第176話 果報は寝て待て

 夜は静かに更けていき、何事もなく朝を迎えた。


 なにもない事が一番だが、せっかく用意したものが無駄に終わると言うのも切ないものだ。鳥よけネット、片付けるのメンドクセーなー。


「ビシャ。三時間くらい寝る。なにかあればすぐに起こしてくれ」


 起きてきたビシャにそう言ってすぐに眠りに落ち、揺さぶられて目が覚めた。


「──なにがあった?!」


 すぐにチェアから起き上がり、握っていたグロックを構えた。


「敵じゃないよ」


 と、ミシニーがいた。あれ? オレ、夢でも見てんのか?


「夢でもないよ。マルジィーさんの許可をもらってタカトたちを追ってきたのさ」


 頭がまだ働かなくて受け止められない。ちょっとコーヒータイムをいただきたい。


「──なるほど。状況は理解した」


 頭が目覚め、ミシニーの説明でやっと状況を把握できた。


「よく許可してくれたな、マルジィーさん。護衛ってそんなに融通が効くものなのか?」


「今回は特別だ。ルライズ商会はタカトに便乗した立場だからな、お前が戻ってこないとルライズ商会としても困る。タカトが無事戻ってこれるようわたしが送り込まれた、って感じだ」


 なるほど。そう言うことね。オレの利用価値、思う以上に高そうだ。ハハ。


「それで、今日もゴブリンを狩るのか?」


「ああ。洞窟の中に百匹。周辺には……三百以上はいるな。まずは洞窟のを駆除したら周りにいるのを軽く駆除していくつもりだ」


 中から出れないように、外からも入れないんだろうが、崩れて通れなくなったんだろうか?


「周りにそんなにいるのか?」


「ああ。隠れてこちらを伺っているな」


 ゴブリンは勝てないと悟れば逃げるが、隠れる場所があれば隠れることを本能的にやってしまう感じだ。


「ビシャ。メガネを貸してくれ」


 大人しくしているビシャからメガネを借り、ミシニーにかけさせた。


「赤いのが見えるだろう? それは生き物の熱を写しているんだ。体力があるなら狩ってくると──」


 最後まで聞かずに風のように森の中へと消えていき、ゴブリンを次々と駆除していった。ほんと、恐ろしい女だよ。


「ビシャ。朝飯食ったか? ミシニーが稼いでくれるそうだから好きなの食べていいぞ」


「朝はもう食べたからお昼にハンバーグ食べたい」


「よし。超高級なハンバーグを出してやるよ」


 オレはまだ朝食をいただいてないので胃に優しい甘酒をいただこうと思います。


 携帯コンロを出し、シェラカップに米麹の甘酒(アルコール0%)を移してほどよく温めたらいただきます。あー飲む点滴は美味い。


「タカト、それ美味しいの?」


「ああ美味しい」


 と短く答えたらビシャもシェラカップを出して甘酒を注いで温め始めた。


「これ美味しい! あたし好き!」


 そうかいそうかい。それはよかった。いっぱいあるからおっぱい──じゃなくて、いっぱいお飲みなさい。


「シャワー浴びてくる。しばらく頼むな」


 ホームに戻ると、ラダリオンはおらず、ミリエルが玄関を掃除していた。


「おはようございます。あまり眠ってないんですか? 隈が凄いですよ。体力、回復します」


 ミリエルの前に立ち、両手を繋いで体力を回復してもらった。


 眠気は多少あるが、怠さはなくなった。回復魔法マジ優秀。


「朝食が終わったら開始するそうです。マガジンが消えている間隔短いから結構な数がいるみたいですね」


 そっか。まあ、群れてないようだから問題はないだろう。


 こちらの状況を話したらユニットバスに向かい、熱いシャワーを浴びて眠気を洗い流した。


 下着だけ新しくして装備はVHS−2からスコーピオン装備に換えた。ゴブリンしかいないなら9㎜弾で充分だろう。


「ミリエル。昼にまた戻ってくるよ」


 そう告げて外に出た。


「ミシニーは元気に殲滅中か。一匹たりとも逃さないって意志を感じるぜ」


 まったく、その意志と体力が羨ましい。どちらか分けてもらいたいよ。


「ビシャ。村のほうの様子を見てきてくれるか? 村の連中と接触する必要はないから」


「わかった」


 ビシャが様子を見にいってる間、洞窟に立て籠るゴブリンの気配を探った。


 ゴブリンの気配は大きく二つに分かれている。洞窟の入口から奥に入ったところに約五十。中腹辺りに十二。あとは通路と思われるところを移動している。


「ん? 一匹外に出たな」


 中腹辺りから出て、また戻ってしまった。様子見か?


 すぐにそこに向かうと、ゴブリンが一匹通れそうな岩の裂け目があった。


「お、中腹の塊が動き出した」


 ゴブリンに言語があるのかわからないが、中腹に固まっていたゴブリンがこちらへ向かってきた。


 岩に背をつけ、近くまできたら裂け目に銃口を突っ込んで引き金を引いた。


 一列に移動してきたからか、殺せたのは一番前にいたヤツだけ。だが、二番目三番目がつっかえたみたいで、自ら栓となってしまった。哀れな……。


 まあ、哀れむことはできても罪悪感は湧いてこない。枯れ枝を集めてきて裂け目に突っ込んで塞いだ。


「悪いな。オレのために死んでくれ」


 枯れ枝にライターで火をつける。


 煙が外に出てくるが、少しは中に流れていくはず。うん。ゴブリンが逃げ出した。


 その気配を追って登っていくと、また岩の裂け目があり、その奥(下)からゴブリンの気配を感じた。


 ホームから催涙ガスグレネードを持ってきて、ピンを抜いて裂け目へとポイ。中で破裂した。


 催涙ガスは重いから下へと流れていくはず。上がってこないのを確認したらもう一つ。これで死んでくれるといいんだがな。


 果報は寝て待て。アジト(パイオニア)に帰りましょう。

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