第471話 10 *ビシャ*

 ラットスタットを抜き、近くの山黒に向かって駆け出した。


 山黒と戦うのは二度目で数も多いけど、まったく怖くなかった。


 ローダーより小さいし、ロスキートより遅い。グロゴールと比べたら猪となんら変わらない。ただ、図体がデカいだけの熊だ。


 生きていれば対物ライフルすら耐え凌ぎ、どんな刃も皮まで到達しない。災害のような魔物だ。と、聞けば恐ろしく思う。なにも知らなければあたしもビビっておしっこ漏らしていたでしょう。


 でも、生き物である以上、弱点はあるし、殺すことはできる。それをタカトは身をもって教えてくれた。


 一人で勝てないのなら数で挑め。武器が通じないのなら通じるものを使え。弱いなら頭を働かせろ。勝機は必ずある。生きて勝て、だ。


 まあ、山黒の攻略はタカトが確立しちゃったので怖いもなにもないんだけどね。


 大抵の生き物は雷に弱い。殺せなくても筋肉を萎縮させて動きを鈍らせることはできる。


 マルチシールドにラットスタットを三本装着。あたし相手に立ち上がった山黒の腹に向けて伸ばした。


 あたしの魔力が雷に変換されて山黒に放たれた。


 魔力がそれほどなあたしでも三本の雷が放たれれば山黒とは言え効果は絶大──でもないか。まあ、倒せるくらいには効いた。あとはメビたちリンクスを持った者たちにお任せだ。


 次に移り、横腹にラットスタットをぶつけて雷を放つ。それを繰り返していくけど、あたしの魔力だと五匹がやっとか。魔力がなくなって動きが鈍くなってしまった。


 残りは五匹。巣の中にもいるとなると十匹はいるかな? あたしらがこなければどうなっていたことやら。この地、呪われてんじゃないの?


「アリサ! マルダートを使う!」


「わかったわ! 十分後にお願い!」


「了解!」


 倒れた山黒の陰に隠れて時を待つ。


 残りの山黒がどう動いているかわからないけど、アリサたちなら問題ない。タカトと一緒に戦ったヤツらだからな。


 あたしはマルチシールドとアポートウォッチをしているので、チェストリグにつけた懐中時計を引っ張って見た。


 時間になったら山黒に上がった。


 アリサたちの姿は見えないけど、山黒が集まって地面を掘っていた。たぶん、土魔法で潜ったんだろうね。


 マルダートを取り寄せてスイッチをオン。穴を掘る山黒のところに投げ放ってやった。


 一発でもかなりの威力がある。あたしも地面に飛び降りてマルチシールドを展開。地面に伏せた。


 十秒後、マルダートが爆発。隙間から熱風が入ってきた。あっち!


 熱風が消えたらマルチシールドを戻し、ヒートソードを抜いた。


 穴を掘る山黒のところに向かうと、あの爆発で燃えたようで痛みに暴れていた。


「しぶとい魔物だ」


 近づくと危険なのであれは放置。土の中に潜ったアリサたちを呼んだ。


 土がモコモコ動き出してアリサたちが現れた。変な光景だ。


「どう?」


「まだ生きてる。止めを頼むよ。あたしは魔力切れだから」


「わかったわ。メビ、ガルド、ダタルは暴れているのをお願い。残りは動かないものを仕留めるわよ」


 あとは任せてあたしは一休み。スポーツ飲料を取り寄せていっき飲みした。


 あたしら獣人は生命力が高く、治癒力も高い。二十分もすれば魔力も回復してくれた。


 焦げ臭くて食欲が湧いてこないけど、エネルギー補給は小まめにやっていたほうが回復も早いと言うのでカロリーバーを出して口にした。


 一箱食べたらあたしも山黒の止め刺しに加わる。なんかあたしら、戦っているより後始末ばかりしてるほうが長いな~。


「おれら、いったいなにしにきたかわからんな」


「まったくだ」


 あたしだけじゃなく皆も同じ感想を抱いているようだ。


「ビシャ、メビ。悪いけど、巣穴の様子を見てくれる? 動体反応を感知したのよ」


「わかった。メビ。燻り出すよ」


 マルグからM32グレネードランチャーをもらい、二人で巣穴に向けて催涙弾を放った。


 少し下がり、様子を見る。


 十五分くらいして鳴き声がして山黒の子が何匹か飛び出してきた。


「あたしがやるよ」


 子ならヒートソードで充分だ。


 基本、山黒は硬いけど、柔らかい場所はいろいろある。耳とか目とか肛門とかね。


 とりあえず暴れ回っているので温度を千度にして鼻を狙って斬りつけていった。


「メビ。あとはよろしく」


「了ー解」


 リンクスに持ち換えていたメビ。さらに暴れ回っている山黒の頭を狙って撃っていった。

 

「メビ。あたしは巣穴に入るから出てきたのはお願いね」


「了解。一応、出るときは声を出してね」


「わかった」


 防毒マスクをして巣穴に入った。


 催涙ガスが舞っていて刺激臭が凄い。防毒マスクしてこれなんだから山黒はもっと大変だろうよ。


 巣穴はかなり奥まで掘られており、あたしくらいの山黒の子が何匹か硬直して倒れていた。


 ……産まれたばかりの子かな……?


 一応、首筋にヒートソードを刺しておく。魔物は確実に殺しておかなくちゃならないからな。


 巣穴は他の穴とも繋がっており、産まれたばかりの子が十五匹ほど硬直して倒れていた。


 一匹一匹確認しながら確実に殺していく。これは、解体に二日くらいかかりそうだな~。ハァー。


 ───────────


 ワイニーズ討伐編は15まで。第11章はあいつが還ってくる。

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