第65話 罪悪感

「畑にきてなに食ってんだ?」


 そう思うくらいゴブリンが畑に潜んでいる。午前中で百匹は駆除したぞ。これでよく毎年葡萄を収穫できてるな? これだけいれば被害は甚大だろう。


「たぶん、これだと思う」


 と、ラダリオンが五センチくらいのバッタを見せてくれた。


「ゴブリンからこの虫と同じ臭いがする」


 ラダリオンの嗅覚はそこまでわかるんだ。人間の何倍の嗅覚してんだよ?


「雑食とは聞いてたが、虫まで食うのかよ」


 そりゃ増えもするわ。てか、よくよく見たら結構いるな、バッタ。これ、ゴブリン以上に困ったことになるんじゃないのか?


 なんて考えてもしょうがない。ここの食物連鎖まで構ってる余裕はない。オレはゴブリンを駆除するまでである。


 昼になったのでセフティーホームに戻り、しっかり食べてしっかり休んだら午後を再開させた。


「木に当てないように撃つのも面倒だな」


 てか、これだけ大きい音を立ててるのによく逃げないよな。警戒するくらいなら逃げたらいいのによ。


 なんて心配するくらい逃げないのですぐ弾がなくなるよ。


 笛を吹いてラダリオンに知らせ、警戒してもらいながらアポートポーチに手を突っ込んで弾を取り寄せてダンプポーチに移した。


 弾を補充したらラダリオンもKSGに弾を供給する。


「タカト。あたしもそっちのを使いたい。ゴブリン多すぎて弾入れるの面倒」


 確かにこれだけ多いとKSGは面倒だよな。オレも嫌になってたし。


「じゃあ、新しいのを買うか」


 今使っているベネリM4も千発以上は撃って、五百匹以上は駆除している。充分な元は取れてるのだから新しくしたって損はないはずだ。


 一旦セフティーホームへ戻ってベネリM4を二丁買い、スリングも新調しておいた。


 慣らしで二十匹くらい駆除し、その日はそれで終了。掃除して万能潤滑油556をかけておく。


 次の日もゴブリン駆除は続き、午後二時くらいになってゴブリンの気配がなくなってきた。さすがに危険を感じて逃げたか?


 それでも少ない気配を追って駆除するが、四時にはすっかり気配がなくなってしまった。


「四百匹は駆除したかな?」


 大雑把に必要経費を引いても百五十万円は稼げたはず。三日間の稼ぎとはまずまずだろうよ。


「ラダリオン。今日は終わるか。オレは村に報告にいくから先に帰っていいぞ」


「わかった。弾込めしておく」


「頼む。腹が減ったら先に食ってていいからな」


 最近ふりかけに嵌まったラダリオン。五合炊きの炊飯器を三つ買って常に炊いてあり、小腹が空いたら食べてるのだ。


 ラダリオンを見送り、村へ向かった。


 夏の太陽はまだカンカンに照り、木陰から出ると暑い。ゴブリン駆除も大変だが、農作業する村人も大変だな~。


 工事で働いていたときは空調が効いていて夏の暑さも冬の寒さも関係なかった。外の仕事がこんなに大変だとはこの世界にくるまで知らなかったぜ。


「あ、草刈りはするんだ」


 村に向かっていると、村人たちが大きな鎌を振るって草を刈っていた。


「お疲れ様です」


「うん? ああ、あんたか。ゴブリン狩りは終わりかい?」


「ええ。畑からいなくなったのでその報告を村長さんにね。死体の片付け、お願いします」


「任せておきな。毎年秋の前の追い払いを考えたら死体の片付けくらい楽なもんさ」


 あ、そう言うことやってたんだ。そして、片付けより大変なんだ。


 お仕事ご苦労様ですと労い、村へ向かった。


「へー。山羊とかも飼ってるんだ」


 だったら山羊に草を食わせたらいいのにと思うが、ゴブリンがいるからそうもいかないんだろう。ゴブリンがいて魔物がいる世界で生きるのは大変だな。


 村へ続くだろう道を登り、村に入った。


 こちらは村の裏になるのか物置や倉庫が並んでいた。


 ……ここだけ見たら外国の田舎って感じなんだがな……。


 一歩外に出たらゴブリンなら魔物が犇めく弱肉強食な世界。厳しいもんだよ。


「ん? ゴブリンの気配?」


 せっかくだからと村を見て回ってたらゴブリンの気配を察知した。忍び込まれてる?


 数は四。村の反対側だ。


 さすがに村の中で銃を使うのは不味いのでスリングショットを取り出した。念のためと持っていてよかったぜ。


 走って向かうと、ゴブリンが四、五歳の子供を抱えていた。


 笛を咥え、スリングショットにパチンコ玉をセット。構えたら笛を強く吹いた。


 その音にゴブリンが驚きこちらを見た瞬間にパチンコ玉を放つ。


 マルグと練習したお陰でゴブリンの眉間へヒットさせられた。ナイスショット、オレ!


 次弾をセットして落ちた子供をつかもうとするゴブリンに放ち、スリングショットを投げ捨ててグロックを抜いた。


 ぐったりする子供を抱え、まだ息のあるゴブリンに止めを刺してやる。


「ゴブリンだ! あと二匹いる! 子供を家に入れろ!」


 笛の音に集まってきた村の連中に叫んだ。


 まだ男たちは農作業をしているので集まってきたのは女だが、どの時代どの地域も奥様は強い。鎌や棍棒を持って集まってきた。コエー!


「ミサリーのとこのリズだよ!」


 と言うのでミサリーさんとやらのうちにリズを運んだ。


 村の薬師的なじーさんがすぐに呼ばれ、リズを手当てするが、ゴブリンに強く殴られたのか手当てのしようがなかった。


「リズ! リズ! お願い、目を開けて!」


 母親だろう女性がぐったりする娘の手を握ってなきさけんでいる。あーオレ、こう言うの苦手なんだよな~。母をたずねて三千里で泣く男だし。


 お人好しで甘い自分に苦々しく思うが、見捨てたあとの罪悪感に苛まれるくらいならアホなことしたと後悔するほうがいい。


 クジで当てた回復薬を二粒取り戻した。


「この薬をぬるま湯と一緒に飲ませるといい。今よりはマシになるはずだ」


 薬師的なじーさんに回復薬を渡した。


 救いの手は差し出した。つかむつかまないはあちらの判断。これで子供が死んでもオレのせいじゃない、と言いわけして家を出た。


 ハァー。きっとこういうことでも身を危険に晒すんだろうな~。改めてゴブリン駆除の大変さを知ったよ。

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