第66話 ジンギスカン
その日は村長に会わず、村を出てしばらく歩いたらセフティーホームへ帰った。
なにも考えないように過ごし、寝る前にサンドバッグを打ち、たっぷりかいた汗をシャワーで流してビールを一缶。気持ちよく眠りへとついた。
目覚めたらモヤモヤは消えてくれており、今日の準備を整えた。
「ラダリオンは畑の見回りを頼む。オレも村長と話をしたら見回りにいくから」
「……大丈夫?」
「大丈夫だよ」
心配そうな顔をするラダリオンに笑って答えた。気持ちを切り替えないと死ぬだけだからな。昨日のことは引きずらないさ。
今日もベネリM4装備にしてリュックサックを背負い外に出た。
道には誰も往来しておらず、ゴブリンの気配も一キロ内には感じ取れない。完全にオレたちを警戒してるな、これは。
村に入ると、バイスさんがいた。この人、バズ村担当なんだろうか?
「タカトさん!」
オレを見つけるなり駆け寄ってくるバイスさん。なによ?
「ありがとうございました! 娘を救ってくださって!」
娘? じゃあ、昨日の子供はバイスさんの子供だったんだ。なんの偶然なんやら。
泣きじゃくるバイスさんを宥め落ち着かせる。
「それで、村にいたゴブリンは狩れましたか? 今はいないようですが?」
「はい。村中探して殺しました。まさか村の中まで入り込まれるとは思いませんでしたよ」
なんでも畑にはよく出るものの村に侵入されることはここ十年くらいなかったそうだ。
「あいつらは神出鬼没ですからね、どこにでも現れます」
「はい。村も油断してました。これから見回りするように決めました」
それがいい。子供が被害に遭うのは心が痛むからな。
村長さんのところに案内してもらい、昨日オレが帰ってからのことを聞き、畑からゴブリンがいなくなったことを話した。
「相当な数がいるとは思ってましたが、四百匹もいましたか」
「ええ。さすがにそれだけ駆除すると逃げられましたがね」
「まったく、厄介な魔物です。すぐ逃げるので我々もほとほと困っておりますよ」
村長の口から出るのは愚痴ばかり。わからないではないが、相当鬱憤が溜まっているようだ。
「今日、畑を見回ってゴブリンの姿がないなら明日、マルスの町にいってみますよ」
「……そうですか。残念です」
村長としてはオレに残って欲しいんだろうが、ゴブリンを駆除しなければ成り立たないことは伝わってるはず。体すべてを使って残念がるのみだった。
「では、畑を回って、ゴブリンを狩りながらマルスの町に向かいます」
そう告げて村長さんの家をあとにした。
「マルスの町にはおれからも報告しておきますね」
「ええ、お願いします」
子供のことを聞きたかったが、あえて触れずに村の裏から畑に下りてブルーベリーのようになる葡萄畑へと向かった。
こちらは木が低く、雑草が生えてないからかゴブリンは丸でなし。しょうがないので畑を回ることなくはせず、農道っぽい細い道に出て北に向かってみた。
ゴブリンはいないが他の魔物がいるかもしれないと周囲を警戒しながら歩いていると、冒険者らしい一団が道に生えている草を摘んでいた。
これはあれか? 冒険者の定番クエスト、薬草集めか?
あちらもオレに気がついたようで、草を摘むのを止めてこちらへと向いた。
「冒険者ギルドのギルドマスターからゴブリン退治を依頼された者だ。この辺でゴブリンを見たら教えてもらいたいんだが?」
ギルドマスターと言ったことで警戒はなくなり、肩の力が落ちたのがわかった。
「ゴブリンならあの山にいるよ」
冒険者が指を差した方向に目を向ける。
標高は百メートルくらいだろうか? 広葉樹が多く生えている山だった。
「助かる。あんたらはなんの依頼だい?」
「コトルムの採取だよ」
それがなんなのかわからないが、わかったような顔で頷き、気をつけてと言って別れた。
山へ入る前からゴブリンが多くいることはわかっていたが、草木が生えすぎてて入るのが大変そうだ。これはマチェットを持ってきたほうがいいかもしれんな。
どこから入れそうなところがないかと探してたら運よく獣道を発見。そこから入り、体が完全に隠れたらセフティーホームへと戻った──ら、ラダリオンも戻っていた。
「休憩か?」
「うん。ゴブリンがいなくて歩き疲れた」
「オレもだよ」
二人で休憩しながらお手製の地図を開いてお互いの位置を確認し合う。
「合流してこの山を攻めてみるか」
ラダリオンはまだ葡萄畑にいるみたいだが、位置からして一キロも離れてない感じだ。合流するのにそう時間はかからないだろうよ。
「わかった」
ってことで名犬ラダリオンに合流してもらった。
「じゃあ、頼むよ」
ラダリオンに元に戻ってもらい、マチェットで山を伐り拓いてもらった。
ブンブンとマチェットを振り回すラダリオンのあとに続き、ゴブリンがいたら散弾を食らわせてやる。
昼までに三十匹は駆除でき、昼を挟んで午後も三十匹は駆除できた。
「タカト。町が見えるよ」
夕方になり、終了しようかと思ってたらラダリオンがオレをつかんで持ち上げた。
「たぶん、あれがマルスの町だな」
そう高くない城壁に囲まれた町で、そこそこ大きさがあった。
町の周りには山羊か羊だろうか? 白い生き物が点々と見える。畜産が盛んなところなのかな?
「今日はジンギスカンにするか」
なんか見てたらジンギスカンが食べたくなってきたよ。
「ジンギスカン?」
「羊の肉を丸みの帯びた鉄板で焼く料理だよ。いい肉は美味いんだぞ」
飲み会でいったジンギスカン屋、美味かったっけな~。
ぐぅ~とラダリオンが腹の虫が鳴き出した。
「アハハ。じゃあ、帰るか」
「うん!」
一旦下ろしてもらい、セフティーホームへと帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます