第372話 異次元庫
「待たせたな」
先ほどまでの装備を外して弾込めをしていたのに、今は準備万端で待ち構えていた。
「ちょうどいい時間さ」
「ああ、問題ない」
ほんと、嫉妬しそうなくらい格好いいヤツらだよ。
「ミシニー。請負員カードでそのラットスタットが入りそうなケースとベルトを買え。警棒で調べるとケースが出てくると思うから」
ラットスタット──電磁警棒のコンテナボックスを開け、六個取り出した。
「……これか?」
すぐに調べたミシニーが請負員カードを見せてくれた。
「もう少し大きいのだな」
買ってみないとわからないので、いくつか買わせて適度なものを六つ買ってベルトにつけ、ミシニーに装着させた。
「動き難いんだが」
「我慢しろ。それはラットスタットと言う伸縮せる棒で、持ち手の魔力を雷に変換するものだ。対人用で威力は弱いが、リミッターを外せば丸焦げにはできる。ただ、そのあとは使い物にならなくなるがな」
一つつかみ、プランデットを使ってラットスタットの製造番号を読み取り、魔力信号を放ってコードを書き換え。リミッターを解除した。
「人の頭を殴ったくらいじゃ曲がったりはしない。近接戦で使い、魔力が効かないときは全力で魔力をラットスタットに送り込んで雷を放ってやれ」
おそらくロースランにも効果はあるはずだ。これは純粋な電気を放つものだからな。
「なるほど。それはいいな」
「ラットスタットは五百以上持ち出した。当分は間に合うだろうよ」
全力で放つ敵なんてそうはいないのだから五百個もあれば充分だ。もし、足りなければまたきたらいい。ラックにはまだたくさんあるんだからな。
「いや、持てるだけ持っていく。試したいからな。これから見ることは秘密だぞ」
真剣な口調に、オレもアルズライズも了解と頷いた。
何事かと見ていると、ミシニーの左手に凄まじい魔力が集まるのがわかった。
手が黒く染まっていき、徐々に黒さが増していって肘まで黒くなってしまった──ら、空中に扉が作られていった。はぁ?
「ミシニー!」
オレがあんぐりと口を開けていると、アルズライズが叫び、慌てて振り向くとミシニーが四つん這いになって息切れを起こしていた。
「……だ、大丈夫だ。魔力を急速に消費しただけだ……」
しばらく苦しそうにしていたが、息が整い、立ち上がることができた。
「なんなんだ、これ?」
ペットボトルを渡しながら尋ねた。
「異次元庫。わたしの取って置きの一つだ」
こんなスゴ技がまだあるんかい。お前、絶対百年以上生きてるよな?
「ふぅー。体調のいいときしか使えないから面倒な術だよ」
「もっと簡単にはできないのか? 魔石とか使って?」
「あっさりと受け入れるんだな」
「驚いたのは驚いたが、オレもホームと言う異次元に入っているからな。そう考えたら驚きはどこかにいったよ」
逆になんで皆が騒がないのが不思議だよ。
「異次元庫は闇属性の魔法だ。災悪級の魔石でなければ使えないんだよ」
「それは災悪級のなにかを倒したと言っているようなものだぞ」
「わたしではなく祖父だ。マサキ様と一緒にな。そのときマサキ様は亡くなられたそうだ」
はぁ? マサキさん、災悪級のヤツと戦ったの!? 初耳なんですけど!
「……マサキさんが死んだのって、それが原因なのか……?」
「長老から聞いてなかったのか?」
「……聞いてない……」
「それはしくじったな。てっきり話しているのとばかり思っていたよ」
ま、まあ、長老にしても辛い話だ。避けても仕方がないだろうさ。
「……やっぱり、そう言うのと対峙する運命なんだな、オレは……」
それは薄々わかっていた。レッドなドラゴン、マーグ、山黒、魔王軍、ロースランの特異体と、ゴブリン以外とも戦ってきた。ゴブリンはそんな強い存在に隠れて生きている。駆除するならそんなのも相手しなくちゃならいんだな~、とな……。
「そう言うのはおれに任せろ」
と、アルズライズがオレの肩を小突いた。
「それはおれでも扱えるか? おれは力の属性だが」
「も、問題はない。純粋な魔力を雷に変換するだけの単純な造りだからな」
当時のエルフに取っては、だけど。
「そうか。それはよかった。ミシニー。ここにあるのをすべて入れられるか?」
「問題ない。開けるのに苦労するだけで中は広い。充分収められるさ」
「よし。なら、残らず入れるぞ」
「もちろんだ」
ラットスタットになんの可能性を見たのか、息の合うお二人さん。まあ、中が広いならEARやルンも入れてもらおう。異次元なら空気に触れることもないだろうしな。
扉を開くと、中は真っ暗だった。
「空気が回るまで待てよ。入りすぎると死ぬぞ」
「やはり生き物は入れられないか」
「無理だな。何度か試したが、開けたら死んでいた」
酷い実験をする。まあ、オレもできたならゴブリンを放り込んで確認するけど。
風を送り込み、二十分くらいしたら台車を三台を取り寄せてコンテナボックスを異次元庫に運び込んだ。
なんだかんだと半日以上かかってしまい、上に向かうのは明日にすることにした。ミリエル、すまん。
「せっかくだからプランデットの使い方を教える。ミシニーはエルフの文字を読めるか?」
オレは、クソ女神のせいでエルフの文字も頭の中で日本語に自動変換できるようになったよ。
「ああ。ただ、言葉の意味が理解できるかはわからんがな」
「大丈夫だ。そこはプランデットが補助機能がある。わからないことは質問すると教えてくれるから」
プランデットはこの都市の情報とリンクさせられる。そのせいでとんでもない情報がオレの頭の中に流れてきたんだろう。まったく迷惑なことだよ。
「おれも使えるのか?」
「ちょっと時間はかかると思うが、学習機能があるから使えるようにはなる。今は主要なものを使えばいいと思うぞ」
時間、暗視、熱源、通信、マップで問題ないだろう。
「まずはプランデットにこの丸いのをセットして、所有者の登録だ」
二人には概念外のもの。一つ一つわかるように、二人が知るものでたとえながら教えていった。
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