第567話 バデットゴッズ

 ──ピィーーーッ!


 朝日を眺めていたら櫓から危機迫るような笛の音が放たれた。


 え? オレ、なんかフラグ立てた? オレが歩いたからトラブルに当たったの? 理不尽すぎんだけど!


「ミリエル! ホームからMINIMIとリンクスを持ってきてくれ! あと、RPG−7もだ」


 職員やマドット村の男たちは二日酔い中。動けるのはオレたちくらいだろう。


「はい!」


 とりあえずタボールX95とプレートキャリアを取り寄せて装備した。


 プランデットをかけ、櫓に上がった。


「なにがありました?」


「ゴッズだ! かなりの数がいる! 湖からかなり離れているのになんでだ?」


 尋ねられても困るが、なにかとんでもない事態になっているのは間違いないだろうよ。


 望遠にして見張りの男が指差す方向を見た。


「……なんだ? やけにフラフラ歩いているな?」


 それに、なんだか肌(皮か?)の色がなんだかどす黒い。目にも生気がない。まるでゾンビみたいだった。


「いや、ゾンビそのものだ」


 ミシニーからゾンビ──バデットがいるとは聞いていたが、まさか本当に遭遇するとは思わなかったぜ。


「ゴッズのバデットですね。数は四十五匹。まだ新鮮のようですね」


 バデットを研究した者がいないので、なぜ死体が動くかはわかっていないそうだ。悪い魔法使いの呪いやら怨念に動かされているとか様々。バデットになると燃やすしか倒す方法がないそうだ。


「バデットだって!? 本当なのか?!」


「特徴から言ってバデットでしょう。別のなにかと言う可能性があるかもしれませんがね」


 オレも話を聞いただけ。本物なんて見たことがないんだから断言できないわ。


「オレとミリエルが出て足を止めます。防備を固めてください」


 櫓から降り、ホームからMINIMIやリンクス、RPG−7をパイオニア五号に積み込み、運転をミリエルに任せ、オレは荷台に立った。


「ミリエルはバデットは知っているか?」


「お伽噺でなら知ってます。国を滅ぼした動く死体だと」


 この世界、本当に不安定だよな。逆に知的生命体を滅ぼそうとしているようにしか思えないよ。ほんと、よく五千年も続いたもんだよ。


「まずオレが試す! ミリエルは運転に集中しろ!」


「はい!」


 バデットにつっこんでもらい、距離が百メートルになってもらったら停止。MINIMIをつかんでバデットに向けて撃ち出した。


 なんで動いているのか謎だが、人体破壊されたら動くに動けなくなる。が、まだ肉体が腐ってないようで、筋肉に止められている感じだった。


「ミリエル。録画を頼む」


「わかりました」


 貴重なバデットの情報だ。しっかり録画して職員たちに共有しないとな。


 プランデットを外してイヤーマフをつけ、MINIMIからリンクスに持ち換えた。


「ミリエル。イヤーマフをしろよ」


「はい!」


 荷台から降り、リンクスのバイポッドを立てて地面に寝そべった。


 5.56㎜弾では進撃を止めることはできなかったが、弾丸が筋肉に食い込んだことで動きが多少なりとも鈍くなっている。


 仮にウィルスが原因だとしても、動くには肉体が必要だ。ってことは、空気感染はしないってことだろう。空気感染だったらこの世界はとっくにアポカリプスだわ。


 脚を狙って、なんてできないので腹を狙って引き金を引いた。


 さすがのバデットゴッズでも12.7㎜には勝てない。腹に風穴が開いた。次々と撃っていき、弾が切れたらマガジン交換。相手はゆっくり動いているから慌てることもない。


 二十発撃ったら止め、マガジンを交換したら荷台に置き、X95に持ち換えた。


「ミリエル、こい。援護を頼む」


「はい!」


 X95を構えたままバデットゴッズに近づいていく。


 すべてを無力化したわけじゃないが、四十五匹にはまんべんなく弾を食らわしてやった。これだけ肉体損傷すれば動くことはできんだろうよ。


「風穴が開いてんのに動くか」


 生きていたら出欠多量で死んでいるところだが、バデット化した状態では腕や脚が動いている。


「こちらに向かっているってことは、オレを認識できて、襲おうとしているってことか」


「ミリエル。こいつに回復魔法をかけてみてくれ。生きているか死んでいるか確認したい」


 生きているなら回復するし、死んでいるなら回復しない。なにかが回復するならそれが元凶だ。


「わかりました。やります」


 X95を構えながらミリエルに場所を譲る。


 なにか呪文や発光するわけではない。が、ミリエルの魔力が強くなったのは感じた。


「ダメですね。なにも回復しません」


 回復したらミリエルにはわかるそうだ。


「交代だ。警戒を頼む」


 イヤーマフを外し、プランデットをかけて熱反応を見る。


「体温はないか。それなら死後硬直が起こるはずなんだが、今も動いている。原動力、なによ?」


「魔法ではないですか? 呪法かも知れません」


 呪いか。まあ、それが妥当か。


 魔力反応に切り替えたら胸の辺りが強く輝いており、魔力が体中を巡っていた。


「……魔石になにかの魔法をかけたのか……?」


 原動力は魔石だろう。なら、人を襲う理由はなんなんだ? 魔力を奪うためか?


 魔石を取り寄せ、元気なバデットゴッズの前に放り投げてみる。


「やはり、魔力を求めているのか」

 

 魔石をガリガリと噛るバデットゴッズ。食わなきゃ摂取できないのかな。


 銃口を頭に向け、連射で撃ってやった。


 頭をなくしても動きは止まらない。魔石を破壊するか、魔力が切れるまで止まらない、か……。


 全身から血をすべて吸い出してやるが、バデットゴッズが止まることはない。草をつかんでこちらに這いずってきている。


「厄介だな」


 魔石に魔法がかけられているならつかむのは危険だ。


「燃やすか」


 汚物は消毒するのが一番。すべてのバデットゴッズから血を抜き、ガソリンをかけて燃やしてやった。

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