第468話 7 *ビシャ*

 ワイニーズの魔石を持って戻ると、ベースキャンプにワイニーズの死体が二つ、運ばれていた。あたしも持ってくるべきだったかな?


「マルグが運んでくれたんだよ」


 子供でも巨人は巨人か。凄い力だ。四メートルはあるワイニーズを引きずってくるんだから。


「体は大きいけど、肉は少なさそうだね」


「ワイニーズは風に乗って獲物を捕まえる。肉は極力落としたんだろうと師匠が言っていたよ。地上に降りると飛び上がるのも大変だそうだ」


 マンダリンも飛ぶのに凄い魔力を必要とする。そう考えたらワイニーズがこんな体をしているのも納得だ。全身で風を受けないと浮かばないでしょうよ。


「こいつの皮ってなにかに使えるの?」


 集落にいた頃なら魔物皮は服や天幕に使ったりするけど、ゴブリンを駆除してたら魔物なんてなんの価値もない。今は魔王と戦う者に渡すために魔石を取っているくらいだ。


「高級な外套の材料となるらしい。まあ、ワイニーズを狩れる者が少ないから高くなるみたいだがな」


 ふーん。こんなものを外套にするんだ。今のあたしにはいいものとは思えないな。


「まあ、魔石以外はなにも言われてないし、山黒を釣るエサとしようか」


 あの大きい山黒がたくさん住んでいるならエサの確保も大変でしょう。死肉も食べるそうだし、撒き餌とするとしよう。


「アリサ。山黒の相手は任せるよ」


 この隊のサブリーダーはアリサなのだ。


「わかったわ。山黒は近くにいるのかしら?」


「臭いはする。ここら辺にもエサ探しにきてるみたい」


 うっすらとだけど、山黒の臭いがする。カンザニアの麓にはエサがないからここまででばってきてるんでしょうね。


「ねーちゃん、山黒は全部狩るの?」


「襲ってきたのだけでいいよ。山黒はついでだしね」


 ワイニーズ討伐の邪魔になるから狩るまで。わざわざ苦労して狩る必要はないさ。


「肉をばら撒いて山黒を呼び寄せようか。山黒は鼻がいいしね。どう?」


「わたしも賛成よ。長々と時間をかける必要もないしね」


 他のエルフも賛成とばかりに頷いた。


「メビ。ミルドとマルグの面倒は任せる。いいね?」


「わかった。二人の面倒はあたしがみるよ」


「ミルドとマルグはメビの補佐だよ。支えてやってね」


 了解と二人が頷いた。


「ルーク、マニサ。あたしたちはワイニーズに集中するよ」


 エルフの中でもマンダリンの操縦に長けたのがこの二人で、火の魔法にも長けている。空中戦に適しているからとタカトが選んだそうだ。


 あたしは魔法も銃も下手だけど、マンダリンの操縦だけは負けてない。囮としてワイニーズの注意を引きつけるのが役目だ。


「了解」


「腕が鳴るわ」


 まあ、今すぐ動くと言うわけじゃないので皆とワイニーズを解体し、肉をベースキャンプ周辺にばら撒くとする。


 暗くなるまで肉をばら撒き、イチゴに任せて早々に寝ることにした。


 なにもなく朝になり、ゆっくり朝食の準備をしたらミーティングしながら食事をした。


「北西に動体反応を感知。大型生命体です」


「全員、戦闘準備。ナグたちは穴を掘って」


 指揮はアリサに任せたのであたしたちはマンダリンを始動させた。


「さらに二匹の動体反応を感知。北と東からきます」


 囲もうとしているようね。群れで狩りをするんだ。

 

「動体反応四体。あと六百秒の距離です」


 え、えーと。一分は六十秒で六百秒だから……六分? もうそこじゃん。走ってきてるってことじゃん。てか、一匹増えたじゃん!


「百八十秒を切りました」


「催涙弾、撃て!」


 アリサたちが構えたM32グレネードランチャーから催涙弾を周囲に放った。


 一応、フルフェイス型の防毒マスクをつける。あたしら獣人には特別キツいからね。


 山黒の叫びが四方から上がった。


 数キロ先からワイニーズの臭いを嗅ぎ分けるってことは嗅覚が鋭いってこと。あたしらでさえキツいんだからあたしら以上に嗅覚が鋭い山黒には死んじゃうくらいキツいものでしょうよ。


「百二十秒を切りました」


 おー。逃げないか。息と瞼を閉じて抜ける気かな? さすが災害級の魔物だ~。


 だけど、タカトはその災害を知恵で乗り越える男だ。催涙弾を突破したときのことも考えている。


 アリサたちによって掘られた穴に足を取られ、仕掛けた網やワイヤーに絡まれて動きを奪われた音が聞こえた。


 いくら災害級の魔物でも足を取られたら動けない。


「スタングレネード!」


 アリサの叫びに耳を塞ぐ。


 あたしら獣人やエルフの耳は人とは違う。イヤーマフをかけることはできないので手で塞ぐか耳栓を詰めるしかないんだよね。


 手で塞いでも凄い音だ。近くで聞いた山黒はたまったもんじゃないでしょうよ。


「ラットスタットで止めを刺すわよ!」


 アリサたちエルフがリミッターを外したラットスタットを抜いて暴れる山黒に駆け出し、電撃を食らわせて黙らせた。


 タカトにかかれば災害級魔物もこの通り。誰も死ぬことなく四匹の山黒を倒してしまった。


「メビ! 念のための止めをお願い!」


「了ー解!」


 リンクスを構えたメビが山黒の眉間に弾を撃ち込んでいく。安全第一、命大事に。念には念を、だ。


「ビシャ! 解体をして!」


「わかった」


 本当の仕事はこれから。魔石を取り出すのはタカトの知恵でもどうにもならない。力でやるしかないんだよね……。

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