第373話 クラスチェンジ

 プランデットの扱い方をあるていどまで教えたら、非常用扉を閉じて三人で眠りについた。


 本当なら異次元庫のように空気が抜ける造りになっているが、動力炉が死んでいるので、閉めたところで作動はしない。


 非常用扉も手動ロックなので中からも外からも開けるように造られている。ロースランには理解できないだろうから八時間はゆっくり眠れたよ。


 起きたらしっかり食事をし、用を済ませたら倉庫を出た。


 プランデットのお陰でライトを使うこともなく、暗い中を上に向かって昇っていった。


「止まれ」


 先頭をいくアルズライズが止まり、耳を澄ました。


「ロースランだ。足音から一匹だと思う」


 オレにはまったく聞こえないが、プランデットの動体反応センサーで探ると、確かに一匹のロースランがいた。


 三次元マップにロースランの位置とオレらの位置を映し、二人にも情報を送った。


「ご先祖様は凄いものを造ったんだな」


「そのせいで滅んだけどな」


 エルフが滅んだのはバイオハザード。動力を得るために生命体を弄って魔石を持つ魔物を創り出したのが滅びの始まりだったっぽい。


 地上に魔物が溢れ、自分らの住み処を奪われ、地下に逃げたものの、今度は機械兵を生み出し、AIの反乱的なことで滅んでしまった。


 どこまでも救われない種族である。命を弄び、機械に心を与えてしまったために滅ぼされるんだからな。


 ちなみに機械兵は動力炉が止まったことでエネルギーが切れてジ・エンド。四千年の歴史に幕を閉じましたとさ。


 ほんと、命を創る才能はないよな。ダメ女神に翻弄される命が哀れで仕方がないよ!


 まあ、オレもその一人だが、だからと言って諦められるほど死に寛容じゃない。いずれ死ぬときがくるとしてもそれは今じゃない。もっと先。ヨボヨボのじいさんになってからだ。


「アルズライズ。派手に殺すぞ。ここにオレらがいることを教えてやるためにな」


 それがミリエルたちを救うことになるし、アルズライズとミシニーがいるなら怖くはない。いや、負ける気がしない。信頼が形になったような二人だからだ。


「ああ、了解だ」


「哀れなロースランだ」


 ニヤリと笑うアルズライズ。フフと笑うミシニー。そして、オレは不敵に笑ってやった。


 三人同時に階段を昇り出し、ロースランの反応がある場所まで駆け抜け、アルズライズが右膝を狙って弾を撃ち込み、オレは左膝を撃ち抜いてやった。


 痛みに叫ぶロースラン。もっと叫んで仲間を、特異体を呼び寄せろ!


 ミシニーがラットスタットを抜いて振り伸ばし、ロースランの右手に突き刺した。


「さあ、どんなもんかね?」


 魔力を電気に変換。その威力を教えてくれるかのようにロースランが絶叫した。


「北と西からロースランがくるぞ! 数は八だ」


 ほんと、プランデットを手に入れられてよかった。いいものがあること教えてくれたことだけには感謝しておいてやるよ!


「少し下がるぞ。纏めて倒す」


 通路の奥へ誘い込み、いっきに畳みかける。


「タカト。ラットスタットの全力をやりたい」


「了解。アルズライズ。脚を狙うぞ」


 返事がくる前にロースランが現れたので、引き金を引いて先頭のヤツを転ばせてやった。


 先頭が転んだことにより二番目三番目が巻き込まれ、床に倒れ込んでしまった。

 

「ミシニー!」


「了解!」


 相変わらず魔法使いなのか忍者なのかわからない猛ダッシュ。壁を走り、天井を走り、倒れたロースランたちを越え、背後にいる四匹にリミッターを外したラットスタットを目にぶっ刺した。


 ──バン!

 

 との破裂音。な、なに?


 望遠にして見ると、ロースランの頭が吹き飛んでいた。なんで?


 ミシニーはそんな状況にも眉一つ動かさず、次のロースランにラットスタットを突き刺した。また目に。


 今度は頭が破裂することはなく、ロースランの手足が変な方向に角度を変え、硬直したのち失禁。倒れてしまった。


 結果を見たら次のロースランに。新しいラットスタットを抜いてまた目に刺して電撃。どうやら威力を調整しているようだ。


 三匹目で理解したようで、残り二匹をあっさり倒し、倒れて転んだ三匹も倒し手しまった。ミシニー金棒ラットスタットだな。


「これいいな。気に入ったよ。新しいのをくれ」


 ホームから取り寄せ、ミシニーに渡した。


「死滅の魔女から雷撃の魔女にクラスチェンジだな」


「クラスチェンジがなんなのかわからんが、電撃の魔女か。なんかいい響きだな」


 一度ポーチに差したラットスタットを抜いて振り回している、中二病発症か? 眼帯出そうか?


「タカト。ロースランはどうする?」


 おっと、そうだった。いずれ魔王のほうと戦っている同胞に会ったときのために魔石を集めておかねばな。


 特異体のためにチートタイムは残しておきたいので、マチェットを取り寄せて魔石を取り出し、若い個体を一匹を自力で血抜き。リヤカーに積んでホームに運んだ。


 休みながら外に出る道を探索していると、より大きい動体反応をキャッチした。


「特異体だ。まだオレたちを諦めてないようだ」


 完全に阿修羅モードに入っているようだ。


「そう簡単に諦められないものさ」


 自分と重ね合わせているんだろう。いつもの無表情になっていた。


「その周りに通常型が十六匹いる。特異体はアルズライズ。通常型はミシニー。オレは二人の援護。通常型を先に片付けていく」


 アルズライズにはバレットと換えのマガジンを二つ入れたケース鞄を。ミシニーにはプレートキャリアを着させ、ラットスタットが入るポーチを三つつけた。


 両手にも持たせたので全部で十一本。通常型をすべては倒せないが、アルズライズに近づけさせないようにするなら充分だろうよ。


 二人に安い防犯ベルを買ってもらい、ロースランの聴覚妨害に使ってもらう。


 それぞれの配置と動きを決めたらボス戦、いや、中ボス戦に挑んだ。

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