第464話 3 *ミルド*

 ここは珍しいものばかりだ。


 ゴブリン駆除をする者だけが買える魔法の品。世の中にはこんなのがあるんだな。


 領主代理と冒険者のギルドマスターの息子として産まれ、かなり恵まれた環境で育ち、師にも恵まれた。


 他人より見るもの触れるものは多かった。だが、ここにあるものは見たことも触れたこともないものばかり。食べるものだって全然違った。


 おれは魔法が得意で、小さい頃から魔法を学んできた。天才、とまではいかなくても歳以上の才能はあると思っていた。


 だが、自分の魔法はそれほど凄いものじゃないことを知った。世の中にはおれ以上の、いや、突き抜けた才能を持つ者がいるんだと痛感させられたよ……。


「ミシニー様、ありがとうございました!」


 銀印の冒険者だが、実力は金印であり、師匠でも敵わないと言わしめた伝説級のエルフである。そんな方から魔法をご教授いただけるとは贅沢極まりないよ。


「様は止めてくれ。そんな大した存在でもないんだからな」


 充分、様と呼ばれる存在であり、師匠すらミシニー様と呼んでいるくらいだ。敬称抜きで呼べる方ではない。


 だが、それではミシニー様も嫌だろうからミシニーさんと呼んでおくことにする。


「そうだ。これを持っていけ。ワイニーズには無理だろうが、ミルドの魔力なら山黒を一瞬硬直させることはできるはずだ」


 ラットスタットなる魔力を雷に変換する棒を二本、ミシニー様(心の中では様づけです)からいただいた。


「山黒ですか」


 それ、災害指定された魔物なんですがね。


 山黒の姿を生で見たことはないが、その恐ろしさは師匠から聞いているし、魔石なら見たことはある。


 未熟なおれにでもわかる。人がどうこうできる魔物ではないことを。なのに、一瞬だけ硬直できるってなんだ? このラットスタットと言うもの以前に山黒の前に立てる時点でいろいろ間違っている。


 兵士が百人いても勝てるかどうかわからない存在と戦うとかまずあり得ない。見たら逃げる以前に存在する場所に近づくな、だろう。


 昨日の会議室でも思ったが、ここにいる者らは山黒を普通の魔物としか見てない。倒せて当たり前な空気だった。


「まあ、ミルドは無理に戦うことはない。ビジャを支えることを第一としろ。戦闘力だけなら銀印級だが、頭は年相応だ。リーダーをやる技量でもないからな」


「それならなぜやらせるのですか?」


 ビジャはまだ十三歳(まあ、見た目は十七、八歳だけど)。人を纏めさせるには早いと思うのだが?


「ビジャもメビも実力はある。だが、強さ故に上に立つ者の苦労を知らない。知らないから自分勝手に動いてしまう。それではいつか死ぬ。自分の能力に殺されるんだ。ミルドも自分を天才だと驕るな。強いと勘違いするな。力は知恵があってこそ活かされる。わたしはそれをタカトから学んだよ。この歳になってな……」


 タカトさんは見た目では強そうとは思えない。おれでも勝てそうな体格をしている。


 だが、あの母上ですらタカトさんを恐ろしい男だと言い、父上も敵にしたくない男だと言っていた。


「タカトさんは強いんですか?」


 強い話ならいくらでも聞いた。ゴブリンだけではなく上位の魔物や巨大魔物、終いにはグロゴールと呼ばれる竜まで倒していると聞く。もうなんて英雄物語だよと思ったくらいだ。


「あれはバケモノだ」


 バ、バケモノ?


「アルズライズやカインゼルは、タカトを英雄と思っているみたいだが、わたしに言わせればタカトはバケモノだ」


 そう言うわりには嬉しそうな顔をするミシニー様だった。


「わたしも死滅の魔女だなんだと言われてきたが、それが誇りに思わせるほどにタカトは人をタラシ込むのが上手いんだよ」


 それは、なんとなくわかる。ここの者はタカトさんを信頼し、楽しそうに笑い、楽しそうに仕事をしているからな。城ではまず見れない光景だ。


「ミルド。お前は他種族に偏見がない。わたしとも普通に接している。それは才能だ。タカトに通じるものがある。英雄なんて目指すな。そんな暇があるなら多くの人と接しろ。それはいずれお前の力となる。繋がりがお前の宝となるだろう」


 そうミシニー様が言い、おれの肩を叩いて去っていった。


 残されたおれはしゃがみ込んで、今言われた言葉を考えた。


 でも、上手く考えが纏まらない。どう受け入れていいかわからなかった。


「どうしたの? 具合悪いの?」


 と、巨人の子供が現れて、心配そうに声をかけられた。


「いや、訓練して休んでいただけだよ。心配させてごめんな」


 なんだか弟に声をかけられたみたいで、笑って返した。


「よかった。にーちゃん、見ない顔だけど、ギルドの人?」


「いや、タカトさんの元で勉強させてもらっているんだよ」


「師匠から勉強? おれも師匠から教わっているよ。今日もスリングショットの練習なんだ!」


 師匠? タカトさんの弟子なのか?


「スリングショットって?」


「これだよ!」


 と、手に持つものを見せてもらい、使い方を教えてもらった。へー。なかなか凄いじゃないか。

 

 巨人の大きさだが、まだ子供が持つもの。大男が持つものていどだ。持って持てないものではない。


 マルグと名乗った子供から予備のスリングショットを貸してもらい、一緒になって的当て競争を行った。

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