第374話 してやられた!

 防犯ベルで撹乱しているのに、特異体や通常型に戸惑いはない。覚悟を決めたかのようにその場から動くことはなかった。


「正面、出る!」


 ダボール7を構えたまま建物の中から飛び出し、ロースランの群れに向けて連射で撃ち込んでやった。


 オレは囮。あいつらの意識をオレに引きつけるのが役目。当たらなくても構わない。とにかく撃って撃って撃ちまくれ、だ!


「妙な知恵を身につけやがって!」


 どこかで見つけたのか、扉を盾にして弾を防いでやがるよ。


 すぐにマガジンを交換。防ごうがオレのやることに違いはない。手持ちのマガジンが尽きるまで撃ち続け、尽きたらグロックを抜いて撃ち出した。


 それで特攻してきてくれるなら思う壺なんだが、精鋭でも集めたのか、扉を盾に動こうとしなかった。こちらがちゃんと三人いることを理解してんだろうな。


「プラン2だ」


 追ってこないのなら構わない。そのまま建物の中に入った。


「アルズライズ。いいか?」


「いつでも構わん」


 プランデットから二人の会話が聞こえる。


「じゃあ、十五秒後だ」


「わかった」


 二人のやり取りを聞きながらマガジンを取り寄せ、ポーチに入れ、すぐに外に出ると、ミシニーが上階から投げたガソリンタンクをアルズライズが撃ち抜いたところだった。


 ガソリンの雨がロースランに降りかかり、そこにミシニーの炎が射たれて火炎の雨と変わった。


 さすがのロースランも慌て──たりせず、特異体がそのぶっとい腕を振って火炎の雨を払ってしまった。どんだけだよ!


 アルズライズが弾を腕で防がれたと言ってたが、あの腕に魔力を集中して防いでいるってことか。なら、そのがら空きの腹に弾をくれてやるよ!


 通常型も特異体の太ももまでしか防いでいない。特異体だけ仲間を振り切って育ちすぎなんだよ!


 八十メートルは離れているが、標的がデカいだけに大半が命中。とは言え、皮下脂肪がたっぷりとあるようで、致命傷となっている感じではなかった。


 守っていてはダメと判断したのか、特異体が叫ぶと通常型が五匹、オレに向かって走り出した──そこにアルズライズが撃ったSCAR−Hの弾が襲いかかった。まったく、なにをやっても並み以上にできる男である。


 マガジンを交換して五匹が抜けた穴をさらに広げてやった。


 死んではいないが、八匹が戦線離脱。残り半分。そして、特異体一匹だ。


 やれる! と思ったのが悪かったのだろうか。気づいたときには周囲をゴブリンな囲まれていた。


「ゴブリンだ! 周囲をゴブリンに囲まれた!」


 なぜだ? 勝てないとわかればさっさと逃げ出す害獣だぞ。こんなドンパチやってたら近寄ってきるわけがない。ロースランがゴブリンを操っているとでも言うのか?


「……いや、狂乱化だ……」


 意識の外にあって気がつかなかったが、ここ、もしかすると公園か? 周囲の建物が団地っぽい。それに、所々に散らばっている肉片はロンガルか?


「……オレらは、誘い込まれたのか……?」


 そんな知恵があるわけない、なんて考えるのは一級フラグ建築士。立てるどころか震度七にも耐えられそうなフラグを建てるようなもの。オレらはロースランにしてやられたのだ。


 ガソリンによる火葬か? いやダメだ。煙に追われて地上に逃げられたら困る。


 じゃあ、毒は? この閉じられた空間で? どれだけの量を? 仮にできとしてそのあとは? 毒があるところで動けと? 却下だ。


 ドライアイスも無理だ。ここでは二酸化炭素は溜まらない。流れてしまう。


 なんだ?! ここで有効な手段はなんだ? なにを使えば生き残れる? 考えろ、オレ!


 いや、落ち着けオレ。慌てるな。見方を変えろ。ゴブリンが押し寄せてくる? そう、チャンスじゃないか。大量駆除ができるんだからな。


「アルズライズ、ミシニー、密封できる場所を探して閉じ籠れ。一時間は出てくるな。ちょっと思いついたことをやってみる」


「わかった。無茶しないていどに無理をしろ」


「アハハ! タカトには言い得て妙だ」


「うっさいわ! ゴブリンが集まるまで時間がない、さっさといけ!」


 オレもホームに入り、玄関に設置した蛇口から水を全開にしてダストシュートから外に流した。


「タカト、どうしたの?」


 オレの不可解な行動にミサロが戸惑いながら尋ねてきた。


「特異体にしてやられた。罠に嵌められた。キャンプ用に貯めてたポリタンクの水も出すから。あと、水をパレット買いをしてくれ。三つで構わないから」


 それでも足りないが、あの空間だけならなんとかなるはず。一か八かだ。


「気をつけてね」


 動揺も不安も表さないミサロ。オレを信じて笑顔を見せていた。


「ああ。勝ってくるよ」


 オレも笑顔を見せる。勝機はあるんだ、絶望なんてしてらんないよ。


 外に出たらポリタンクを取り寄せていき、マルチシールドで斬り裂いていった。


 終わればパレット買いした水も取り寄せる。


「フフ。そっちも背水の陣か。だが、それはオレに取っての好機。最高のフィールドなんだよ」


 マルチシールドでパレットに積まれた箱を斬り刻むと、タイミングよく四方から、いや、建物の窓からも飛び出してきてるよ。まるでゾンビ映画だ。


「チートタイムスタート!」

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