第469話 8 *ミルド*

 す、凄い。あっと言う間だった。


 災害級の魔物だぞ? 一匹現れただけで大騒ぎする魔物だ。それが四匹。一斉に襲ってきたのになんら苦労することなく倒してしまった。


 いや、そのための準備はしたのはわかる。道具や罠、武器があってこそ成功したのもわかる。それでも自分の見たことが信じられなかった。


「さあ、急いで解体するよ! メビはイチゴと警戒してて。残り全員でやるから」


「山黒って解体できるものなのか?」


 マルグの軽く倍はある大きさだ。しかも、山黒は槍も矢も通じない。魔法抵抗も高いんだぞ。


「大丈夫。山黒は死ぬと柔らかくなるから。まあ、こんだけ大きいと一苦労だけどね。マルグ。出番だよ。山黒をひっくり返して。このために我が儘聞いてやったんだからね」


 子供とは言え、力は大人三人分に匹敵する。力仕事をするために連れてきたと言っても過言ではないか。


 土魔法で穴を掘ったら山黒の足に縄をかけて皆でひっくり返す。これだけのことなのに息切れが激しい。肺が痛いよ……。


 首を切って血を抜き、しばらく放置。休憩もそこそこに次のに移った。


 それだけのことなのに夕方近くまでかかり、全身汗だく。こんなに体を使ったのは初めてだよ……。


「今日はこのくらいにしておこうか。さすがにヘトヘトだよ」


 体力の塊みたいなビシャも全身汗だくだ。


「汗を流そうか。準備して」


 土魔法で穴を掘り、そこにビニールシートを敷いてそこに水を溜める。


「この水筒、便利だな」


 駆除を補助する魔法の道具とかで、水がどんどんと出てくる。まあ、口が小さいので水を溜めるのに時間はかかりそうだけど。


「タカトがいればもっと早いんだけどね」


「水魔法なんてなんの役に立つのかと思ったが、キャンプでは重宝するものだったんだな」


 水なんて井戸から汲めばいいと思っていた。だが、井戸もないところでは水を飲むのも大変だ。ましてや体を洗うために必要な水など川の近くでもないと無理だよ。


「そうだね。水筒も三つになったから時間も短縮できるよ」 


 水が溜まったら熱を発するヒートソードと言う剣を入れるとあっと言う間に沸き上がった。


 先に女性陣が入り、男は見張りに立った。


「空いたよ~」


 一時間後に声がかかり、水を交換して男性陣が入った。


 マルグも入るのでちょっと狭くなったが、こうして外で湯に入るってのも悪くないな。


「ビシャ! ビールを飲んでいいか?」


 エルフのザザトが声を上げた。


 師匠も酒が好物だったが、エルフと言う生き物はすべてが酒好きなんだな~。


「飲みすぎないならね」


「やったー!」


 湯から出てクーラーボックスから酒を出すザザトたち。もう宴会になりそうな勢いで飲んでいるよ。


「にーちゃん。おれらはアイス食おうか」


「それはいいな」


 マルグも湯から飛び出していった。


「こら! 裸で歩かないの! 引っこ抜くよ!」


 ひゃー! と逃げてくるマルグ。ビシャ、本当にやりそうで怖いな。


「アイスは上がってから食べな! ちゃんと用意しておくから」


「はーい!」


 フフ。賑やかなことだ。


「ミルドも飲むか? 十四なら飲めるだろう」


「人間は十五からだよ」


 師匠がエルフであり、他種族に壁を作らないことでザザトたちは気軽に声をかけてきてくれる。


「一歳くらい誤差だろう。飲め飲め」


 肩を組まれ、酒を無理矢理飲まされた。


「麦酒より酒精が強いな。でも、悪くない」


 酒精の弱い麦酒は飲んだことある。あまり美味いとは思わなかったが、これは苦味がスッキリして美味いと感じられた。


「サイルス様はまったく飲まなかったが、ミルドは飲めるんだな」


「きっと母上の血でしょう。タカトさんといい勝負していたと聞きましたから」


 いくら飲んでも顔に出さない母上がタカトさんと飲んだらフラついていたってことだからな。


「マスターもよく飲んでたな」


「ああ。おれら以上に飲んでたっけ」


「タカトさん、酒を飲んでいるときははしゃいでいますよね」


 普段は大人しいのに酒が入ると子供のようにはしゃいでいたっけ。


「ああ。あの方は酒を美味しくしてくれる天才だと思うよ」


「おれはあの人についていくぞー!」


「お前は酒が飲めるからだろう」


「それのなにが悪い! おれは酒を飲ませてくれる人ならどんな苦難の道だってついていくぞ!」


「アハハ。そうだな。こんな美味い酒が飲めるなら命を懸ける価値はある」


 エルフ、どんだけなんだか。


 けど、そう思わせるタカトさんは凄いんだろうな。こんなこと、並みの者では絶対に無理だろうよ。


「ビール、いいですね」


 これならおれでも飲めそうな酒精だ。


「お、いい飲みっぷりだ。もっと飲め」


「ザザト! ミルドはまだ子供なんだから飲ませないの!」


 アリサが叫び、ワインの空瓶が飛んできた。ふふ。あちらも酒盛りしているようだ。


「おーこわ。昔は泣き虫だったのに」


 さらに飛んでくる空瓶。耳が大きいだけに小声ですら聞き取っているよ。


「次は当てるわよ!」


「確実に当てにきてただろうが」


 肩を竦めるザザトに皆か苦笑いを返した。なんかこういうのも悪くないな……。

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