第467話 6 *ビシャ*

 リーダーは本当に面倒臭い。


 あれこれ命令するのがリーダーかと思っていた。けど、実際は誰よりも動かなくちゃならず、誰よりも頭を使わなくちゃならない。それでいて他にも目を向けて把握しなくちゃならない。


 なってみてわかるタカトの凄さ。皆が怖いとかバケモノとか言うのがよくわかる。あたしが百人いても真似はできないよ……。


「ねーちゃん! ドローンが落ちてるよ!」


 メビの叫びにハッとしてドローン操作に集中した。

 

 いけないいけない。失敗していいとは言われているけど、真面目にやらないとミリエルねーちゃんに怒られる。ふざけたことすると容赦しないねーちゃんだしね。


 ……メビは悪さをして二度眠らされて木に吊るされていたよ……。


 プランデットと連動したドローンをバッテリーが切れるまで飛ばし、オートマップで周辺の様子を覚える。


「ビシャねーちゃん。狩りにいってきていい?」


 見張りに飽きたのか、マルグがやってきた。


 まだ七歳のマルグを連れてくるのは嫌だったけど、あたしもメビもタカトから見れば子供。駆除をする年齢じゃない。それを無理言って請負員になった。そんなあたしが子供だからってダメとは言えない。


 ミリエルねーちゃんやタカトに断ってもらおうとしたけど、自分で言えって追い返されてしまった。


「まだ周辺がどうなのかわかってないからダメ。暇ならベースキャンプを囲むように柵を作って。棒を突き刺したていどのもので構わないから」


「えー! 狩りしたいよ~」


「柵を作るのも大事だってタカトも言ってたよ。ナイフの扱いも上手くなるって」


 マルグはタカトの弟子。師匠が言ってたことは大事だと、マルグを誘導した。


「大事なんだ。わかった。やる」


 ほっ。まったく、タカトは偉大だよ……。


 周辺の様子を覚えるのに集中してたら、今度はメビが声を上げた。


「北にワイニーズ! 数は三! こっちに向かってきてるよ!」


 あーもー! ゆっくり覚えている暇もないな! 


「撃つんじゃないよ! こちらの力はまだ秘密だからね!」


 下手な攻撃をして警戒されたら後々厄介になる。やるならワイニーズの情報を集めてからだ。


「皆! 枝を集めて荷物に被せて!」


 あたしもオートマップを放り投げ、外していたマチェットをつかんで枝を払い、荷物に被せていった。離れていてもちゃんと隠しておくんだった。


「マルグは森の中に隠れてな! 他もだよ! メビは見つかるんじゃないからね!」


 あたしもヒートソードをつかんで木の陰に隠れた。


「ビシャ! 周囲の警戒も忘れるなよ! 山黒もいるんだから!」


 ミルドが叫んだ。


 そうだった。山黒にも意識を向けないといけないんだった。


 なんでこんなに頭悪くなってんのよ! いつもなら思いつくのに! 


 タカトがよくプレッシャーで胃が痛いと言ってたけど、今、それがよくわかる。胃の辺りが痛くて仕方がないよ……。


 すべてを投げ捨てたい。タカトに会いたい。あたしにはリーダーなんてできないよ。


 泣きそうになったとき、イチゴが横にきた。な、なに?


「大丈夫。落ち着け。すべてを上手くやろうとするな。一匹一匹追い詰めていけ。強者はこちら。上には上がいると教えてやれ」


 イチゴの口からタカトの声がした。


「……タカト……」


 こうなることを見越していたんだ。まったく、タカトは凄いんだから。


「──メビ! 撃ち落とせ!」


「了ー解!」


 単純な子だけに思い切りがいいメビ。射撃の腕もいい。連続で撃って、二匹を撃ち落とした。


「ルークたちは止めを刺して! マルグとミルドは周囲警戒! 敵がきたら撃ち殺して構わないから!」


 あたしも止めを刺しに走りたいけど、ワイニーズは三匹いた。ここで逃したら面倒になるかもしれない。ここで確実に仕留めておく。


 ゴーグルをしてマンダリンに乗り込み、マナ・セーラを始動させた。


 パイオニアのようにエンジンをかけたらすぐに動かせないけど、マンダリンの操縦はタカトの次くらいに上手いと思っている。多少距離を離されようと問題ない。


 メーターにマナ・セーラが暖まった印が点いた。


「メビ! 見張り、お願いね!」


 そう叫んでマンダリンを浮かせ、フルスロットルで上昇させた。


 数秒で上空二百メートルまで到達。辺りを見回しワイニーズを探す。


「いた!」


 機首を旋回させてフルスロットルで飛んだ。


 ワイニーズは速い。けど、マンダリンで追えない速さではない。


 風圧に負けずにフルスロットルで迫り、そして、追い抜いた。


 すぐに旋回したらグロック18を抜いた。


 あたしは銃は苦手だけど、練習はちゃんとしているし、グロック18はフルオート。正面から突っ込んでくる標的に何発かは当てられるさ!


 威力は弱いもののまともに当たればワイニーズと言えど効果は抜群。もがきながら落ちていった。


 グロック18をホルスターに戻したら落ちていくワイニーズを追い、マチェットを抜いてその背に投げ放ってやった。


「ザマーミロ!」


 そうだ。落ち着けばワイニーズくらいどうってことない。ローダーに比べたらカスも同然さ。


「いや、ナメたらダメか。狩りの敵は油断する自分だしね」


 タカトも言ってた。帰るまでが駆除だ、ってね。


 さあ、魔石を取って戻るとしましょうかね。

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