第64話 方便
元の世界の葡萄がどんなものか曖昧な記憶しかなく、この世界の葡萄との差はわからないが、ここの葡萄はブルーベリーのような生り方のものと一本の木に生るものの二種類があった。
廃墟だったほうの葡萄畑は三メートルくらいの木に生るタイプのもので、太陽の光が遮られてちょうどいい気温になっており、風が吹くと爽やかな気分になった。
「これでゴブリンがいなければフランスの田舎での余暇になるんだがな」※イメージです。
夏の太陽によって育った雑草の中にゴブリンがうつ伏せになって隠れている。
「これじゃ苦労もするわな」
オレは察知できるから位置がわかるが、視界ではゴブリンの姿はまったく見えない。ギリースーツを纏ってるわけでもないのに完全に草に溶け込んでるよ。
「ラダリオンはゴブリンの位置はわかるか?」
「そんなに臭くないけど、大体はわかる」
名犬ラダリオンはここでも優秀である。
「無理に駆除する必要はない。木には当てないよう追い払うくらいでいいからな」
「わかった」
ガシャンと弾を装填して気配に向けて引き金を引いた。
久しぶりにサプレッサーなしで撃つと耳が痛い。アポートポーチに手を突っ込んでイヤーマフを取り寄せた。
このアポートポーチ、便利かと思ったが、ダメ女神が用意しただけにそこまで便利でもなかった。
セフティーホームから取り寄せることはできるが、こちらから送ることはできなかったのだ。
弾入りマガジンを取り寄せても空マガジンは捨てるか別の入れ物に入れるしかない。まあ、すぐにセフティーホームに戻ってマガジンを返せばいいのだが、それならアポートポーチの利点ってなんだよって話になる。
マガジンが千円くらいなら使い捨てにもするのだが、二千五百円から三千円もする。三十発で三十匹駆除できるなら使い捨てにもするが、三十発で一匹倒すのがやっとってときもある。
とてもじゃないが使い捨てなんて早々できない。アポートポーチは使い捨てできるものしか取り寄せないのだ。
まあ、普通のダンプポーチとしても使えるので、手持ちのマガジンを使い切ったら弾入りマガジンを取り寄せて空マガジンをダンプポーチに入れれば通常駆除なら問題はないさ。
今はKSGショットガンなのでアポートポーチ一杯取り寄せて、なくなったらまた取り寄せるだけなので、夕方までに五十匹以上。ラダリオンは四十匹近く駆除できたよ。
セフティーホームに帰り、まずは交互にシャワーを浴びて銃の手入れをする。
「タカト。あたしもショットガン使う。ライフルじゃ上手く当たらない」
まあ、臭いでわかっても見えないからな。ライフル弾より散弾のほうがいっか。
「じゃあ、KSGを使え。オレはベネリM4を使うから」
やはりガシャンガシャンするのは面倒だし、弾を入れるのもやり難い。ベネリM4のほうが楽でいい。
「次はラダリオンがアポートポーチを使え」
「いいの?」
「ラダリオンもアポートポーチに慣れておくほうがいいだろうし、オレも通常の装備に慣れておきたいからな」
ゴブリン駆除は状況に合わせて装備を換えないとやっていけない。一つの装備に慣れすぎると他の装備になったとき戸惑うだろう。一つを極めるより器用にやっていけるほうがいいはずだ。
手入れが終れば夕飯にして、明日の用意とマガジンへの弾込めをした。
ぐっすり眠った次の日、装備をつけて外に出たら人の声が近くからした。なんだ?
葡萄の陰から出ると、バズ村の者と思われる男たちがいた。
「おはようございます」
挨拶を飛ばすと、男たちがビクッと体を跳ねさせてこちらを向いた。
「昨日からゴブリンを駆除している者です。バズ村の方々ですか?」
少し間を置き、代表と思われる四十くらいの男が前に出た。
「あ、あんたがタカトさんかい?」
「ええ、そうですよ。こっちは相棒のラダリオンです。これからゴブリン駆除を始めますが、昨日倒したゴブリンの片付けをお願いします」
死体に印をつけてないので探すのは大変でしょうが、そこは農作業のついでにお願い致します。
「……やはりあんたらがやったのか。よくあれだけを狩れたもんだな……」
「まあ、これで食ってますからね」
だからと言ってなんの自慢にもならんがな。今のオレにはゴブリン駆除しかできんしな。
「いったいどうやったらできるんだ? 昨日は凄い音が何十回と聞こえたが?」
「この武器を使ってです。爆発を利用して鉄の粒を吹き飛ばしてゴブリンを狩ってるんですよ」
「あんた、魔法使いなのか?」
「いいえ。ただの人ですよ。ケンカしたらあなたに負けるでしょうね」
つーか、農作業するとそんな筋肉ムキムキになるの? 剥き出しの腕などオレの二倍はあるじゃん。どこのプロレスラーって話だよ。
「……随分と謙虚なんだな……」
「虚勢を張れるほどの強さもないんだから仕方がありません。この武器があるからゴブリン駆除をやれてるくらいですからね」
剣一本でやってたら最速記録叩き出していたことだろうよ。
「言っておきますが、この武器は金貨二十枚。鉄の粒は一つ銅貨二枚。ゴブリン百匹狩ってやっと銀貨三枚の儲けとなります。とにかく数を狩らないと損するばかり。普通に弓を使うことをお勧めします」
欲しそうな顔をしたのでそう牽制しておいた。
「なので、ここら辺のゴブリンはオレたちに任せてもらえば助かります。二千匹くらい狩らないと今年の冬が越せなくなりますからね」
「に、二千!? そんなに狩るのか?!」
「ええ。とにもかくにも金のかかる武器を使ってるんで、一日百匹は狩れないと商売上がったりなんですよ」
ハァーとため息をついてみせた。
「……そ、そうか。こちらとしてはありがたい限りだ。収穫まで多くのゴブリンを狩ってくれ。死体の片付けは村長から言われている。こちらでやるからゴブリン狩りに集中してけれ」
「ありがとうございます。あ、人のいない畑があれば教えてもらえますか? 村の方々に怪我をさせるわけにもいきませんしね」
「なら、あちらへ向かってゴブリンを狩っててくれ。今日明日はいかないんでな」
方位磁石を取り出して方角を確かめ、村の連中と別れてゴブリン駆除を開始した。
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