第465話 4 *ミリエル*

 一から準備をする。これがこんなに大変だとは思わなかった。タカトさんは、いつもこんなに考えていたのね。


 ワイニーズ討伐はビシャをリーダーとしたけど、それはさすがに無理だ。だから準備はわたしが補佐をすることになったのだ。


 恐らくタカトさんはわたしにも学ばせようとしているのでしょう。これからも人は増えていくでしょうし、依頼を同時進行しなければならない。その日がくると読んでいるんだわ。


 本当に凄いと思う。まるで先を見通すかのように準備をしているし、不測の事態にもすぐに対応してしまう。


 その一例がダストシュートでしょう。


 ただゴミを捨てるだけのものかと思ったら、敵の中心から手榴弾を投げたり、人を送り出したりしている。あれをこの世界にきた当初から考えていたと言うのだから呆れてしまう。そういう日がくると思うとか、わたしには考えられないわよ。


 常々自分は弱いと口にしているけど、戦略眼は凄まじいものがある。目的まで持っていく計画性だって凄まじいわ。たった数ヶ月で領主連合を組ませ、アシッカまでの道を確保してしまった。


 あんなことできる人はタカトさんしかいない。やれと言われてもやれるものじゃないわよ。


「ミリエルねーちゃん、アリサたちが帰ってきたよ」


 考えに浸っていたらメビに声をかけられた。おっと、いけないいけない。余計なことを考えている場合ではないわね。


「わかったわ。ビシャはそのまま荷物のチェックよ」


 うんうん唸りながら荷物をチェックするビシャに声をかけた。


 アポートウォッチでホームから取り寄せられるとは言え、ホームにないものは取り寄せられない。ちゃんとなにがあるかを知っておかなければならないのよ。


「あーん! いっぱいありすぎ!」


「それがアポートウォッチをする者の役目。がんばりなさい」


 ガチャで新たに二つもアポートウォッチが出た。リーダー格になる者にさせることにしたのよ。


「リーダーってこんなに大変なんだね」


「そうね。でも、それはタカトさんがビシャを信頼している証拠でもあるわ」

 

 よしよしとビシャの頭を撫でた。


 部下のメンタルフォローややる気向上は上に立つ者の役目。組織の良し悪しは上に立つ者で決まる。タカトさんを見ているとよくわかるわ。


「少し休憩しましょうか。メビ。アリサたちを呼んできて。ミサロが苺大福を作っていたわ」


 一日三時間しか眠らないミサロ。あれはズルいと思う。どうやっても勝てないわよ。


「わかった!」


 メビが窓を開けて外に飛び出した。


「あの子はもうちょっと行儀を覚えさせないとダメね……」


 見た目はわたしと変わらないのに、中身が年相応……ではないわね。精神年齢がマグルより幼いわ……。


「……妹がすみません……」


「ふふ。ビシャはおねえさんね」


 タカトさんが評価しているのはそこでしょうね。ビシャはちゃんと周りを見ているからね。


 アリサたちが上がってくる前にホームから苺大福と言うか、フルーツ大福を持ってきた。


「ご苦労様。まずはお茶にしましょうか」


 アリサたちエルフと職員数名で新たに買った小型パイオニア五台の慣らし運転をしてもらっていたのよ。


 フルーツ大福と紅茶を出して一息。わたし、この一息が大好きだわ。とても幸せに感じられるから。


「新しいパイオニアはどうですか?」


「小回りが利いていいが、力がありすぎて道から飛び出しそうになったよ」


 新たに設立した輸送部の代表、サイオさんが答えた。


 カインゼルさんと同じく乗り物に魅了された人で、ワイニーズ討伐ではビシャを運んでもらうことになっているわ。


「まあ、それがおもしろいんだがな。ただ、もっと積載量は欲しいところだ。二人乗りで荷台はコンテナボックスを二つ載せれるくらいだからな」


「トレーラーは買うので積載は問題ないでしょう。輸送も二台一組で行動させるとタカトさんは言ってました」


 そこまで大量輸送するわけじゃない。ギルドや協力教会への物資輸送だ。十日に一回を目標としているので、ローテーションを組めばそれで問題ないだろうとタカトさんは言っていたわ。


「もっと道がよくなれば輸送の車を買うみたいですが、今はパイオニアでの輸送となりますね」


「そうだな。コラウスからマイヤーまでの道ですら凹凸が激しいしな。今は小型のパイオニアが適しているか」


 乗り物大好きな人にはウルヴァリンのようなものがいいでしょうが、人員輸送や物資輸送ならパイオニアのほうがいいでしょうね。


「個人で買うなら七十パーセントオフシールを支給しますよ」


 ガチャで二枚出たので、タカトさんも個人で買うなら出してもいいと言っていたわ。ロンダリオさんたちのチームもパイオニアを買おうと、未だにアシッカでゴブリン駆除をしている。やる気がある人なら支給するのもいいだろうってね。


「本当か!?」


「はい。なんならビシャたちがワイニーズ討伐の間にゴブリン駆除をしても構いませんよ。輸送はわたしでもできますから」


 伯爵夫人に届けないといけないものもあるし、わたしもパイオニアの練習をしなくちゃならない。サイオさんたちがゴブリン駆除をやっている間にわたしがやっても大丈夫でしょう。


「それはいいな。マスターに通しておいてくれ」


「わかりました。出発は三日後を予定しています。それまで必要なもののリストを上げてくださいね」


「わかった。すぐにリストアップするよ!」


 また準備なのは大変だけど、それを支えるのもお仕事。かんばるとしましょう。

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