第466話 5 *アリサ*

「じゃあ、気をつけていってこいよ」


 マスターたちに見送られてわたしたちはワイニーズ討伐に出発した。


 今回の討伐にはマスターは参加しない。ビシャをリーダーとして、十人で挑むことになった。ただ、職員によるゴブリン駆除も行うようで、二十人規模にはなっているけどね。


 ワイニーズと言う空を飛ぶ魔物だけなら十人でも討伐可能だと思う。けど、カンザニアの麓には山黒が住み着いていると言う。何匹いるかわからないけど、番が住んでいたら五~十匹はいるでしょう。


 山黒は災害級魔物だ。一匹いても百人規模の討伐隊が組織されると言われる。それが群れでいるとか領地あげての討伐にならないといけないわ。


 けど、わたしたちは十人。獣人姉妹、領主代理の息子、巨人の子供(しかも七歳)、わたしたちエルフ六人。数と個人を見たら無謀としか思えない。知らない者が見たらやる気あるのかと言われるでしょうよ。


 ただ、それはなんの準備もしなかったら、だ。


 こちらには空を飛ぶ乗り物があり、位置を知るものがあり、殺せるだけの武器がある。なにより、マスターの知恵がある。山黒を無力化できる方法をいくつも教えてくれた。


 ……あの人は、そこまで考えて土魔法を使える者を集めたのかしら……?


 そう思ってしまうくらいこちらが有利になる状況になっているわ。


 マイヤー男爵領までは道は走りやすく、朝に出れば休憩しても昼前には到着。カンザニアに続く道の前でゴブリン駆除チームと分かれた。


 ミリエル様はわたしたちの荷物を出す役目があるので先を進み、カンザニア山が見えるところでベースキャンプを築くことにした。


 全員で周辺の草や倒木を片付けたら土魔法が使える者で大地を均した。


 その日はそれだけで終わってしまい、マイセンズで発見されたゴーレム、イチゴに見張りをしてもらい、全員で休んだ。


 何事もなく朝を迎えたら朝食を済ませ、昨日の続きを再開した。


 大地を固く均したらミリエル様がセフティーホームからマンダリンを三台出した。


 戦闘用のブラックリンはプランデットと連動させなければ操縦が難しい。わたしたちの先祖が造ったものとは言え、まだ使える者はマスターしかいない。通常型のマンダリンを操縦できるのも三人しかいないのだ。


「ビシャ。荷物はこれで全部よ。パイオニア四号と五号はホームに仕舞うわね。六号は常にホームに入れておくから緊急時は出しなさいね」


「わかった。あとはこっちでやるよ」


「ええ。がんばりなさい──」


 そう言ってミリエル様がセフティーホームに消えた。


「よし。アリサたち地上班は周辺の印つけ。ルークたち空中班はマンダリンの点検と試運転。ミルドとマルグはベースキャンプの守り。メビはあの木に登って上空警戒。あたしはドローンを飛ばすから」


 丸一日マスターから仕込まれたドローンを出してきて飛ばした。


 わたしも派遣組の代表だ。ビシャの大変さはよくわかる。


 お婆様からマスターを支え、エルフの地位を築けと命令されてここにいる。年齢的にもっと代表に相応しい者はいるけど、わたしはマサキ様の直系。使徒の血が混ざっている。


 マスターも耳が長いだけの日本人っぽいと言っていたわ。


 エルフにもいくつかの種があり、髪の色や容貌が違う者もいる。ミシニー様もこの地で生まれたけど、ラッセンダと呼ばれる系統の方だ。


 わたしたちはカゼン系統で、マサキ様の血を強めてきた。ただ、それも限界に近づいているため、マスターの血を欲している。


 ただ、マスターはマサキ様のように女に興味がないのか、一年もいて未だに女を抱いていないようだ。


 別に同性愛者と言うわけではない。普通に女性を意識していたわ。だけど、マスターは女性を抱こうとしない。同じセフティーホームに入っている方々にも手を出していないのだ。


 他種族だからと言うわけではない。マスターは種族で見てない。個人で見ている。そう。個人で見ているのだからマスターは厄介なのよ。


 エルフの代表としてエルフの地位を築くために動かなくちゃならず、種の存続のためにも動かなくちゃならない。ビシャもマスターの役に立とうとしながらマスターに気に入られようとしている。


 さすが女神様の使徒に選ばれるお方。お婆様はどうやってマサキ様を射止めたのかしらね?


「アリサ? どうかしたか?」


「いえ。なんでもないわ。準備をしましょう」


 マスターは種族に関係なく人材を募っている。けど、わたしたちはマスターほど個人で見ることはできない。 


 この世界は人間が多く占めており、エルフのような種は少ない。地位も低い。差別を受けている。


 しかし、女神の使徒が遣わされた。その方は、種族に差別を持たない。マサキ様のときのように繁栄をもたらしてくれる方だ。


 千載一遇の好機。この機を逃したらエルフはずっと地位の低い種としていずれ滅びるでしょう。神の血が交じった種として繁栄していかなければならない。


 まずはマスターの信頼を得る。近い場所に居続けなければならない。なにより、マスターを生かし続けなければならない。長く生きてもらわなければわたしたちも困るのだ。


 装備を整えたら印づけに出る。わたしたちの居場所を守るために。



        2023.3.1

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る