第470話 9 *アリサ*

 結局、酔い潰れてしまった。


 エルフは昔から酒飲みが多かったし、わたしも好きだけど、一旦飲み始めると歯止めが利かなくなるのはなんとかならないものかしらね? 


 ……まあ、わたしも酔い潰れてたから仕方がないんだけどね……。


 とは言え、アルコール耐性は強いので、ぐっすり眠れば消えてくれるんだけどね。


 起きがけに水をたっぷり飲み、一息ついたら森の中に。さっぱりして戻ってきた。


「皆。さっさと起きなさい」


 イチゴが見張ってくれているので安全だけど、さっさと山黒から魔石を取り出さないとならない。あまり長く時間をかけていたらマスターから無能と思われてしまうわ。


 わたし同様皆も酒が消えるのは早い。水を飲ませて森にいかせた。


「なんで皆森にいくの? トイレ使えばいいじゃない」


 メビが不思議そうな顔をしているけど、まだ幼いメビが知る必要はない。大人になったら身をもって知りなさい。


 朝食を軽く食べたら山黒の解体を開始。その日も解体で潰れ、お酒は厳禁で眠りについた。


「山黒の臭いも酷いし、ベースキャンプをカンザニアの麓まで移そうと思うんだけど、どうかな?」


 確かに臭いがしてきたわね。


 わたしたちで臭うんだから獣人のビシャとメビには辛いでしょうね。他の魔物も寄ってこないとも限らないしね。


「それがいいと思うわ。ゴブリンが集まってきてもわたしたちでは対処できないしね」


 さすがにこの人数では五百匹が精々だ。千匹も集まってこられたら逃げるしかないでしょうよ。


 他の皆も異存はなし。すぐにベースキャンプを片付けた。


「アリサ。これを山黒に仕掛けて。ゴブリンが集まってきたら一掃するから」


 ビシャから手榴弾に似たものを渡された。


「手榴弾?」


「うん。強力なヤツっぽい。アリサたちの報酬とするからアリサたちで仕掛けてよ」


「いいの?」


 強力と言うならかなりの数を殺せるでしょうに。それを譲ると言うの?


「もし、ゴブリンが集まってくる状況になったらアリサたちに殺させろって言ってた。それを今回の報酬とするからってさ」


 あの方は、どこまで先を予想して動いているのでしょう。こうなることも見通していたの?


「わかった。ありがたく受け取らせてもらうわ」


 マスターがわたしたちにさせるのはエルフと言う種を生かすためだ。なら、わたしたちは生きてマスターのために生きていくまでだわ。


 手榴弾──マルダートを山黒に仕掛けていった。


「誰もこないと思うけど、注意書きをしておいてくれってさ」


 ふふ。安全第一なマスターらしいわね。


「アリサ。そちらは任せた」


「ええ。わかったわ」


 ビシャたちマンダリン隊は先に空に舞い上がり、カンザニアの麓に向かっていった。


「わたしたちもいくわよ」


 プランデットをかけて出発する。


 小さな動体反応があちらこちらにある。これはゴブリンかしら? 本当にどこにでもいる害獣よね。女神がマスターを送り込むのも頷けるわ。


 先頭はマルグが立ち、マチェットで道を切り開いている。


 巨人とは言え子供を連れてきてどうするのかと思ったけど、なかなか役に立つ子である。楽々進めるわ。


 一時間進むごとに十分の休憩を挟む。いつ山黒が現れるかわからない。戦えるだけの体力は残しておかなくてはならないからね。


 三回目の休憩をしていると、爆発音が耳に届いた。


 請負員カードを出してみると、二十万円以上入っていた。他の者も同じくらい入っていた。計算は苦手なので正確な数はわからないけど、これまでの経験から三百匹以上はいた感じだ。


「上手く釣れたみたいだね」


「ええ。山黒が巣くっているのに結構いることに驚きだわ」


 ゴブリンを食う生き物なんていないでしょうけど、山黒が巣くっているところで生きているんだから呆れる害獣よね。


 と、また爆発音が。方向からしてカンザニア側ね。


「ねーちゃんだね。山黒でも吹き飛ばしたかな?」


「そうかもしれないわね。メビ。空にワイニーズがいないか確かめて」


「了ー解」


 リンクスを背負って木をひよいひよいと登っていった。まるで猿ね。


「ねーちゃんたちが煙幕を張ったみたいで確認できないよ!」


 ワイニーズに襲われて煙幕を張ったのかしら?


「アリサ! カンザニアのほうに黒煙が立ってる! マンダリンの榴弾をばら撒いたみたい!」


 絨毯爆撃、と言うものかしら?


「メビ! そこに向かうわ!」


「了ー解!」


 次はメビが先頭に立ち、マルグに枝葉を切り払ってもらいながら進んだ。


 二時間くらいで絨毯爆撃した場所へ到着。山黒が二匹、黒焦げになっていた。


「アリサ! まだ山黒がいる! 気をつけて!」


 ビシャが指差す方向に土を盛った山がいくつもあった。まさか、山黒の巣なの!?


「ガルドとダタルはリンクスを!」


 二人は土魔法の使い手だけど、体格もいいので対物ライフルを持たせている。


「ザザトは防御! ミルドとマルグは援護よ!」


 わたしはマスターから渡されたバトルライフルを構えた。


「アリサ! あたしがやる! 援護して!」


 ラットスタット装備に換えたビシャが前に出た。この中で接近戦に特化したのはビシャであり、山黒に有効打を与えられるのもビシャだ。


「全員、ビシャを援護! 当てるのは山黒だけよ!」

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