください」


 だったら二人を調教してくれよ! オレにこの二人を御するなんて無理なんだからさ!


 まだ子供とは言え、獣人の身体能力は凄まじく、オレでは捕まえることもできない。クソ。これだから女だけの職場って嫌なんだよ! いや、すべてオレが原因だけど!


「ったく。まるごとバナナ一つずつだからな」


「わーい!」


「やったー!」


 だから引っ張るんじゃないよ! 筋力はお前らのほうが強いんだからよ!


「美味そうだ」


 ハイハイ。甘鬼にもやるから睨むなよ。あんたの目、怖いんだからさ!


 なんかよくわからない時間が流れ、アルズライズは満足した気配を醸し出して帰っていった。


 カインゼルさんの読み通り、雨は十日降り続け、十一日目に快晴となった。


 冒険者ギルドにいってギルドマスターにゴブリン駆除ギルドを相談にいきたいが、この十日で二百万円が消えてしまい、貯蓄も三百万円を切ってしまった。


 この快晴が続く限りゴブリン駆除に集中し、三百万円はプラスにしたい。最低でも二百万円はプラスにするぞ。


「ビシャ、メビ。しっかり働けよ」


 二人を請負員とし、ゴブリンを駆除したら美味いものをたくさん食えることを説いてきた。


「うん。いっぱい殺す」


「任せて」


 理解してくれたようで二人とも殺る気満々である。


 二人にいきなり銃を渡すのは危険なので、その脚力を活かしてククリナイフを二つ持たせた。


 嗅覚はラダリオンほどではないが、それでも人の体臭を嗅ぎ分けられるくらいには高く、動体視力も高かった。獣人ってのは伊達じゃないようだ。


「今日はオレとチームを組む。カインゼルさん。ラダリオンをよろしくお願いします」


 どうせバラけるのだから集落一つ分離れて駆除したほうがいいだろう。


「ああ。わかった」


 ミーティングを終えたら小屋へと向かう。


「カインゼルさんたちはパイオニア一号を使ってください。オレらはパイオニア二号を使いますんで」


 十日で二百万円も使うことになった理由がパイオニアをもう一台買ったからだ。


 パイオニアは四人乗りなので五人では一人余る。そのうちミリエルも連れ出すので、思い切って二台目の購入に踏み切ったのだ。


 タロンを買おうと思ったが、三十万円ばかり高かったので諦めた。その分、オプションをつけたほうが得と思ってパイオニアにしたのだ。


 それぞれ乗り込み、ゴブリン駆除へと向かった。

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