第177話 嫌な予感

 一時間くらい過ぎたら洞窟のゴブリンが死に始めた。


 徐々に気配が小さくなっていき、蝋燭の火が尽きるようにゴブリンの気配が消えていった。南無阿弥陀仏。次はダメ女神に適当に創られた命になんか生まれるなよ。


「ところで、南無阿弥陀仏ってなんの宗派だったっけ?」


 無宗教な今時の日本人。うちが何宗かなんて知るわけもなし。そもそも宗派がなんなのかも知らんわ。空海とブッタの違いも上手く説明できねーよ。セイント☆オニーサンなら読んでたけど。


 昼になり、五十匹以上が天へと召されました。アーメン。


「ビシャ。昼を用意してくるからここを頼むな」


 村の様子を見にいってくれて、ミシニーの邪魔にならないよう待機してたビシャに任せてホームに戻った。


「お、ラダリオン。そっちはどうだ?」


 ほんの数秒前に戻ってきたのか、玄関にラダリオンがいた。


「順調。二百匹は駆除したと思う」


「そうか。順調でなによりだ」


 もう二百匹が凄い数に感じられなくなっている自分がいる。これはちょっと危険な兆候だ。気を引き締めんとそのうち大怪我するぞ。初心忘るべからず、だ。


「こちらもミシニーがきて一人無双状態だ。もう少しで三百匹に届きそうだよ」


 タブレットで昼飯を買いながら状況確認し合い、それぞれの場所に昼飯を運んだ。


「よく動く飲兵衛だよ」


 もう三時間近く動き回り、三百匹に届きそうなくらい狩っている。どんな体力オバケなんだか。


 笛を鳴らして昼なのを教える。そろそろバーサーカーモードを停止しないと修羅道に突入するぞ。


 しばらくしてミシニーが戻ってきた。全身汗だくで。どんだけ夢中になってんだよ……。


「ほら、水を飲め」


 ペットボトルを渡し、飲みほしたらタオルを渡した。


「ビシャ。悪いが、トレーラーからバスタブと湯沸し器、シャワーを出しておいてくれ」


 湖で使おうと思って、折り畳みバスタブ、携帯湯沸し器、ポータブルシャワーは積んでいたのだ。


「水はどうするの?」


「こんなこともあろうかと用意してた」


 ふっふっふっと笑い、ホームから折り畳み式リヤカーを牽いてきた。 


 リヤカーには十八リットルのポリタンクを四つ積んである。まあ、四つじゃ足りないが、ポリタンクはまだ六つ、満タンにして常備してある。


 折り畳みバスタブに水を入れて湯沸し器を投入。発電機を動かしてコンセントを差す。


「ミシニー。湯が沸いたら風呂に入れ。下着はそこの籠に入れな。洗ってくるから」


 湯が沸いたらテントの陰に移動。入浴シーンを見たいわけ……なくもないが、殺されたくはない。ビシャ。あとはよろしく。


 缶コーヒーを飲みながら待っていると、ビシャが籠を持ってきたのでホームに洗濯しに向かった。


 下着に欲情するタイプではないので洗濯機に放り込み、スイッチオン。終わるまでP90のマガジンに弾込めをした。


 三十分もしないで洗濯は終わり、乾燥機に移して乾燥。終われば籠に入れて戻った。


「いい湯だったよ」


 バスタオルを巻いて缶ビールを飲むスレンダー美女。前もそうだが男の前で無防備なやっちゃ。まあ、返り討ちにされる未来しか見えないから欲情も起きないけど。


「そうか。ビシャ。湯がまだあるならお前も浴びてこい。オレは洞窟を見てくる」


 スコーピオンをつかんで昨日、催涙ガスグレネードを放り投げた裂け目に向かった。


「フー。疲れた」


 あまり眠ってないから体が重い。ちょっと山を登っただけなのに疲労感がハンパないぜ。


 三千円する栄養ドリンクを飲み一息。魔法で体力回復しても体力消費が激しいように思う。やはりちゃんと食べて眠るのが一番の回復法なんだな。


「……しかし、まだ生きてるのがいるな……」


 残り三十匹、ってところだろうか? なかなかしぶといのが生き残ってる感じだ。


 気配から細かい情報は得られないが、どうも嫌な感じがするんだよな。なんかこう、逃したら不味いって。


「ゴブリンに関してだけは勘がよくなるから捨てておけないんだよな~」


 これは採算度外視で倒しておかないとダメだろう。ほんと、洞窟の中になにがいるんだ?


 ホームからガスボンベを持ってきて裂け目から灯油を十八リットル流し込み、火をつけた。


 十八リットルじゃ大した効果もなかろうが、これは試しだ。洞窟に灯油を流した経験ないし。どうなるん?


「……あれ? なんか煙の勢い凄くね?」


 中に引火物でもあったのか? 裂け目から出る黒煙がハンパないぞ。


 ゴブリン一匹が通れる裂け目に向かうと、逃げ出そうとするゴブリンがこちらに向かってくるのがわかった。


 昨日殺したゴブリンでつっかえているはずだが、必死になってるゴブリンにはわからない。ギャーギャー騒いでいた。本当に元気な生き物だよ。


 こちらからも煙は出てるので、スコーピオンだけ裂け目に突っ込んで連射で撃った。悶え死ね。


「ん? なんだ? 二十匹くらいのがこっちに向かってる?」


 それも凄まじい速度だ。マーヌの群れか?!


 すぐに降りて、パイオニアに向かう。


「ビシャ! ミシニー! ゴブリンの群れだ! 戦闘準備をしろ!」


 トレーラーからMINIMIをつかみ、ゴブリンが向かってくる正面に走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る