第371話 プランデット

 こうして後方にいて、援護だけってのも辛いものだな。外が気になって仕方がないよ。


「ミサロはこんな気分でオレたちを支えていてくれたんだな」


「なに? 突然?」


「いや、ミサロのありがたみがよくわかったってことさ」


 それを望んでホームにいてもらっているのだが、ミサロの気持ちなど考えもしなかった。まったく、オレってヤツはダメダメだよ……。


「わたしのほうこそ皆と戦えないことが申し訳ないわ。皆が命を懸けているのにわたしは安全なところにいるんだもの」


「そうだな。一人で待つのは辛いよな。でも、オレたちはミサロがいてくれるから戦える。ホームにいてくれるから帰ってこられる。感謝でしか応えられなくてごめんな……」


 オレを信じろ! 黙ってついてこい! とか言える男ならよかったんだが、生憎オレはどこにでもいる男なんだよ。情けない男なんだよ。ハッタリだとしても言えないんだよ。


 ほんと、オレって男はダメな男だよ。こんなときでさえ安心させる言葉を出せないんだから……。


「それで充分よ。そんなタカトだからわたしたちは救われたんだから。無理に変わろうとしないで。わたしたちは今のタカトが好きなんだから」


 なんて年下に慰められるとか益々ヘコむが、ミサロの優しさを無下にはできない。ヘコむ暇があるならミサロを、ラダリオンを、ミリエルを守ることに意識を向けろ。最低でもこの三人を守る責任がオレにはあるんだからな。


 情けなかろうが、臆病者と罵られようが構わない。言いたきゃ勝手に言え。オレが優先させるのはラダリオン、ミリエル、ミサロだ。それが絶対防衛線。オレ自身を守る線でもあるんだからな。


「──タカトさん! もう限界です! さらに集まってきて三万二千匹を突破しました!」


 だからなんでオレにアナウンスしてこない! 後手に回ってるじゃねーかよ!


 オートマップを開き、洞窟から出た辺りを映し出した。


「ミリエル。眠りの魔法は何回使える? 最大で」


「四回。いえ、五回は使えます」


 それは後先考えない数だろう。


「この方向の先に高い建物がいくつもある。その一つに逃げ込め。逃げ込めたら三階まで昇り、昇ってこれないようすべての階段を壊せ。閉じ籠る形にはなるがそれでゴブリンは上がってくることはできない。高い場所からゴブリンを駆除しろ。特異体を殺したらオレらが向かう。それまで堪えてくれ」


 おそらく、ロースランの数は少ないが、特異体がいる以上、ミリエルたちのほうに向かわせるわけにはいかない。ゴブリンだけなら問題ないはずだ。


「わかりました。やってみます」


「眠りの魔法は三回。一回は残しておけ。RPG−7は引き金を引けば発射できるようにしてある。それで階段を吹き飛ばせ。もし、ダメだと察したらミリエルだけでもホームに逃げろ。これは命令だ。あとのことはオレが引き受けるから」


 護衛隊とエルフたちなら問題はない。ロンダリオさんたちも責めたりはしないだろう。守るべきはミリエルの心だ。


「大丈夫ですよ」


 と、穏やかに笑うミリエル。


「ちゃんと上手くやります。タカトさんは自分のほうに集中してください。駆けつけてくるのを待ってますから」


 オレの腕をつかむと頭をプレートキャリアに頭突きした。痛くないのか?


「では、いってきます」


 顔を上げると、弾を込めたマガジンを詰めた作業鞄をつかんで外に出ていった。な、なんだ?


 ミサロに助けを求める視線を向けるが、薄く笑って弾込めをしているばかり。こちらを見ることはなかった。


 追究したいところだが、なんか触れてはいけないアンタチャブルな気がして止めておいた。


 しかし、入れても入れても減るほうが早いな。ミシニーたちにも手伝ってもらっても追いつかない。それに、そろそろスコーピオンの清掃と手入れしなくちゃならんのじゃないか?


 ミシニーたちのほうからマガジンを回収してくると、ミリエルがホームに入っていた。


「タカトさん、これから移動します。P90を持っていきますね」


「ああ。しっかりな」


 時間を争うような状況で無駄なことは言わない。信じて見送るだけだ。


「はい」


 ミリエルも短く返事し、三人でP90とマガジンを集めて、笑顔で出ていくミリエルを見送った。


 消えてからもしばらく見詰め、オレも意識を切り替えた。


「ミサロ。オレもいく。あとを頼むな」


「ええ。任せて。ホームはしっかり守って、皆が死なないよう準備するわ」


 うんと頷き準備を進める。


 最後にサイクロプスサングラス──ではなく、プランデットにボタン電池みたいなメモリーチップを取りつけ、自身の魔力を流し込んだ。


 初期起動に二分はかかるが、プランデットを使うために必要なこと。焦る気持ちを抑えて待った。


「──着用者の魔力を充電。認識ナンバー及び着用者の氏名を登録してください」


 女性の声が脳に直接伝わってきた。なんか脳がむず痒いな。


「30006055−ダルワ8−59−4418。イチノセ・タカト」


 最初の数字はマイナンバー(適当)で、ダルワ88は地区みたいなもの。最後はプランデットの個人番号(適当)だ。


「中央管理棟に接続できません。規定により簡易登録に切り替えます。登録完了。イチノセ・タカト様。クリアです」


 グラスのところにいろいろ数字が現れ、必要な情報、時間と温度、酸素量、マイセンズのマップを映した。


「まったく凄い技術だよ」 


 それでいて一万年もしないで滅びるとか、知的生命体ってなんだろうなって思うよ。


「準備よし。さあ、やるぞ!」


 覚悟と決意を込めて声に出し、外に出た。

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